【テクニカルレポート】動画像符号化の新規格HEVCに向けた高効率な重み付き画素値予測技術……東芝レビュー 3ページ目 | RBB TODAY
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【テクニカルレポート】動画像符号化の新規格HEVCに向けた高効率な重み付き画素値予測技術……東芝レビュー

ブロードバンド テクノロジー
図1. HEVCエンコーダの処理構成
  • 図1. HEVCエンコーダの処理構成
  • 図2. 重み付き画素値予測技術
  • 図3. フェードイン・フェードアウト画像
  • 図4. WP技術導入による画質改善効果
  • 図5. H.264/AVCの暗黙的モード
  • 図6. 改良手法の暗黙的モード
  • 図7. 予測誤差の傾向

3.2 WPを改良した暗黙的重みパラメータ導出技術
 暗黙的モードでは,双方向予測で用いる二つの参照画像と予測画像の時間距離比を算出し,重み係数を算出していた (図 5)。しかし,この方法ではオフセットを利用できないだけでなく,同じ参照画像を用いた双方向予測や単方向予測で暗黙的モードが利用できない問題がある。

 そこで,3.1節の重みパラメータ導出手法を暗黙的モードに拡張した(1)。暗黙的モードでは,エンコード側とデコード側で 同一の重みパラメータ導出処理を行うため,入力画像が利用できないうえ,復号処理が完了していない画像から画像特徴量を計算できない。そのため,既に復号処理が完了している二つの参照画像からそれぞれの画像特徴量を計算した後,内挿又は外挿予測することで予測画像の画像特徴量を導出する。予測画像の画像特徴量が求まれば,3.1節と同じ枠組みで二つの画像の重み係数とオフセットを導出できる(図 6)。この手法により,単方向予測にもWPを用いることが可能になる。

 3.1節と同様に,H.264/AVCベースの暗黙的モードと開発手法を評価した。現行手法が適用できない単方向予測だけを用いる低遅延符号化条件において,同一画質で最大50%の符号量が削減できた。

3.3 画面内予測を考慮した直交変換技術
 HEVCの画面内符号化では,画像の空間相関を利用して画面内予測と直交変換を行うことで圧縮率を向上させている。画面内予測は,参照画素の平均値を予測値として用いる平均値予測,予測画素位置に応じて参照画素の内挿処理を行う平 面予測,及び参照画素を最大33方向に外挿する方向予測の合計35モードがある。エッジや平たん部などの局所的な特徴に基づいて最適なモードを選択することで,空間方向の画像の冗長性を削減できる。直交変換は,図1に示した量子化や可変長符号化と組み合わせて,画面内予測や動き補償予測で発生した予測誤差を圧縮しやすい信号に変換する技術である。現行規格の直交変換では,予測誤差に対して水平・垂直方向に離散コサイン変換(DCT:Discrete Cosine Trans- form )を行い,画像信号を2次元の周波数成分に変換している。DCTは,自然画像などの主に低周波数成分から構成される画像に対して有効な変換手法であり,空間相関の高い画像に対してカルーネン・レーベ変換( KLT: Karhunen - Loeve Transform)の近似として扱えることから,従来の動画像符号化規格で広く用いられてきた直交変換である。

 しかし,画面内予測によって発生する画素ブロック内の予測誤差の分布は,空間相関の影響で偏る傾向を持っており,必ずしもDCT が最適な直交変換とは限らない。例えば,動き補償予測によって発生する予測誤差の分布は画素位置によらずほぼ一様である(図7(b))。一方で,画面内予測によって発生する予測誤差は参照画素からの距離が大きくなるにつれて増大する傾向を持っている(図7(a))。

 この偏りを利用して,画面内予測のモードごとに最適な変換行列をあらかじめ設計しておき,モードごとに切り替えることによってDCTよりも圧縮しやすい信号に変換できる。

 当社は,直交変換行列を1種類追加するだけで符号量を削減する新直交変換手法を開発した(2)。開発手法では,画素ブ ロック内の予測誤差の傾向を次の二つに分類する。

(1) 画素ブロック内で予測誤差が一様
(2) 画素ブロック内で予測誤差が変化

 (1)の傾向を示す場合にはDCTを,(2)の傾向を示す場合にはあらかじめKLTに基づき設計した変換行列を適用する。このように,画面内予測の予測誤差の傾向に従って直交変換を切り替えることで,符号量を削減しながらメモリの増大を抑えることが可能になる。

 開発手法をHMに組み込んで符号量削減効果を評価したところ,全モードに対してDCTだけを用いる場合と比べて,同一画質で2%の符号量が削減できた。

4 あとがき

 H.264/AVCがタブレットやTVなどのデジタル機器に幅広く浸透し,映像を身近に,簡単に視聴できる環境が整いつつある。動画像符号化の新規格HEVCの実用化により,この流れが更に加速し,今までになかった新しいサービス形態やアプリケーションへの展開が期待される。

 当社は,今後もHEVC 標準化への参画企業として積極的に活動していくとともに,HEVCを用いた新しい製品やサービスに向けた研究開発を継続していく。


■文 献
(1) Tanizawa, A. et al. "Multi-directional Implicit Weighted Prediction Based on Image Characteristics of Reference Pictures for Inter Cod- ing". Proc. 2012 IEEE International Conference on Image Processing (ICIP 2012). Orland, FL, USA, 2012-10, IEEE. 2012, p.1545-1548.
(2) Yamaguchi, J. et al. "One-Dimensional Directional Unified Transform for Intra coding". Proc. ICIP 2011. Brussels, Belgium, 2011-09, IEEE. 2011, p.3681-3684.

【執筆者紹介(敬称略)】
・谷沢 昭行 TANIZAWA Akiyuki
研究開発センター マルチメディアラボラトリー研究主務。 画像信号処理及び動画像符号化処理の研究・開発に従事。映像情報メディア学会会員。Multimedia Lab.
・山口 潤 YAMAGUCHI Jun
研究開発センター マルチメディアラボラトリー。画像信号処理及び動画像符号化処理の研究・開発に従事。Multimedia Lab.
・中條 健 CHUJOH Takeshi, D.Eng.
研究開発センター マルチメディアラボラトリー主任研究員, 博士(工学)。動画像符号化処理の研究・開発に従事。電子情報通信学会,映像情報メディア学会,IEEE会員。Multimedia Lab.

※本記事は株式会社東芝より許可を得て、同社の発行する「東芝レビュー」Vol.68 No.2(2013)収録の論文を転載したものである。
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