【テクニカルレポート】多原色液晶ディスプレイ技術(前編)……シャープ技報 | RBB TODAY
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【テクニカルレポート】多原色液晶ディスプレイ技術(前編)……シャープ技報

IT・デジタル テレビ
図1 各色域を示したxy色度図
  • 図1 各色域を示したxy色度図
  • 図2 5 原色ディスプレイの3次元色域(CIE L*a*b*)
  • 図3 光利用効率と色再現範囲の割合(NTSC比@CIE 1931 xy座標)
※同記事は、シャープ株式会社が2010年8月に発行したシャープ技報(No.33)の転載記事。

 ディスプレイ表示技術は、ブラウン管に始まり液晶、プラズマ等の新方式が続々と開発され大きな発展を遂げています。しかし、赤緑青の3原色カラー表示方式は50年来変わらないままでした。そこで3原色カラー表示という常識を覆す、新しい多原色技術を開発しました。3原色を混色すればあらゆる色が表示できると思われがちですが、実際には限られた色しか再現できません。多原色ディスプレイでは、これらの色も漏らさず忠実に再現できます。また、省エネにも応用が可能な高い光利用効率、多原色信号処理による視野角特性の改善等、従来のディスプレイには無い多くの特長を実現しました。本稿では、これらの多原色ディスプレイ技術について解説します。

1. はじめに

 近年、フルハイビジョンのような解像度の向上や3D表示技術等によるディスプレイ技術の発展が急速に進んでいます。しかし、赤、緑、青の3原色信号に立脚した表示方式自体は、50数年前に開発された当時のカラーテレビ技術の基礎の上に留まっており、長い間変化していません。

 一方、デジタル信号処理技術の発展、LEDの活用、当社のUV2A技術に代表される液晶技術そのものの発展など、放送方式を超えた性能を持つディスプレイが実用化され、この
50年の呪縛を解く準備が整いつつあります。

 そのひとつとして当社は多原色ディスプレイを提案します。これは色再現範囲が広いばかりではなく、既存のシステムに囚われず、画像表示の数々の観点についてディスプレイを最適化することができる、今までに無い技術です。従来のディスプレイの常識を根底から覆すことができる、まさにディスプレイ革命とも言えるでしょう。

 本稿ではこのような観点から、
・ 自然界に存在するほぼ全ての色を再現できる多原色パネル技術とその特長
・従来のディスプレイには無い特長をもつ新しい多原色信号処理技術とその活用
について解説します。

2. 多原色パネル技術
(1)物体色
 世の中には様々な色をした物体が存在します。例えば黄色と言われればヒマワリの鮮やかな色やレモンの色等、多くの色が思い浮かびますが、「自然界に存在する全ての色を再現するディスプレイ」を実現するためにはどのような性能が必要なのでしょうか。今回、1980年M. R. Pointer氏により報告された「ポインターの物体色」(色標、塗料・印刷用インクの顔料、色紙、プラスチック等、各方面の表面色を分析して実用的な範囲が定められている)を参照し、ディスプレイの色再現範囲がポインターの物体色をどれだけ包含しているかを客観的な性能評価の指標として用いました。

 図1に色再現範囲を表したxy色度図を示します。このxy色度図において色の付いた馬蹄形内側の範囲は人間が知覚できる色の範囲、丸点はポインターの物体色の存在範囲を示しています。三角形で囲まれた領域は、従来の赤(R)、緑(G)、青(B)3原色ディスプレイで表現できる色再現範囲となりますが、黄色領域、シアン(水色)領域において三角形の外側に存在するポインターの物体色が多く存在することが分かります。つまり従来のディスプレイではこれらの領域に存在するヒマワリの鮮やかな色や海の濃い色等を忠実に表示することができないことを意味します。そこで我々はポインターの物体色を効率的に包含するために、従来のRGBの3原色に加え黄(Ye)とシアン(C)の原色を追加した5原色ディスプレイを提案しました。追加された原色によって色再現範囲が大幅に広がり、従来のディスプレイで不足していた領域を包含することができます(図1の五角形で囲まれた領域)。

 ここで色再現について注意しなければならないのは、色情報は三次元の情報によって定義されるということです。先ほどの図1では横軸の値x、縦軸の値y が1組決まれば特定の色が決定されるように見えますが、重要な明度の情報が欠落しています。この二次元図においては暗い深い赤も、明るく鮮やかな赤も同じ赤色の色度点で表されてしまいます。そこで明度も含めたLab空間において赤、緑、青、黄、シアンの各原色設計を考える必要性があります。

 その結果、図2のようにポインターの物体色を立体的に効率よく包含する5原色ディスプレイが設計されました。ポインターの物体色カバー率は99%以上を達成しました。
一方、赤の補色であるシアン・青の補色である黄を導入するならば緑の補色であるマゼンタも使用した6原色ディスプレイが良いのでは?という考え方も可能です。しかしマゼンタ領域に関しては赤色と青色の加法混色で十分物体色の包含が可能であり、またさらに原色数が増加した6原色よりも5原色の方がパネルの製造コストや回路の負担が少ないため現実的な解となります。

(2)高効率で省エネ

 一般的に原色が増えるということは、1画素中のサブ画素分割数が増えるため遮光面積が増加し、パネルにとって光の透過率が犠牲となります。しかし今回の5原色ディスプレイは高効率な光の利用が可能です。

 図3に色再現領域と光利用効率の関係を示します。横軸がCIE1931xy色度図における色再現領域の面積比(対NTSC比)で、縦軸が従来の3原色ディスプレイを1とした時の光の利用効率です。

 図の左端、つまり従来の色再現範囲と同等で良い場合には従来のディスプレイより1 . 2倍の光利用効率であることが分かります。また、色再現範囲を拡大していくにつれ3原色ディスプレイでは急激に光利用効率が低下しますが、5原色ディスプレイは効率低下を抑制することができます。液晶パネルにおける光利用効率は、バックライトからの光のスペクトルとカラーフィルタの透過スペクトルとの関係に左右されます。3原色方式で色再現範囲を広げるためにはスペクトル幅の狭い(色の濃い)カラーフィルタを使う必要があります。これにより表示部側に抜ける光が大幅に減衰してしまいますが、5原色方式では光の透過率の高い黄色やシアンのカラーフィルタを用いることでパネル性能として高い透過率を維持できるのです。

※著者紹介(敬称略)

吉田 悠一(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所)  
森 智彦(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所)  
長谷川 誠(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所)  
冨沢 一成(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所)  
吉田 明子(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所)  
吉山 和良(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所)  
古川 浩之(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所) 
吉田 育弘(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所)  
植木 俊(研究開発本部 表示技術研究所)  
中村 浩三(研究開発本部 表示技術研究所) 
鳴瀧 陽三(研究開発本部 表示技術研究所)  
伊藤 康尚(研究開発本部 表示技術研究所)
《RBB TODAY》
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