【日立評論】東海道新幹線デジタル列車無線の開発と導入
エンタープライズ
モバイルBIZ
■1.はじめに
新幹線列車無線は、乗務員と地上係員の間で直接通話を行う唯一の設備であり、運転保安設備として列車運行に欠かせない重要設備であるが、現在では列車無線にデータ伝送が導入されるのに伴い、車上機器の監視情報をリアルタイムで地上に伝送し、車両の運用・保守に活用することが可能となった。また、新聞社から配信される文字ニュースを車内のテロップに表示するサービスなども導入しており、旅客サービス設備としての位置づけも高まっている。
ここでは、東海旅客鉄道株式会社の東海道新幹線デジタル列車無線システムの開発と導入について述べる。
■2.デジタル列車無線システムの概要
2.1 列車無線の変遷
東海道新幹線の列車無線設備には、1964年の開業当初は空間波方式を採用した。空間波方式とは、山上などに設置した基地局と列車に搭載した移動局の間で無線通信を行う方式である。
1989年には、設備更新を行いLCX方式が導入された。LCX方式とは、鉄道沿線にLCX(Leaky Coaxial Cable:漏洩(えい)同軸ケーブル)を布設し、移動局とLCXの間で無線通信を行う方式である。この方式は、(1)非常に接近した状態で無線通信を行うため、移動体通信特有のフェージング変動が少なく、回線が高品質かつ安定、(2)オーバーリーチによる隣接ゾーン干渉がほとんどないため、同一周波数の繰り返しが可能、(3)送信出力の小電力化が可能、などの特徴がある。
そして今回、設備の老朽化に伴い、LCX方式のメリットを継承しつつ、最新のデジタル技術を活用したデジタルLCX方式(以下、デジタルLCX方式と記す。)に設備更新を行った。
2.2 列車無線のシステム構成
東海道新幹線列車無線は、地上設備と車上設備によって構成される。今回のシステム構成は、デジタル化更新前の機器配置を基本とし、業務系(鉄道事業者用)と車内インターネット接続に使用するための旅客系(電気通信事業者用)の設備の伝送路を完全分離した(図1参照)。
地上設備は東京総合指令所、および第2総合指令所に設置される中央局、東京・静岡・名古屋・大阪の4拠点に設置される統制局、沿線を数十のエリア(ゾーン)に分割して設置する基地局、沿線に設置される中継機によって構成される。
車上設備は新幹線車両に移動局が搭載されるが、それに加えN700系には車内インターネット接続用の機器も搭載されている。
また、新幹線車両はアナログ仕様を継続する山陽区間に乗り入れることから、移動局はデジタル・アナログ両用設備とし、ソフトウェア無線機による切り替え方式とした。
2.3 導入したアプリケーション
デジタルLCX方式では無線回線の完全デジタル化を行うが、これによりデータ系のアプリケーション機能の強化が可能となる。デジタルLCX方式、既存機能の強化のほか、新規機能として、運行状況指令伝達、3者通話、車内インターネット接続機能を導入した。
車内インターネット接続方式は、無線LAN(Local AreaNetwork)を採用しており、現在使用されているほとんどの端末(PC・ゲーム機)が使用できる(表1参照)。
■3.データ通信技術
音声系アプリケーションの制御方式は、運転保安設備としての確実性を確保するために回線交換方式を採用したが、データ系アプリケーションについては回線を効率的に使用するためIP(Internet Protocol)制御方式を採用した。列車無線においてIP制御方式を採用したのは国内初である。新幹線のような高速移動体通信におけるデータ通信技術では高速ハンドオーバが課題となるが、移動体通信で用いられるモバイルIP※)技術を高機能化することで実現した。具体的には、標準のモバイルIPに加え、独自開発した高速ハンドオーバ技術を付加することで、新幹線のような高速移動体通信におけるモバイルネットワークを実現した。
3.1 モバイルネットワーク
新幹線車両は高速で走行するため、中央装置はどの基地局に列車が在線しているかを認識する必要があり、それを実現しているのが移動体通信で使用されるモバイルネットワークの技術である(図2参照)。
3.2 高速ハンドオーバ技術
高速走行する新幹線車両では、無線エリア渡りにおけるハンドオーバ時間が通信品質の鍵となる。新幹線車両は270 km/hの速度で走行するため1秒間に75 m進む。このため、ハンドオーバをいかに早く行うかが技術的要件となる。
東海道新幹線列車無線では、モバイルネットワークに加えてハンドオーバを高速に実現するミドルウェア「NX/AIRNET」を開発した。このミドルウェアには、無線エリア渡り時におけるパケット損失をいち早く検知し、高速再送する技術および、あらかじめ次に渡る基地局にもデータ転送(データの前方転送)しておき、標準のモバイルIPにおけるルーティングタイムラグ時間を補完する技術を導入している。特に後者のデータ前方転送技術は、新幹線のような高速移動体通信のモバイルネットワークにおいては必要な技術である。これらの、モバイルネットワーク技術およびミドルウェアにより、新幹線での高速ハンドオーバを実現した(図3参照)。
3.3 実効スループットの向上
無線通信部は、チャネルと呼ばれる時分割したエリアを使用して通信する。無線通信部分のチャネルサイズを効率的に使用しないと無線部分にむだな空きが生じ、スループットの低下を招く。そのため、旅客系については、前述のミドルウェアにおいて、無線帯域を有効に使用するために、無線通信部分のチャネルサイズに合わせて、データを効率的に送ることができるデータ長に制御する仕組みを持たせた。
■4.ミドルウェア「NX/AIRNET」
高速移動体向け高速ハンドオーバ技術を開発するうえでのコンセプトは、実績のある自律分散システム技術を高速移動体向けシステムに適用することにより、高い信頼性を確保しつつ、段階的なシステム拡張を容易にすることである。また、標準のモバイルIPの徹底活用とこれを補完・強化する技術により、今後のIP技術進展によるメリットを享受でき、また、今後のサービスにも追随できるように考慮した。
高速移動体向け通信における課題をミドルウェア「NX/AIRNET」で解決している。その一例を以下に示す。
4.1 高速ハンドオーバと再送制御によるパケット救済
標準のモバイルIPでは、ハンドオーバ時のパケット損失に対してはエンドツーエンドのシステム間のプロトコルによって救済をしなければならず、無線ネットワーク全体の帯域を圧迫するとともにスループットも低下する。
この高速ハンドオーバの課題を克服するために、(1)NX/AIRNETは標準のモバイルIPを補完し、高速かつ効
率的な追跡処理、(2)無線エリア切り替えを検知し、自律的に地上局を切り替えるハンドオーバ処理、(3)ネットワーク切り替えを検知し、移動先のNX/AIRNETと連携することで、モバイルIPでのハンドオーバ完了までの過渡的な通信サービスのそれぞれを実現した。
また、ハンドオーバ時のパケット損失については、(1)無線エリア間またぎ時のパケット損失、(2)ネットワーク間またぎ時のパケット損失、(3)無線品質劣化時(低レイヤで対応できない)のパケットエラーのそれぞれを救済することで、課題を克服した。
4.2 パケットの流量制御によるネットワーク帯域の高効率使用
ネットワーク帯域を効率的に使用すること、特に、地上〜車上間の無線ネットワーク帯域を余分なパケットで圧迫することなく、効率よく使用することにより、高いネットワークスループットを確保することが重要となる。この課題に対して、二つのアプローチを採っている。一つ目は、無線装置とNX/AIRNET間で流量制御プロトコルを規定し、これに従って、データ種別ごとに、優先度に応じたパケットの流量制御を行っている。これにより、無線ネットワーク内でのパケットのあふれを防止するとともに、無線ネットワークを効率よく使用できるようにしている。
また、二つ目はネットワーク機器が行うフラグメント(パケット分割)処理によって、ネットワークを流れるパケットの数が増加しないように、最大パケットサイズを調整している。
具体的には、NX/AIRNETが、ネットワークを流れる特定のパケット内に設定されている最大パケットサイズに関する情報を常時監視し、ネットワーク機器において余分なフラグメントが発生しないように最大パケットサイズを動的に調整している。これにより、フラグメントで生じる新たなパケットが無線ネットワークに流れることがなくなり、ネットワークのスループットを向上させている。
■5.導入効果
2009年2月21日翌日の東海道新幹線全線について、デジタルLCX方式に切り替えが行われ、東海道新幹線区間はデジタル化に移行した。文字ニュース、車両モニタ、列車動揺モニタ、列車無線モニタ、運行情報指令伝達などの業務系アプリケーションは、即日運用を開始した。
また、2009年3月14日には、ダイヤ改正に合わせて東海道新幹線の東京〜新大阪の区間において、N700系車両内のインターネット接続サービスが開始され、一般乗客による新幹線車内からのインターネット接続が実現しており、平日の朝夕の時間帯を中心に多くの利用がある。また全線を通して常に安定した通信が実現できており、利用者から好評価を得ている。
東海道新幹線列車無線の高速ハンドオーバ技術は、高速移動体通信の高品質、安定通信の基本技術となり得るものであり、将来、移動体を扱う各分野への適用も期待される。
■6.おわりに
ここでは、東海旅客鉄道株式会社の東海道新幹線デジタル列車無線システムの開発と導入について述べた。
今回の列車無線更新では、単に老朽取り替えを行うだけでなく、デジタル技術を導入し、各種の新規機能の導入を行った。これにより、さらなる運転保安の確保と旅客サービスの充実に資するものと期待している。運用開始以降、設備は順調に稼動しており、車内インターネット接続については、その快適性を多くの方に体感していただきたい。
情報サービスに対するニーズは高速化と多様化に向かっており、伝送速度のさらなる高速化が今後の課題と考えている。東海道新幹線においては、より快適な車内空間を提供するため、引き続き情報サービスの充実に取り組んでいく所存である。
最後に、列車無線更新および車内インターネット接続の実現にあたり、多くの関係者の方に多大なご指導とご支援をいただき、改めて深謝の意を表する次第である。
■執筆者
・杉山 博之
東海旅客鉄道株式会社 電気部 課長代理
・前野 博明
東海旅客鉄道株式会社 建設工事部 課長代理
・古田 武志
東海旅客鉄道株式会社 建設工事部 課長代理
・丸山 等
1991年日立製作所入社,社会・産業インフラシステム社 交通シス
テム事業部 輸送システム本部 輸送システム部 所属
現在,列車無線の取りまとめに従事
・丸山 久幸
1981年日立製作所入社,情報制御システム社 交通システム本部
交通システム設計部 所属
現在,列車無線の取りまとめに従事
技術士(電気電子)
・足達 芳昭
1978年日立製作所入社,情報制御システム社 情報制御ソリュー
ション本部 プラットフォーム開発部 所属
現在,制御サーバ・ネットワークのソフトウェア開発に従事
技術士(情報工学)
※同記事は日立製作所の発行する「日立評論」の転載記事である
Amazon売れ筋ランキング
-
【New】Amazon Fire TV Stick HD | 手軽にストリーミングをはじめよう | ストリーミングメディアプレイヤー¥6,980 -
【New】Amazon Fire TV Stick HD | 手軽にストリーミングをはじめよう | ストリーミングメディアプレイヤー¥6,980 -
Amazon Fire TV Stick 4K Select | 4Kの高画質ストリーミング | ストリーミングメディアプレイヤー¥7,980 -
Amazon Fire TV Stick 4K Plus | 映画館のような4K体験 | ストリーミングメディアプレイヤー¥9,980 -
Amazon Echo Dot (エコードット) 第5世代 - Alexa、センサー搭載、鮮やかなサウンド|チャコール¥7,480
-
[EdoErgo] オフィスチェア 椅子 テレワーク 疲れない 跳ね上げ式アームレスト コンパクト 約105度ロッキング pc 事務椅子 360度回転 座面昇降 強化ナイロン樹脂ベース 通気性メッシュ 在宅ワーク H-WY01(黒網+黒枠+黒足)¥5,699 -
SIHOO B100 オフィスチェア/デスクチェア メッシュチェア 人間工学 疲れない ブラック¥27,999 -
Sezlife オフィスチェア デスクチェア 疲れない テレワーク チェア 強化バックレスト 30度ロッキング機能 人間工学 椅子 腰サポート 90度跳ね上げ式アームレスト 3Dヘッドレスト ハンガー付き 高反発クッション PCチェア 通気性メッシュ ゲーミング/勉強/事務用 おしゃれ パソコンチェア (ブラック)¥7,680 -
Sezlife オフィスチェア デスクチェア 疲れない テレワーク チェア 強化バックレスト 30度ロッキング機能 人間工学 椅子 腰サポート 90度跳ね上げ式アームレスト 3Dヘッドレスト ハンガー付き 高反発クッション PCチェア 通気性メッシュ ゲーミング/勉強/事務用 おしゃれ パソコンチェア (ホワイト)¥7,680 -
ANDWINT オフィスチェア デスクチェア 肘なし メッシュ 通気性 ランバーサポート付き 腰サポート ガス圧無段階昇降 360度回転 キャスター付き コンパクト 幅52×奥行58.5×高さ84~96cm テレワーク 在宅勤務 ブラック¥4,139
-
EIZO ビジネス向けプレミアムモニター | FlexScan EV3240X-WT | 31.5型4K UHD・USB Type-C・ホワイト¥105,595 -
EIZO ビジネス向けプレミアムモニター | FlexScan EV2740X-WT | 27.0型4K UHD・USB Type-C・ホワイト¥109,572 -
【純正品】27"ゲーミングモニター DualSense 充電フック付き(CFI-ZDM1J)¥49,979 -
【整備済み品】Dell E2724HS 27インチ 液晶モニター フルHD(1920×1080)VA 非光沢 HDMI/DisplayPort/VGA スピーカー内蔵 高さ調整 スイベル VESA対応 ComfortView ビジネス向け¥15,800 -
【MiniLED/24.5inch/280Hz/FHD】GRAPHT THE SHOOTER Gaming Monitor 24” Essential ゲーミングモニター QD 24.5インチ 1ms FHD 量子ドット 残像低減 (3年保証 | 輝点保証 | 日本メーカー)¥34,980
-
Amazonベーシック ペットシーツ 薄型 レギュラー 1回使い捨て 無香料 ホワイト 300枚¥3,373 -
Amazonベーシック ペットシーツ 厚型 ワイド 42枚x2袋(84枚) ホワイト(吸収面:ライトブルー)¥3,234 -
ネオ・ルーライフ ネオ・オムツ L 中型犬用 26枚入り 単品¥1,800 -
Smart Basic(スマートベーシック) 【Amazon.co.jp限定】 Smart Basic アイリスオーヤマ ペットシーツ 超厚型 お徳用 ワイド 100枚入 (x 1) (ケース販売)¥3,670 -
アイリスオーヤマ ペットシーツ 超厚型 お徳用 レギュラー 200枚入【Amazon.co.jp限定】¥3,731
関連リンク
関連ニュース
-
【短期連載・ビジネスモバイル実践編 Vol.2】ネットブックユーザーの出張術
-
ウィルコムPHSでも、東海道・山陽新幹線がチケットレスに 〜 モバイルSuicaがEX-ICに対応
-
【無線LANサービス体験記(後編)】初心者でも無線LANに簡単接続!のワケ
-
【宙博2009 Vol.1】スペースシャトルは新幹線みたいな乗りごこち? ——若田飛行士ミッション報告会
-
【無線LANサービス体験記(前編)】ついに念願のネットブックを購入。ところが……!?
-
Wi2とビックカメラ、無線LANとWiMAXを組み合わせたサービス開始
-
【スピード速報(163)】青森県のダウンレートトップ3は階上町、青森市、五戸町
-
政治から芸能・スポーツまでニュースをマンガで読むサイトがオープン
-
【台風18号】朝の通勤ラッシュを直撃! 現在も大幅な乱れが
-
「移動車や新幹線の発車妨害」も〜“過激なおっかけ”1割が目撃
-
【新連載・OLデジモノ日記】先輩のデジタルメモ「ポメラ」を触ってみた
-
新型成田エクスプレス(E259系)、車内で公衆無線LANサービスが利用可能に
-
[FREESPOT] 群馬県のふれあい片品インターネットサロンなど5か所にアクセスポイントを追加
-
モバイルPCの理想は「8時間以上の持久力」「1kg未満の重量」「快適なネット接続」など 〜 日本エイサー調べ
-
日本HP、日本通信との提携でプリペイド型データ通信機能搭載のノートPCを発売
-
中川家・礼二、「クイズ鉄道王決定戦」で上位狙う!
-
[FREESPOT] 埼玉県のドッグランカフェ 宮原店など6か所にアクセスポイントを追加
-
【スピード速報(150)】静岡県のダウンレートトップ3は静岡市葵区、富士宮市、清水町
-
UQ&インテルがUQ WiMAX本格始動を発表、PCベンダー各社も本腰
-
[NTT東日本 フレッツ・スポット] 宮城県の東北大学百周年記念会館など9か所にてあらたにサービスを開始
-
【新幹線ネットVol.4(ビデオニュース)】京都へ行こう!ついでに無線LANも





