【インタビュー】「光の道」は設備競争とサービス競争を阻害してはいけない……ケイ・オプティコム 代表取締役社長 藤野隆雄氏 | RBB TODAY

【インタビュー】「光の道」は設備競争とサービス競争を阻害してはいけない……ケイ・オプティコム 代表取締役社長 藤野隆雄氏

ブロードバンド 回線・サービス

ケイ・オプティコム 代表取締役社長 藤野隆雄氏
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  • 全国計画的に工事をしても現状以上に効率化することは困難。一括工事と言うと、いかにも“面展開”するので効率が良いように感じるが、ミクロ的に作業を見れば、面は“点の集合”でしかない
  • 「公正競争の一層の活性化」に関する基本的な考え方。ケイ・オプティコムは「設備競争とサービス競争両方の促進」「ドミナント事業者に対する規制の厳格化」「ICT利活用の促進」の3つを重視
  • “設備競争”と“サービス競争”は互いに関連しながら進展している。“設備競争”は、進化するインフラの上でしか動かせない高度な“サービス競争”を発展させるために不可欠
  • 共用ネットワークを使うと、逆にダークファイバー敷設費、導入機器、相互ネットワークの重複運用といった諸コストが掛り、大幅なコストアップになりかねない
 11月9日、総務省のICTタスクフォースは、全家庭にブロードバンドを普及させる「光の道」構想の最終報告書に向け、NTT、KDDI、ソフトバンク、イー・アクセス、ケイ・オプティコム、J:COM、テレコムサービス協会などの事業者から意見を聞いた。ソフトバンクは従来どおり、NTTのアクセス回線部門を別会社に分離する案を提示しており、国や通信各社が新たに共同出資して新しいアクセス回線会社を設立し、2015年までに全世帯にブロードバンド通信サービスを普及させる、としている。

 今回の会合は、最終報告に向けたヒアリングという位置付けになるものだが、前回検討された論点「公正競争の一層の活性化に関する論点整理」を踏まえたうえで意見交換がなされた。RBB TODAY編集部では、この会合の直後、電力系事業者の立場からケイ・オプティコム 代表取締役社長の藤野隆雄氏に同社の考えを聞いた。
 
 「公正競争の一層の活性化」に向けたケイ・オプティコムの基本的な考え方は、「設備競争とサービス競争両方の促進」「ドミナント事業者に対する規制の厳格化」「ICT利活用の促進」の三本柱からなる。

■供用アクセス回線会社案は設備競争を阻害する

 まず一番目の柱である「設備競争とサービス競争両方の促進」については、「公正競争環境のもとで、事業者間競争を“設備競争”と“サービス競争”の両面から促進することが絶対的に大事だ」と藤野氏は強調する。従来から“設備競争”“サービス競争”が重要といわれながらも、どうしてもサービス競争寄りの話になっていた。実際にタスクフォースの合同部会でも“設備競争”と“サービス競争”の両者がリンクせず、バラバラに発展してきたと誤解した考えを持つ向きもあるようだ。

 しかし、時代の流れを振り返ってみても、インフラが整備されてアクセス網が進化し、それに伴って利用サービスも高度化してきたという経緯がある。「つまり“設備競争”は、単にサービスエリアを拡大するのではなく、進化するインフラの上でしか動かせない高度な“サービス競争”を発展させるために不可欠なものだということ。したがって“設備競争”をなくすことは、技術革新を停滞させ、ひいては“サービス競争”さえも停滞させてしまうことだ」という。

 また、アクセス網における競争の在り方については「“光の道”実現後も持続的にアクセス網が進化し、ユーザーの利便性やサービスの高度化が進むように、健全な競争環境の整備が必要だ。さらにNTTの光ファイバ接続料の検討でも、まず設備競争ありきで考えるべき」と説く。ここでポイントになるのは、「光アクセス網における技術革新インセンティブの確保」と「インフラ構築事業者における投資インセンティブの確保」だ。

 前者についての懸念は「設備共用ばかり考えると、どの事業者にとっても技術革新に対するインセンティブが働かなくなること」である。たとえば、どこかの事業者が新サービスを開始しようとしても、ソフトバンク案のように設備共用が国内標準として固定化してしまえばどうなるだろうか? 共用アクセス回線会社は、設備投資の回収が終わるまで次世代の新技術を導入したがらないだろう。

 これまでもケイ・オプティコムのように、回線のみならずISPなどを含めたサービスを提供してきた事業者は、次世代の新技術を推進していく原動力になっていた。実際、同社ではコンシューマー向けにいち早く1Gbpsサービスを提供してきた。多少のリスクはあっても、このような競争原理が働かなければ、新しい技術革新をドライブする環境が阻害され、「結果として国際競争力も弱めてしまう危険がある」というわけだ。

 一方、投資インセンティブの確保も重要だ。藤野氏は「仮に共用アクセス回線会社をつくったとして、設備コストや需要と乖離した接続料を設定することになれば問題だ。インフラ会社に一方的なリスクを負わせ、リーズナブルではなく、無理な料金設定をしてしまうと、設備競争もサービス競争も公平性を欠いてしまう」と危惧する。したがって今後の料金設定については、「NTT東西・接続事業者だけでなく、インフラ構築事業者も含めた形で、競争事業者間の公平性を担保すべき」という考え方だ。

■NTTの組織論以前に法規制の厳格化

 次に二番目の柱である「ドミナント事業者に対する規制の厳格化」の考え方では、「総合的な市場支配力の強いNTTグループ自身が、規制を形骸化させているように見受けられる」と主張している。公正な競争原理を確保するために、現行の法規制の下でもよいので、抜け道のない形で法規制を適用して欲しいという。具体的には「県域等子会社へNTT東西と同様の法規制を提供すべき」と説明する。現行ではNTT東西はNTT法によって規制がかかっているが、子会社には法規制は適用外。さらにアウトソースされる委託先は規制フリーの状態だ。

 「NTTグループ会社間取引に対する法規制の厳正化」も重要だ。「いまも実質的には、NTT東西、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモなどグループ内で閉じた連携が進んでいる状況なので、しっかりした行為規制の厳正化が必要。たとえばドミナント事業者同士のアライアンスが他社に水面下で先行して行われているのでは?」と指摘する。そこで、こういった不透明性を抑止するために「委託会社への管理監督義務も明確にすべきだ」と同社では考えている。

 前々回(10月15日)に開催された15回会合では「NTTの在り方」についても議論されたが、ケイ・オプティコムでは「NTTの組織論以前に、NTTグループの事業活動全般に対し、漏れや抜けのない法規制をかぶせれば、現時点でも競争が公平・公正に行われるはず。そのためNTTの在り方などについての議論は、あまり意味がない」としながら、あえて言及するとすれば「経営形態についてはグループドミナンスの排除」「NTT東西のなし崩し的な業務範囲拡大によるシェア高止まりの抑制」「各種規制に対する厳正チェックの枠組みの強化」が問題として挙げられるという。特に、最後のチェックの枠組み強化という点では「第三者による監視・検査が可能な仕組みを導入することが重要」と指摘。いくら現行法を改正しても、規制を抜けるルールが残っていれば、まったく意味がないからだ。

 話を戻すと、“光の道”整備と、NTTの組織論は全く別の問題であり、「“そもそも論”として、NTTの経営形態の検討については、アクセス整備という観点からは検討すべきことではない」というのがケイ・オプティコムでの立場だ。

 ケイ・オプティコムは“光の道”構想が発表されて以来、アクセス回線会社の構想は政策として不適当と一貫して主張してきた。ソフトバンクの案は実現性に疑問があるだけでなく、一部の事業者のみにメリットが生じる形で競争構造を限定化し、持続的なインフラ高度化の芽を摘んでしまう恐れがあるという。「できるか、できないかという問題以前に、とるべき政策ではない」と力説する。

 もし、こういった政策が強引に進められれば、前述のように光アクセス網の技術革新は逆に停滞し、さらにインフラ構築事業者の撤退も起きるだろう。まだ本当に実現できるものなのか、という疑念もぬぐえない状態だ。前回の会合で、ソフトバンクは「共用アクセス回線会社ができたら、地域系通信事業者やCATV事業者などのインフラ構築事業者も、そのネットワークを活用することで安くあがるようになるはず」という考えを強調した。しかし、これも中堅・中小の地域に根差したインフラ構築事業者にとっては実質的に利用が困難な話だ。

 たとえばケイ・オプティコムの局社とNTTの局社をダークファイバで結めば、共用ネットワークが使えるという話があるが、すでに関西圏では光エリアは90%をカバーしている状態だ。光回線の実際の普及率は40%ぐらいで、そのうち50%強がNTT西日本、3分の1程度がケイ・オプティコムという割合。同社としては、いまさら新ネットワークを使うメリットがない。逆にダークファイバーの敷設費、導入機器、相互ネットワークの重複運用といった諸コストが掛ることになり、大幅なコストアップになりかねない。「エリアカバーができていない1割をどのように拡充していくかという議論なら理解できるが、現状でも完全に自由競争ができている90%のエリアで、なぜまた1社に統合再編しなければいけないのか分からない」という。

■一括工事で作業効率は上がるのか

 さらにもう1つ、アクセス回線会社構想が実現可能か? という根本的な疑問もあるのだ。実際に工事をする場合、全国計画的に着工しても現状以上に効率化を図ることは困難だからだ。ソフトバンクは“一括工事”にすれば作業効率が上がり、コスト削減にもつながるという。しかし果たしてそんなに簡単に事は済むのであろうか? ケイ・オプティコムはこの点について、次のような疑問を呈している。「“個別工事”と“一括工事”という表現が違うだけで、実は現場レベルでは大した差異はない。現状でも工事班を現場投入する際は、ある限定されたエリアで移動時間のロスがないように割り当てて工事を進めている。一括工事と言うと、いかにも“面展開”するので効率が良いように感じるが、ミクロ的に作業を見れば、面は“点の集合”でしかない」という理屈である。

 結局のところ作業は“点の中”で行われるわけで、さらにその“点の中”の工事でも、すでに現状でも1日平均4件ほどの工事を実施している。「日によっては4件以上の工事を行うときもあるぐらいだ」という。朝から夜までフル稼働しても、これ以上は作業効率性を上げることは不可能だろう。さらに繁忙期になれば、工事力も限界に近い。そういう意味では、仮にソフトバンクがいうところの“一括工事”を実施したとしても効率アップにつながらないし、コストも下がることはないだろう。

 また、「“光の道”構想で工事を全国的に展開すれば、多大な雇用創出にもつながる」との見方もある。確かに一時的には雇用が増えるかもしれない。しかし5年後の雇用はどうなるのだろうか。一時的に人が招集されても、仕事がなくなれば、また失業者が増えるだけだ。実際の現場に立つのは“団塊の世代”ではなく、さらに若い世代だ。しかも光ファイバーの敷設作業には、それなりのノウハウも必要になってくる。一朝一夕では作業者の育成はできない。もし雇用創出をいうのであれば、もう少し長期的な視野に立った施策が欲しいところだ。

■利活用を促進しなければ光は100%使われない

 次に三番目の柱である「ICT利活用の促進」の問題だ。ADSLを含めた安いブロードバンドのユーザーは現状でも60%ぐらいしかない。ケイ・オプティコムは「いくら光回線の料金を安くしたとしても、利用者は100%にはならないと思う。なぜなら、一般国民にブロードバンドの利用の仕方が十分に浸透していないからだ。利用促進が一番重要なことで、それが分からければ、光回線も100%使われることはない。電子政府や教育、医療などの利活用を推進し、もっと光回線が必要なことをアピールすべきだ。料金が安ければ、誰でも使うようになるという考えは根本的にオカシイ」と説明する。まず「ニーズありき」で考えないと光回線の普及は絶対に進まないのだ。そういう意味で、ICT利活用のほうにウェイトを置いていく必要があるだろう。

 このような観点から、ケイ・プティコムでは「“光の道”の実現に向け、また実現後の持続的な発展を見据えて、公正競争環境の下で、事業者間競争を“設備競争”と“サービス競争”の両面から促進することが重要である」と説く。「さらに利用者の利便性を向上し、サービスの高度化が進むように、健全な競争環境を整備することが必要だ」という主張を明示した。“光の道”構想については近々にも、その方向性が決定されることになるだろうが、こうした諸問題を考慮に入れたうえで、さらに精査が必要だと感じる。
《井上猛雄》

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