【スマートグリッド最前線(Vol.1)】被災地復興支援としてのスマートグリッド | RBB TODAY

【スマートグリッド最前線(Vol.1)】被災地復興支援としてのスマートグリッド

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被災地にグローバルスタンダードとなり得るスマートグリッドを構築することは、復興策として生産性が高い
  • 被災地にグローバルスタンダードとなり得るスマートグリッドを構築することは、復興策として生産性が高い
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 東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた未曽有の広域災害、東日本大震災。地震後の津波によって、東日本の沿岸部では多くの都市が建造物からインフラまで丸ごと流失。また福島第一原子力発電所が致命的な放射能漏洩事故を起こし、再稼動が絶望的という深刻な事態も続いている。地震の影響は震源地から比較的離れた首都圏にも及び、広範囲にわたって停電が発生するなど、電力不足が発生した。

 「これまで日本の電力システムは、大型の発電所で電力をまとめて起こし、それを全国に張り巡らせた送電網を通じて消費地に分配するというやり方が主流でした。非常に効率的にできている半面、大規模災害が起こると融通がきかず、復旧にとても時間がかかる。今回の震災でそれがハッキリしたと思います」

 電力関連のソフトウェア開発プロジェクトを指揮した経験を持つ重電メーカーのある上級エンジニアは、震災被害からの復興について語る。

 「今の大規模な送電システムは技術的な成熟度が高いのですが、それだけに柔軟性に欠けています。電気エネルギーに関する新技術が生まれても、古いシステムをその新技術と調和させるのに手間がかかるため、どうしても大規模な技術革新には消極的になりがちでした。しかし、今回の震災の被害はあまりに大きいため、昔ながらのやり方に固執するメリットはあまりありません。復興にあたっては、スマートグリッドをはじめとする次世代技術を積極的に投入して、技術の進化を図るべきだと思います」

 スマートグリッド――直訳すると、知的送電網となる。何が知的かというと、電力をただ送るだけでなく、電力需要に応じて電力を蓄えたり、それを放出したりする機能を持っていること。

 今日の送電網は基本的に、発電所から電力消費地に向かって一方通行で電力を流すだけだ。大規模な発電所を中心に運用するだけならそれで充分なのだが、たとえばお天気任せなうえに夜は発電できないソーラーパネル、風次第で発電量が変わる風車など、規模が小さく、安定性にも欠ける再生可能エネルギーを接続するのには不向きだ。

 電力を蓄えられるスマートグリッドならば、再生可能エネルギーによる発電装置が機能するときに発電できるだけ発電しておき、必要な時に蓄えた分を放出することで、電力需要に対応できる。「それが極め細やかにできるだけの技術が確立され、インフラ整備を進めるだけの資金を投入できるなら、スマートグリッドにしたほうがいいに決まっている」(トヨタ自動車首脳)という意見が、世界的にみても主流だ。

 日本のみならず、世界各国が導入を目指してスマートグリッドの研究開発競争を繰り広げているが、各国とも大規模実証実験に取りかかるにも四苦八苦しているのが実情だ。スマートグリッドをどういう作りにすれば素晴らしい物になるのかという定見がまだ得られていないうえ、現時点では実証実験ということを考慮してもなお膨大な資金がかかってしまうからだ。

 その状況は日本も同じなのだが、今回の不幸な震災は日本のスマートグリッド技術を進化させる契機となる可能性がある。福島第一原発の事故によって、原発を増やしさえすれば当面のエネルギー問題が解決するというこれまでの国の構想が一気に崩れている。太陽光、風力、地熱、小規模水力など、自然由来の再生可能エネルギーを開発する必要が急速に増すにつれて、それを効率的に運用するためのスマートグリッドが現実問題として必須技術になりつつあるのだ。理想を追うのと必要に駆られるのとでは、得てして後者のほうが技術革新のスピードは速いのだ。

 もうひとつは、冒頭で述べたように津波で洗われた被災地のなかには、道路、通信網、電力網など、ライフラインがことごとく全壊し、ゼロから作り直す必要が生じていることだ。スマートグリッドを既存の電力網と調和させながら普及させることは、技術的にはいろいろ難しい課題があるとされている。が、

 「最初からスマートグリッド化を前提に再構築する場合は話は別。既存の電力網と調和させることが可能な技術として、小規模な実証実験においてすでに成果を出せているものがたくさんあります。それらを実際に投入すれば、太陽光や風力などのクリーンエネルギーをミックスした先進的なインフラを持つ都市や町に生まれ変わらせることができます」(電設メーカー幹部)

 被災地をどのように復興させるかということについて、政府は今のところ、確固たる方針を打ち出せないでいる。インフラをゼロから作るには、どのみち巨額の費用がかかることを考慮すると、さらにプラスアルファのコストを支払って最新鋭の日本発テクノロジーを投入し、グローバルスタンダードとなり得るスマートグリッドを構築することは、復興策として生産性が高いというものだ。

 もちろん、被災地の復興には先進性とともに、迅速さが必要だ。被災者は生活や経済活動を支えるに耐えるレベルのインフラが復旧するのを5年も10年も待ってはいられない。当面、導入するクリーンエネルギーは太陽光、風力、小水力など、強力さはないが比較的短期間かつ低コストなものが主体となる。それらを活かすためには、スマートグリッドの中でも規模の小さい、マイクログリッドと呼ばれる技術が有望だ。エネルギー政策に詳しいコンサルタント、柴田栄彦氏は、次のように語る。

 「期待が一番持てるのは、民家数十軒といった中規模のコミュニティ単位で電力を融通し合いながら“地産地消”するシステムではないか。電力業界には既存の利権を守ろうという力学があるから、大規模システムか、家一軒かといった選択肢しか示さないが、再生可能エネルギーのエネルギーを考えると、発電設備、蓄電設備を小規模なコミュニティで共有するシステムが最も効率がいいと思う」

 マイクログリッドをあちこちで構築しておき、後でそれらをネットワーク技術で結合すれば、結果的に大きなスマートグリッドが組み上がっていくことにもなる。被災地をスマートグリッド特区に指定し、日本の次世代のグランドデザインの発信地としていくことは、技術立国としてぜひ目指したいところではなかろうか。

 今後、スマートグリッドの技術を持った企業のキーマンに取材し、最先端の動向をこのコーナーで逐次お伝えしていくこととしたい。
《井元康一郎》

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