東京大学などの研究チーム、往復3万2,000km/9.08Gbpsでの通信に成功 | RBB TODAY
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東京大学などの研究チーム、往復3万2,000km/9.08Gbpsでの通信に成功

エンタープライズ その他
10ギガビットのインターネット最高速度を達成した、東京大学を中心とする研究チーム
  • 10ギガビットのインターネット最高速度を達成した、東京大学を中心とする研究チーム
  • 実験ネットワークの経路。東京→シカゴ→アムステルダム→ニューヨーク→シカゴ→シアトル→東京までの距離32372kmを、9.08Gbpsの速度でデータ転送
  • 実験のネットワーク構成。このネットワークには、世界各国の研究機関が参加しているGLIF(Global Lambda Integrated Facility)を利用。途中3台のルータで中継
  • 同チームによる、シングルストリームにおけるIPv6の速度記録の軌跡。従来まで同チームが持っていた記録を、速度で10.2%、距離バンド幅積で30.4%ほど向上。10ギガビットネットワークでは、事実上これが上限となる記録だ
  • 実験に利用したサーバ。マザーボードにSUPERMICRO X7DBE(CPU:デュアルコアXeon 3GHz、メモリ:4Gバイト)を採用。OSはLinuxで、NICはチェルシオ社製のS310と、ごく一般的なもので記録を達成した意義は大きい
  •  東京大学を中心とする研究チームは8日、同大学の小柴ホールにおいて記者会見を開き、10ギガビットネットワークにおけるIPv6の最終速度となる9.08Gbpsの記録を達成したと発表した。
 東京大学を中心とする研究チームは8日、同大学の小柴ホールにおいて記者会見を開き、10ギガビットネットワークにおけるIPv6の最終速度となる9.08Gbpsの記録を達成したと発表した。この成果は、東京大学データレゼボワール/GRAPE-DRプロジェクトが代表機関として研究を実施している、文部科学省科学技術振興調整費によるもの。科学技術データの国際的な共有システムの構築、天文学、物理学、生命科学のシミュレーションを実施する高速計算エンジンの実現を目指している。

 このインターネット速度記録(LSR:Land Speed Record)は、2006年12月31日に行われた実験でたたき出されたもの。東京→シカゴ→アムステルダム→ニューヨーク→シカゴ→シアトル→東京までを、WIDE、JNG2やSURFNet、CANARIEなど世界各国の研究機関のネットワークを利用して結び、往復距離32,372km、9.08Gbpsの速度でデータ転送する実験に成功した。これまで同チームが持っていた記録を、速度で10.2%向上、また距離とバンド幅を乗じた距離バンド幅積では30.4%(272,400Tb-m/s)も向上したという。

 今回の記録は、10ギガネットワークにおいて事実上の上限となるものだ。LSRの測定対象となるTCPペイロードバンド幅の理論値が9.1Gbpsであることから、理論値の99%以上の速度を実現したことになる。東京大学院情報理工学系研究科の平木敬教授は、この記録について、「将来のグローバルな高速化インターネットの利用に道筋をつけるもの。利用したサーバも秋葉原などで市販されており、今回の技術を使って幅広い活用が可能になる」と語った。また、IPv4とIPv6(シングルストリーム)で速度記録の差がなくなったことも大きな成果のひとつだ。

 平木教授は、「日本のIPv6技術が世界的なレベルであることを実証した」と胸を張る。今回の記録速度ならば、日本の反対側までDVD1枚のデータを4秒で転送、あるいは非圧縮のHDTVデータを6ストリームほど伝送できる。地球規模で科学技術研究の共有、地球規模コンピュータの構築、HDTVなどの高精度マルチメデイア情報の遠隔利用などが現実のものとなる。

 実際に利用されたサーバは、マザーボードにSUPERMICRO X7DBE(CPU:デュアルコア Xeon 3GHz、メモリ:4Gバイト)を採用。OSはLinuxで、NICはチェルシオ社製のS310と、ごくごく一般的なもの。とはいえ、インターネット最高速を達成した背景には、3つの大きな技術が利用されていた。

 まず「レイヤ間協調最適化技術」がそれだ。これは、実際の通信上でのパケット最適配置や複数ストリーム間の協調によって、高速通信を実現するもの。TCPの流量制御と協調するパケット位置の最適化を行い、中間スイッチや受信サーバのパケットロスを極小化したり、TCP通信のバーストが起こらないようにしたりと工夫がこらされている。また、通信時のCPU負荷を低減するために、「ゼロコピーTCP通信」も利用している。この技術自体は以前からあったものだが、これを遠距離のTCP通信に適用。通常、通信プログラムを実行する際には、ユーザメモリからカーネル側に1回コピーする必要があるが、ゼロコピーTCP通信ではメモリ共有によってコピーを不要としている。さらに、ハードウェア的なバックグラウンドとして、サーバの高速化もある。市販品とはいえ、近年のプロセッサ、メモリバスの高速化などの進歩も挙げられるという。

 今後はこの長距離ネットワーク記録で確立した技術をベースに、10ギガネットワークだけなく、これらを束ねた20ギガ、40ギガネットワークなどの分野や、3万kmを超えるネットワークパスによる実験などにも活用していく方針だ。
《井上猛雄》
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