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【テクニカルレポート】スマートメータ用マルチホップ通信システム(後編)……パナソニック技報

ブロードバンド テクノロジー
第5図 隣接仮想セルのチャネル情報収集
  • 第5図 隣接仮想セルのチャネル情報収集
  • 第6図 チャネル割り当てシミュレーション結果
  • 第7図 実環境評価の様子
  • 第8図 ルーティング負荷の実測結果
  • 第9図 親機停止時のセル変更所要時間
  • 第10図 電波伝搬シミュレーション例
  • 第11図 生成されたルート
  • 第12図 シミュレーションと実測のルート比較
※前編はこちら

4. 動的周波数チャネル割り当て
4.1 課題
 マルチホップ通信における周波数チャネル割り当てに関しては、リンクごとにチャネルを変えて周波数再利用効率やスループットを高める研究が行われているが[4]、端末が複数の無線インターフェースを備えることを前提としたものが多く、低コストのシステムには適さない。ここでは、単一の無線インターフェースを前提とし、マルチホップ仮想セル内では同一のチャネルを用いるものとする。

 第5図において、隣接セルが同一チャネルを利用している場合、セルの境界付近の端末において干渉が発生する。したがって、干渉を低減するよう適切に周波数チャネルを割り当てることが重要である。チャネル割り当ては、FCA(Fixed Channel Allocation)とDCA(Dynamic Channel Allocation)に大別できるが、動的に変化する環境に適応するには、DCAが必須である。チャネル割り当ては、グラフ理論の頂点彩色問題であり、NP完全問題に相当するため、実用的な時間で完全な解を求めるのは困難である。無線LANのアクセスポイントのチャネル割り当てにおいて発見的解法が研究されているが、上位の管理装置で割り当てを行う集中型や、アクセスポイント間の通信を必要とするものが多い。分散型[5][6]の方式も提案されているが、マルチホップ通信への適用は想定されていない。

4.2 分散型チャネル割り当てアルゴリズム
 マルチホップネットワークにおいて、親機間の通信を必要としない完全分散型でのチャネル割り当てを実現する。親機同士は距離が遠く、隣接チャネルの情報を直接把握することは困難であるため、セルの境界付近に位置する端末が隣接セルで使用しているチャネルを検出する。検出した隣接セルのチャネル情報は、第5図に矢印で示したように親機に通知する。チャネル情報収集のための新たなパケットを設けず、ルーティングパケットを利用することにより、トラフィック増加を抑止している。収集したチャネル情報をもとに、親機では隣接セルとの干渉有無を判断し、干渉発生時には、ほかの未使用チャネルを、未使用チャネルがなければ最も使用数が少ないチャネルを選択する。候補が複数ある場合は、ランダムやチャネル番号の小さいものを選択する方法[6]があるが、複数のセルが同じチャネルに変更してしまう可能性が高い。これを回避するため、固有ID( 例:親機のアドレス)を用いて、チャネル変更を行うセルを限定する。

 ただし、完全に限定せずに、変更確率をIDの確率密度関数とした。また、SA(Simulated Annealing)要素を加味し、干渉状態の悪化を確率的に許容した。これらにより、チャネル割り当ての局所解からの脱出を図り、最適解への早急な収束を可能とした。セル100個を六角格子配置し、シミュレーションを行った結果を、第6図に示す。利用周波数は4チャネルで、割り当て結果を色分け表示した。

 (a)は親機付近のチャネル干渉状況を検出して割り当てを行う従来方法であるが、隣接セルでチャネルが重複している箇所が多い。これに対し、(b)に示した開発方式ではほとんど重複がなく、少ないチャネル数で効率よく割り当てられている。

5. 実環境における性能評価
5.1 マルチホップ通信性能
 本プロトコルを950 MHz特定小電力無線に適用した場合の性能を検証するため、当社構内の300 m×500 mの範囲に約130台の端末を設置し、性能評価を行った。多数の端末を模擬するエミュレーション動作を併用し、2000台規模の環境を模擬している。 変調方式はGFSK(Gaussian Frequency Shift Keying)、送信出力は10 mW、伝送速度は40 kbpsである。構内はトラックなどの往来が頻繁にあり、伝送環境変化が発生しやすい。メータが取り付けられる高さを想定して、端末は街路灯や建物側面の地上2 mの高さに設置した。実験環境の様子を、第7図(国土地理院2007年撮影空中写真を使用)に示す。

 四角のアイコンは端末を、実線はルートを表しており、1 ~ 4ホップのルートが生成されている。最もトラフィックが多い親機付近でパケットを観測した結果を、第8図に示す。なお、端末2000台の環境を模擬するため、HELLO送信間隔を短縮して15秒としている。ルーティング負荷は1 kbps以下で、第3図における2000台の場合と同等である。この環境において、遠隔検針を想定したアプリケーション層の通信エラー率を測定した。1秒ごとに通信を行い、3日間測定した際のエラー率は5×10-3 程度であった。これは、アプリケーション層の再送を行わない値である。再送を含めた場合の通信エラーはゼロであり、十分な信頼性を得られている。

 次に故障や保守によって停止した場合に、ほかのセルに変更してルートを再生成するまでの所要時間を測定した。第9図に示すように、停止した親機に属する端末がルート喪失検知し、新たにルート生成するための所要時間は、いずれもホップ数に比例する。HELLOによってルート喪失検知や生成を行っており、1ホップ増すごとにHELLO送信間隔分の遅延が増えるためである。おおむね、HELLO送信間隔の数倍~十倍程度の所要時間であり、環境に適応して早急なルート変更が可能であるといえる。なお、端末が停止した場合も、同程度の所要時間でルート変更が可能である。

5.2 シミュレーションとの比較
 実環境での性能評価は重要であるが、工数、費用の面で負担が大きく、多箇所で実施するのは困難であるため、シミュレーション活用が望まれる。ルーティングプロトコルのシミュレーションにおいては、レイヤ2以上を重視し、電波伝搬は自由空間モデルや統計的伝搬モデルを用いるのが一般的であるが、建物の形状や分布密度、道路幅などに依存するため、実環境とは合わない場合がある。そこで、3D地図データを用いた電波伝搬と、プロトコルの総合的なシミュレータを開発した。

 第10図は、構内で実際に端末を設置した位置に送信点を置いて、レイトレース法による電波伝搬シミュレーションを行った例である。さらに、上位プロトコルのシミュレーションを行って生成されたルートを、第11図に示す。同一品質のルートが複数ある場合、HELLO受信タイミングなどの確率的要素によって選択されるため、実測と若干異なる部分もあるが、おおむねよく一致している。また、第12図に示したルートのホップ数分布も実測と非常に高い一致性を示した。したがって、さまざまな場所での実環境性能をシミュレーションで高精度に予測可能であるといえる。

6. まとめ
 低トラフィックでのルート探索が可能なルーティングプロトコルを開発し、大規模ネットワークに対応可能なマルチホップ通信システムを実現した。機器の停止や、伝送環境の変動に対する追随性を高め、さらに分散型の動的周波数チャネル割り当て法によって、システム導入設計や運用の省力化を可能にした。実環境評価で十分な性能があることを確認するとともに、シミュレーションによる実環境性能予測を高精度で行えることを示した。電力安定供給や環境調和型社会の実現に向けて、スマートシティが注目を集めている。これは、エネルギーを統合管理し、再生エネルギーや蓄電池などを組み合わせて、地域全体でのエネルギー利用効率を高める社会システムであり、国内外で社会実験やプロジェクトが活性化している。

 当社では、PLC方式などのスマートメータを既に実用化しているが、対象領域は必ずしも十分ではない。今後、900 MHz帯無線を用いたスマートメータや、無線/ PLCハイブリッド型のシステムを早急に実用化するとともに、HEMS(Home Energy Management System)などとの連携を図り、スマートメータの本格的な普及に貢献することが重要である。

●参考文献
[4] A. Subramanian et al., “Minimum interference channelassignment in multiradio wireless mesh networks,” IEEE Trans. Mobile Computing, vol.7, no.12, pp.1459-1473, 2008.
[5] D. Leith et al., “A self-managed distributed channel selection algorithm for WLANs,” Proc. of IEEE RAWNET, pp.1-9, 2006.
[6] R. Akl et al., “Dynamic channel assignment in IEEE 802.11 networks,” Proc. of IEEE PORTABLE, pp.309-313, 2007.

●執筆者紹介
岡田幸夫 Yukio Okada
エコソリューションズ社 エナジーシステム事業グループ
土橋和生Kazuo Dobashi
エコソリューションズ社 技術本部
梅田直樹Naoki Umeda
エコソリューションズ社 エナジーシステム事業グループ
佐々木貴之Takayuki Sasaki
エコソリューションズ社 エナジーシステム事業グループ
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