改革にはリーダーのパッション、戦略を遂行するスタッフが必要(竹中平蔵)——ITpro EXPO 2008【基調講演】 | RBB TODAY
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改革にはリーダーのパッション、戦略を遂行するスタッフが必要(竹中平蔵)——ITpro EXPO 2008【基調講演】

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慶應義塾大学 グローバルセキュリティ研究所 所長兼教授 竹中平蔵氏
  • 慶應義塾大学 グローバルセキュリティ研究所 所長兼教授 竹中平蔵氏
 日経BP社主催の総合ITイベント「ITpro EXPO 2008」(1月30日〜2月1日、東京ビッグサイト)の初日、慶應義塾大学・竹中平蔵氏による基調講演が開催された。「改革への戦略と人的資源」と題した講演の内容は、小泉内閣時代の大臣職の経験が生かされたものとなり、「今は一大学人ですから、何を言っても(大臣と違って)失言になりません(笑)」と語り、当時のエピソードを交えながら、人的資源の役割に関する問題提起を行った。

 まず竹中氏は、改革には「リアクティブな改革」と「プロアクティブな改革」の2種類があると言及。リアクティブな改革は、例えば日本経済で言えば不良債権処理のような、やらざるを得ない受け身の改革。プロアクティブな改革は、郵政民営化のような、攻めの改革、と説明した。そしてどのような改革においても必要な人的資源として、2つの要因を挙げた。それは、「リーダーのパッション」と、「戦略は細部に宿る」ことに対する配慮である。

 ここで竹中氏は、郵政民営化の衆議院採決直前のエピソードを紹介した。当時の自民党幹部が法案を修正(つまり骨抜きに)するよう、当時の首相である小泉氏に直談判してきたときのことだ。それに対して小泉氏は、「それなら衆議院で否決すればいい。後のことは総理大臣である私が一切の責任をとる」と強い態度で返したという。これこそがリーダーのパッションであり、物事を変革していくには、当然のことながら知識も必要であるが、熱い思いを持っている人材が育っているかどうかが重要であると竹中氏は説いた。

 また、改革によって既得権益を失う相手とは戦わざるを得ず、そのためにはパッションを持つリーダーの周囲に、戦略的思考を持って細部の知識を操れる人材がどれだけいるかが重要とも語った。企業の競争においても、良い物が良い物であると思ってもらえるような仕掛け、仕組みを作っていかなければマーケットに評価されないという点で、同じことが言えるというのだ。

 たとえば郵政民営化は、民営化を細部にわたって議論していくと、その方法は複数ある。NTTに代表される特殊会社も民営化の1つの方法であるが、ゆうちょ銀行とかんぽ生命を、商法に基づく「完全民営化」へ向かわせることができたのは、役所の記述を一字一句見逃さず、小泉氏の決定事項と異なる法案通過を事前に阻止したスタッフの存在があったからこそだという。

 ところが現政府に目を転じると、ここ1年は改革の勢いが低下していると竹中氏は言う。昨年日本の株価が11%低下した理由として、一般には米国サブプライムローン問題が挙げられるが、世界の株価は12%上昇、米国でさえも6%上昇しており、日本国内の要因があると指摘。郵政民営化を決めた2005年、日本の株価は42%上昇したことからも、「改革に対する期待の高まりが日本経済の活気へとつながる。日本の経済にはそういう潜在力がある」と改革の必要性を語った。

 日本は世界に先駆け、数年後に完全デジタル元年を迎えようとしている。「インフラが整い、そのためのスケジュールもできたが、ITの発展を阻む法制度や規制を改革することが、今まさに問われている。改革は必ずや既得権を持っている会社の利益にもつながるものであり、将来の日本経済発展のために、より大きな観点から進めてもらいたい」と締めくくった。

 「ダボス会議2008」から帰国したばかりの竹中氏は、講演の冒頭、同会議で開かれた“今年の経済最大のリスク要因は何か”をテーマとしたブレインストーミングの内容を紹介した。そのリスク要因としては、米国サブプライムローン問題による直接的な「金融危機」を抑えて、この問題に対して「各国政府が政策対応を誤らないか」「マーケットが過剰反応しないか」「各国が連携がとれるか」が上位3位を占めたという。これを竹中氏は、「しっかりと対応できればマネージできる。しかしその対応を官も民も誤らないかが最大の問題である」と語った。

 また、講演最後の質疑応答では、「ものづくりは日本の生きる道だと思うが、若い人を中心とした理系離れについてどう考えているか」という問いに、「技術を基盤にしたものづくりはこれからも非常に重要」としながらも、「GDPの4分の3を占めるのはサービス産業であり、ものづくりだけでは日本経済を発展させることはできない。特にサービス産業のうち、伸びが期待できる情報系と金融系において、より戦略的な思考が必要である。そしてその背景にある技術をないがしろにすることがあってはならない」と答えた。
《柏木由美子》
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