【富士通フォーラム2010(Vol.32)】ICTを徹底活用した競争力ある製品開発――宮澤秋彦氏 | RBB TODAY
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【富士通フォーラム2010(Vol.32)】ICTを徹底活用した競争力ある製品開発――宮澤秋彦氏

エンタープライズ ハードウェア
富士通 テクノロジセンター センター長の宮澤秋彦氏
  • 富士通 テクノロジセンター センター長の宮澤秋彦氏
  • 顧客が求めるプロダクトの価値
  • 開発コンピュータ環境が競争力そのもの
  • テクニカルコンピューティングプラットフォーム
  • 共通プラットフォームで統一
  • バーチャルものづくりの追求
  • デジタルモックアップ技術
  • アンテナ感度を高める
 製品開発には時間と費用がかかるものである。しかし、企業においては開発フェーズでも、コストダウンとスピードアップ、ナレッジの蓄積が重要な課題となっている。製品開発の現場では、試作と試験の膨大な繰り返しによる試行錯誤といった、泥臭い作業が避けられないが、設計支援やシミュレーションなどはICTによって効率化が期待できる部分だろう。富士通では、PCクラスタシステムを活用した開発プラットフォームのクラウド環境によって、これを実践している。

 富士通フォーラム2010では14日、この取組みについて、富士通 テクノロジセンター センター長の宮澤秋彦氏が、「PCクラスタシステムの活用と実践例のご紹介 ~企業の生命線となる、CAEによる商品開発力強化~」と題したセミナーを行った。

 宮澤氏は、製品開発の最前線の状況について、サーバ製品に使われるCPUプロセッサの発熱密度(W/cm2)は、たとえば原子炉の炉心温度と同等であり、人工衛星の大気圏突入時の表面温度に匹敵するほど高温になるなど、過酷な設計条件にあることを紹介した。また、携帯電話の防水機能では、泥水や海水への対応も要求され、より薄く、軽く、壊れにくい、といった多くの設計要件を満たす必要が出ており、環境対応なども機能として実装しなければならない現状を説明した。

 このように、製品の機能や価値はユーザからのニーズにより非常に複雑になってきており、それにいかに応えるかが、製品の価値や競争力を高めることになっている。そのため、製品開発に利用するコンピュータ環境の優劣が製品競争力に直結するという。この考えにもとづいて、富士通では「テクニカルコンピューティングプラットフォーム」構想を提案し、製品開発プロセスにICTを徹底的に活用する戦略を社内で実践しているとした。いわば、ものづくりを科学(サイエンス)し、サイエンスとエンジニアリングのさらなる連携により、競争力の強化、開発スピードの向上、技術ノウハウやナレッジの蓄積と利用を促進させるということだ。

 開発プロセスにおいて、具体的にICTを活用していく領域は、回路設計・構造設計、機構設計、デザインなどの設計支援やCAE(Computer Aided Engineering)と、検査、試験などにかかわるシミュレーションとDRC(Design Rule Check)の2つの分野となる。

 テクニカルコンピューティングプラットフォームでは、さらに、さまざまな製品の開発プロセスで共通化できる部分をプラットフォーム化し、たとえば携帯電話からサーバ製品までの部品選定、回路設計、部品配置、機構設計を一貫してサポートするようになっている。構造系のプラットフォームでは、VPS(Virtual Product Simulator)という3次元CADシステムにより、設計段階で製品の保守性、作業性、視認性、ケーブルの配置や曲がり具合などをCGでリアルに再現し、検証をすることも可能だという。

 試作段階で、思ったよりスペースが少なくてケーブルの束線ができない、コネクタの接続がしにくい、筐体とケーブルが干渉するなどの問題が発覚し、設計変更を余儀なくされるといった事態を避けることができるわけだ。

 シミュレーション機能では、プリント基板上の電流・電界分布をシミュレートし、ノイズの発生状況を調べたり、ノートパソコンや携帯電話のアンテナ特性を調べたり、どこにどういったシールドを施せばよいかの検証などを、一定の精度で、設計段階に行うことができる。ほかにも、製品搬送時の衝撃や段ボールのつぶれ方をシミュレートして、梱包材の設計を行ったり、地震波でスーパーコンピュータ本体の応力集中箇所を調べたり、筐体内の熱解析、データセンター内のエアーフローなど、多角的な分析に活用している。

 宮澤氏によれば、このようなCAEやシミュレーションを可能にするコンピュータ環境は、高性能サーバとPCクラスタシステムなどによるHPC(High Performance Computer)によって構築されているそうだ。これらのコンピュータリソースは「テクニカルコンピューティングセンター」に集約され、富士通の工場や研究所にクラウド方式でサービスされる。各拠点はHPCポータルサイトを経由して、CAD/CAEやシミュレーション環境を提供する高性能サーバやPCクラスタにアクセスする。

 テクニカルコンピューティングセンターのサーバ群には、PRIMEQUEST(Linux)、SPARC Enterprise(UNIX)、PRIMERGY(Windows/Linux)、PC(Windows)などが採用されている。PRIMERGY BX900のようなブレードサーバは、CPU負荷の高いシミュレータやCAD/CAEに対して、PCクラスタを構成するソリューションに向いているとのことだ。また、同社のストレージシステム製品ETERNUSを利用した遠隔バックアップシステムも稼働しており、開発資産・データの保護やディザスタリカバリ(DR)体制も組まれている。

 また、テクニカルコンピューティングプラットフォーム構想では、ナレッジの蓄積や開発プロセスの改善や改革も続けていく必要があるとし、現場のエンジニアの声などを聞きながら、シミュレーションのさらなる精度アップ、CAEの操作性向上などにも取り組んでいるとした。改善を継続させる必要性がある理由としては、プラットフォームを共通化するといっても、適用するのが開発という完全なプロセス標準化になじまないものであるため、PDCAサイクルによって、新しい開発手法やアプローチを柔軟に取り入れていくことが重要になるためである。

 宮澤氏は、テクノロジやものづくりを徹底的に科学し、富士通らしいものづくりの型を訴求することで、「プラスのスパイラルを極めていきたい」と述べ、講演を終えた。
《中尾真二》
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