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【CEATEC 2006 Vol.29】NGNは電話型ネットワークへの逆戻りか?!

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 CEATEC JAPAN 2006(会場:幕張メッセ)カンファレンス会場にて、三菱総合研究所の西角直樹氏より、「次世代ネットワーク(NGN)のもたらす競争環境の変化」と題したセミナーが開催された。
  •  CEATEC JAPAN 2006(会場:幕張メッセ)カンファレンス会場にて、三菱総合研究所の西角直樹氏より、「次世代ネットワーク(NGN)のもたらす競争環境の変化」と題したセミナーが開催された。
 CEATEC JAPAN 2006(会場:幕張メッセ)カンファレンス会場にて、三菱総合研究所の西角直樹氏より、「次世代ネットワーク(NGN)のもたらす競争環境の変化」と題したセミナーが開催された。

 西角氏は、講演内容が同氏の個人的見解に基づくものであって、三菱総合研究所の公式見解ではないと述べたうえで、過去の電話網とインターネットで行った競争と考察するとともに、次世代ネットワーク(NGN)による競争環境と変化について講演した。

■既存インフラと比較したNGN
 標準化の観点では、NGNは電話(回線交換)陣営からのIPに対するアプローチであり、米国主導のインターネットと異なり、欧州主導でそれにアジアが追随するかたちで進んでいる。また機能の観点では、IPを基盤とするものの、ベストエフォート型ではなくQoSを前提としていること、そして伝送とサービス基盤を分けた垂直分離である点が挙げられる。

 NGNの目指すところは電話網とインターネットそれぞれの長所を合わせたネットワークであるが、実際には簡単に両立すると思っている人は少ない。ではどう実現されていくかについては、当初はSmall NGN(キャリア網の置き換え)として出現し、場合によっては、NTT東西の地域IP網のような、NGI(次世代インターネット)上の閉域網にとどまる可能性もあるという考えが優勢である。こうしたSmall NGNにとどまることなくNGNが発展していくためには、横方向(キャリア間)と縦方向(レイヤ間)の連携をいかに拡大できるかがカギとなるだろう。

■今なぜNGNなのか?
 国策の視点からは、第1に、国家が目指すユビキタスネットワーク社会に向け、NGNが誰もが安心して使えるネットワークという概念にフィットしており、これがインターネット的アプローチよりも優位性を持っていること。第2に、電話の世界では国内の独自仕様が海外進出の障壁となり、またインターネットの世界でも海外発の仕様に出遅れてしまうという過去の経緯から、NGNは巻き返しを図るチャンスと見ている点が挙げられる。

 一方、キャリアの視点から見ると、当然のごとく懸念されるであろうことは「巨額の投資をいかに正当化できるのか」であるが、ビジネスポートフォリオの観点からすれば付加価値のシフトに対応できることが考えられる。これは、固定電話収入が減少の一途をたどっており、伝送レイヤだけでなく、プラットフォーム、サービスレイヤからも収益を上げられる構造へビジネスポートフォリオを組みなおす必要性に迫られていることから言える。コストセービングの観点からは、CAPEX(設備投資コスト)とOPEX(運用コスト)の両面で公衆電話網(PSTN)の維持に限界がきていることである。さらに新規サービス創出の観点からは、前述の2つの観点が正当化できる主要な要因であって、キラーアプリケーションが見えてこない現状では新規サービス創出に対するプライオリティは低いと見られる。

 またエンドユーザーの視点からは、顕在化しているニーズは限定的であると思われる。現在のインターネット上ではさまざまな問題が発生しており、ある意味ではパソコン通信に逆戻りしているとも思われるようなSNSへの逃避が行われている。したがって初心者でも簡単に安心して利用できる環境へのニーズは高まるが、ただしこれは今のインターネットに対する不満の裏返しであって、消極的なニーズにすぎない。NGN提供サイドからのサービス提案には手詰まり感があり、これがNGN最大の問題点として批判・心配が集中しているのが現状である。しかしながら、過度に悲観的になる必要はなく、サービス生む構造を用意し、またWin-Winの関係でサードパーティを巻き込めればいいのではないか、と考えることもできる。

■NGNがもたらす競争環境の変化
 キャリア間競争への影響としては、中継系事業者にとっては、過去のPSTN投資が無駄になる、NGNへの移行に伴って顧客が流出する、といった可能性がある。またアクセス系事業者にとっては、足回りをNGNキャリアと同条件で提供できない、中継系事業者同様に顧客が流出する、といったリスクが考えられる。

 またレイヤ間競争への影響として、プラットフォームレイヤについて考えてみた場合、従来はISPがサービスプラットフォームも提供していたが、NGNではそうした機能がサービス基盤で代替される可能性がある。ではインターネットとの接続のプレイヤーは誰になるのか、といったリスクが懸念される。一方のコンテンツ/アプリケーションレイヤの場合は、現状ではチャンスともリスクとも、どちらにもとらえることができる。

■想定される規制措置とその影響
 規制措置の方向性としては、まず電話とインターネットのいずれのスタイルが適用されるかを一概に決めるのは難しく、したがって複雑なものにならざるを得ない。具体的な施策としては、英国BT事例に見るアクセスの同等性や、米国発日本流のネットワーク中立性、レイヤ2/3の相互接続、プラットフォーム機能の開放、接続料の規制といった可能性があると見られる。

■NGNの実現シナリオ
 過去のトレンドから見た場合、NGNは全国民が安心利用できる社会インフラへの脱皮になるという理想がもたれている。また電話、インターネット、NGNと移行する際に、帯域においてはナローバンドからブロードバンドへ進むのは明らかである。しかし、ネットワークの構成においては、インテリジェントな集中型ネットワークの電話から、分散型のダムネットワークのインターネットへシフトしたが、NGNでは分散型を推し進めるどころか、集中型に揺り戻すと見られている。これはエントロピーからすれば自然の摂理に逆行した流れであり、NGNがどちらに進むかはまだ明確ではない。

 またインターネットとNGNの関係から見た場合、NGNはインターネットの直接の延長上にないことは明らかである。ではどのように存在するかについては、1つにユーザーが大半のサービスをNGNで使用し、一部でインターネットを使用するシナリオ、2つにNGNとインターネットが同程度に共存すシナリオ、3つにインターネットの一部として通話やビデオ会議などで限定的にしかNGNが利用されないシナリオ、の3つが考えられる。

 それではNGNの将来像はどうなるかについては、まずNGN構築キャリアの動きと規制当局の考えは同床異夢であり、サービス軸とネットワーク軸の関係において互いに対立軸にあること明らかで、そのなかでどこに着地するかを考えると、ネットワーク軸では、インターネット型の自由競争になるか、あるいはiモード型のキャリア主導の市場拡大となるかは、今後の動向次第である。一方のサービス軸においては、やはり既存サービスの置き換えに終わるよりも、新規サービスの開花が望まれる。それにはサービス基盤が、上下の各レイヤのプレイヤーたちから広く利用されることがカギとなるであろう。
《柏木由美子》
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