【テクニカルレポート】LED電球……シャープ技報 | RBB TODAY
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【テクニカルレポート】LED電球……シャープ技報

IT・デジタル 周辺機器
図1 国内電球市場動向(光源別)
  • 図1 国内電球市場動向(光源別)
  • 表1 海外の白熱電球をめぐる動向
  • 図2 LED 電球のランナップ(2010年5月時点)
  • 表2 LED 電球のランナップ(2010年4月時点)
  • 図3 LED 電球(DL-L 601 N)の構造概略図
  • 図4 散乱材の塗布量を変えた場合の配光特性の変化
  • 表3 散乱材の塗布量を変えた場合の配光特性の変化。カバー無しの状態を100%として比較
  • 図5 DL-L 60 AV の,調色動作時の発光スペクトルの変化
※同記事は、シャープ株式会社が2010年8月に発行したシャープ技報(No.33)の転載記事。

 地球温暖化防止、環境保全への取り組みが世界レベルで拡大する中、長寿命、低消費電力、かつ製品に水銀を含まない、という優れた環境性能を持つLED 電球が大きな注目を集めています。シャープの健康・環境システム事業本部では、2009 年7 月にE26口金のLED電球9機種の量産を開始し、続いてボール型電球、E17口金のLED電球を量産化しました。本稿では、これらのLED電球の概要を紹介します。

1. はじめに

 2009年6月の洞爺湖サミット以降、照明市場においてもCO2削減の取り組みが加速しています。発光効率(消費電力に対する明るさの比率)の低い白熱電球からの転換が世界的に始まっています。オーストラリアでの白熱電球の全廃の方針表明に続き、EUなどでは発光効率の低い電球の販売を抑制し、省エネ型電球への転換を促す動きが始まっています。表1に白熱電球をめぐる各国の動きの一例を示します。

 図1は、当社で推定している電球市場の動向です。今後、省エネ型の電球への切り替えの流れが加速し、2012年には全体の四分の三以上が省エネ型電球になると推測しています。

 省エネ型電球の一つとして、大きな期待がかかるLED電球は、光源となるLEDが、長寿命、低消費電力、水銀レスと優れた環境性能を持っています。また、発光スペクトルに含まれる赤外線、紫外線、が少ないことから、照らされた物体の温度が上がりにくい、虫が寄りにくい、といった効果も期待されています。しかし、こういった優れた特徴を持つLED電球ですが、これまでは充分な明るさが得られない、製品価格が高額であることなどから普及が進んでいませんでした。

 こうした市場の中で、当社は2009年7月からコストダウンを図ったLED電球の発売を開始し、大きな反響を得ています。2010年4月時点では、図2に示すE26口金用を11機種、E17口金用を2機種をラインナップしています。本稿では、これらのLED 電球に採用された技術の紹介を行います。

2. LED 照明器具に用いた技術紹介

(1)

 放射される光には熱として感じる赤外線がほとんど含まれません。したがって、照らされた物体が熱くならない事が特徴となるのですが、一方で、LED や電源回路で発生する熱はLED 電球本体にとどまるため、熱伝導や、輻射により逃がす必要があります。図3に、E26口金型のLED電球の構造概略図を示します。

 光源となるLED は、ガラスカバー内部のアルミニウム製のLED 実装基板に搭載されます。LED で発生した熱は、LED 実装基板を経て、筐体(アルミニウム製ヒートシンク)へと熱伝達で伝わり、輻射により外へと放熱されます。

 もう一つの熱源である電源回路は、筐体(アルミニウム製ヒートシンク)の内部に、絶縁ケースを介して設置されています。半導体部品などで発生した熱は、筐体(アルミニウム製ヒートシンク)へと熱伝達で伝わり、やはり、輻射により外へと放熱されます。電源部での発熱量が多い場合は、より熱を効率よく伝えるため、熱伝導性の樹脂で回路全体を包み、熱を外に出やすくしています。絶縁ケースは、電源回路からの放熱という面ではマイナスに働きますがが、使用上の安全を確保するため、筐体と口金との絶縁、また、筐体と電源回路との絶縁、を行うため必要な構造材です。

(2)カバーガラス

 従来の白熱電球は、口金以外はガラスで形成されており、後方(口金方向)にも光が放射されています。一方、LED 電球に使うLED は、ほぼ100%の光が前方のみに放射されます。照らしたい部分だけを明るくする目的ではLED の配光特性は有利ですが、天井にLED 電球を吊った場合の部屋の照明では、後方、すなわち天井にも少し光を放射させる方が、白熱電球の代替としての違和感が抑えられます。その視点で、配光特性や、光束量からカバーの最適化を行っています。

 図3の構造図に記したカバーガラスはほぼ半球状で、内面にカルシウムを主剤とした散乱材を塗布しています。その塗布量によって、ガラスカバーの透過率や散乱度合いが調整できます。図4に、ガラスカバーの透過率を調整した場合の配光特性の違いと数値を表3に示しました。表3に示すように、カバーガラスの無い状態は、LED単体の放射特性となり、半値全幅は120°となり、電球の後方に放射されている光量はほぼ0となります。これに対して、散乱材を塗布したガラスカバーを取り付けることで、後方への放射が増えます。これは、LED からの光が、カバーガラスの内面の散乱材で散乱され、新たな発光点として機能するため、LEDの実装位置からは見えない後方への配光が起こることによります。このことは、LED の眩しい輝点が原因のグレア感の抑制にも効果があります。

 表3に示すように、散乱材の塗布量を増加させることで、透過率は94%、88%と低下しますが、後方への配光が増え、配光角も広くなってゆきます。ただし、塗布量の増加は、電球内部へ戻る光の量を増やし、電球から放射される光束の低下となります。

 これらの検討の結果、光束が若干抑制されるものの、後方配光を待たせ、配光角を広げられる、カバー透過率として約88%を選択しました。

(3)調光・調色機能

 従来の白熱電球や、電球型蛍光灯に対して、LEDを使ったことで可能となる機能を持った電球を検討した結果、「調光・調色機能」を持ったLED電球を発表しました(DLL60 AV)。白熱電球や蛍光灯は、光の色が調整出来ないのに対して、LED電球の場合は、複数のLED を発光源として搭載できることを利用して、色温度が2700Kと5700K発光色の異なるLED を2 種類搭載しました。2種類のLED に流す電流を調整し、発光の比率を調整することで『調色機能』が実現できます。

 また、LEDに流す電流量を調整することで明るさが変えられる『調光機能』が実現できます。

 こうした調色・調光機能の操作を行うため、LED 電球にリモコンを用意しました。手元のリモコンから赤外線によるコマンドの送信を行い、電球側には、カバーガラス内部にリモコンからの赤外線の光を受光するセンサー、および、筐体内部にその信号を処理するマイコンを搭載し、電源回路からLED に流れる電流のパルス幅、電流量の制御を行い、調光・調色機能を実現しています。リモコンを採用したことで、調光器を設置する電気工事を行わずとも明るさの調整が出来る電球を利用できるようになりました。

 図5に、2種類のLEDの発光比率を7段階に変えて調色機能を行った場合の、発光スペクトルの変化を示します。最も色温度の高い発光色のスペクトル(図中の青色のライン)では、450 ~ 580 nmの青色~黄色の光が強いのに対して、最も色温度の低い発光色のスペクトル(図中の赤色のライン)では、630nm 付近の赤色の光が強くなっているのがわかります。リモコンでは、発光色を7 段階に調整でき、それに応じて発光スペクトルが変化していることがわかります。

 図6は、調光・調色機能を使った場合の、発光色の色温度の変化、および、全光束の変化を示します。色温度が約2700Kの電球色相当から、約5400Kの昼白色相当まで7段階の発光色の調整が出来ていること、全光束(明るさ)についても、フル点灯から約10%まで調整が行えていることが示されています。

また当機種(DL-L 60AV)は、他の機種に比べて、演色性を重視した設計にしています。図7は、発光色の色温度を調整した際の平均演色評価数Raの変化を示したもので、発光色の調整範囲で、Raは約80以上を確保していることを示しています。

3. おわりに

 白熱電球の100年、蛍光灯の80年の歴史に対して、LED電球はようやく普及が始まったばかりです。現状でも、寿命では従来の電球を凌駕しており、発光効率は、白熱電球に対して約5倍とメリットが出ていますが、蛍光灯に対しては同等レベルにとどまっています。しかし、光源のLEDの発光効率は、LEDチップの特性や、蛍光体の開発、駆動方法の工夫などで、さらに改善が進み、蛍光灯の発光効率を越えるのは遠くないと考えられます。

 普及に向けての課題は価格です。LEDは、昨年から本格的に液晶テレビのバックライト用光源として広く使われ始めており、世界中で需要が高まりつつあります。今後、照明との相乗効果もあり、低価格化が進むことが期待され、その結果、LED電球市場がより拡大する事が期待されます。また、LED 電球の認知度が上がるにつれ、従来の白熱電球を模したものから、LEDの特徴を活かした電球に発展することが期待されます。

※著者紹介(敬称略)

詠田 浩明(健康・環境システム事業本部 LED照明事業推進センター)
《RBB TODAY》
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