論争に巻き込まれ、制作が中断された韓国ドラマが、5年を経て再び姿を現そうとしている。
ハン・ソッキュ主演の新ドラマ『スピーキング・デッド』(原題)だ。
同作はもともと『朝が明けるまで』というタイトルで、全16話として企画された作品だった。
ところが、韓国では、原作となった中国小説『検察官の遺言』(原題『長夜難明』)をめぐって、中国共産党を美化しているのではないか、習近平主席の宣伝小説ではないかという疑惑が浮上。2021年に制作が中断された。
当時、制作陣と出演者はすでに8話分まで撮影を終えていたという。今回の『スピーキング・デッド』は、その既存撮影分をもとに8部作として再編集された作品だ。
公開時期は未定だが、7月2~12日に開催されている第30回富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭にも公式招待されたという。
“そう見える”だけで炎上する韓国ドラマ

興味深いのは、この作品が時代劇ではないことだ。
『スピーキング・デッド』は、テロ容疑者として世間の注目を浴びることになった法医学者の自白をきっかけに、10数年前の真実を追っていく犯罪スリラーだ。
王宮も、朝鮮王朝も、歴史上の王も登場しない。それでも、原作が中国小説であり、その原作をめぐる政治的文脈が問題視されたことで、制作そのものが止まった。
ここに、近年の韓国ドラマが置かれている難しさがある。
韓国ドラマでは、しばしば「これはフィクションです」という説明だけでは済まされない。歴史上の人物を扱う時代劇はもちろん、架空の王室を描いたロマンス、近現代史を背景にした恋愛ドラマ、さらには中国原作の犯罪スリラーであっても、そこに歴史、政治、文化の記号が見えた瞬間、視聴者は現実の文脈と結びつけて読む。
最近、その典型となったのが、IUとビョン・ウソク主演のドラマ『21世紀の大君夫人』だった。

同作は正統時代劇ではなく、架空の王室を舞台にしたロマンスに近い作品だった。にもかかわらず、終盤に歴史考証をめぐる論争が浮上した。
問題となったのは、イアン大君(ビョン・ウソク)の即位式で臣下たちが「万歳」ではなく「千歳」と叫んだ場面だ。「万歳」は自主独立国の君主に対する表現であり、「千歳」は皇帝国に属する諸侯国が使う表現と見なされるため、韓国の王権を中国皇帝の下に置くような描写ではないかという批判が出た。
さらに、王冠や礼法、中国式の茶道に見える場面も問題視され、制作陣は謝罪。再放送やVOD、OTTサービスで問題部分を修正すると明らかにした。騒動は放送後も収まらず、ブルーレイ発売中止や、コンテンツ廃棄を求める請願にまで発展した。

つまり架空の世界であっても、王、即位式、臣下、冠、礼法といった記号が出れば、視聴者は現実の朝鮮王朝史や中国との関係を重ねる。制作側が「フィクション」と断っていても視聴者がそこに歴史認識の問題を見れば、論争は避けられないわけだ。
同じような構図は、時代劇ではない作品にもある。
BLACKPINK・ジスとチョン・ヘインが主演した『スノードロップ』は、1987年の韓国を背景にした恋愛ドラマだった。だが、「南派スパイ(北朝鮮のスパイ)」「安企部(国家安全企画部)」「学生運動」という設定をめぐり、民主化運動を歪曲しているのではないかという批判に直面した。
制作側は、登場人物や機関、設定はすべて仮想だと説明した。しかし、視聴者はそう受け止めなかった。1987年という時代は、韓国社会にとって今も生々しい歴史と結びついている。そこに恋愛ドラマとしての創作を重ねたとき、「架空だから問題ない」という説明は十分な説得力を持たなかった。

『スノードロップ』の放送中止を求める国民請願は30万人以上の賛同を集め、スポンサーの撤退も相次いだ。最終的に作品は全16話を放送したが、最後まで歴史歪曲論争を引きずった。
韓国ドラマ史で、より直接的な衝撃を残したのは、2021年に放送された『朝鮮駆魔師』だろう。
悪魔払いを題材にしたファンタジー時代劇だったが、実在の歴史人物を登場させながら、中国風に見える食卓や衣装が批判を浴び、わずか2話で放送中止となった。当時、韓国ではキムチや韓服をめぐる中国との文化起源論争が強まっており、中国風に見える演出は、単なる美術ではなく「韓国文化を中国化している」と受け止められた。
『スピーキング・デッド』のケースも、この流れの延長線上にある。

ただ、この騒動には皮肉もある。原作小説『検察官の遺言』の内容そのものが、明確に中国共産党を美化する作品だったと確認されたわけではないということだ。むしろ当時は、中国司法の現実をリアルに描いた社会派小説として説明されていた。
それでも、中国の『検察日報』などの公式Weiboで同作を広報するような投稿が掲載されたことが知られると、韓国のネット上では「なぜ政府側の公式機関が、国家の闇を描く小説を推すのか」「結局は政府に都合の良い宣伝小説なのではないか」という疑念が広がった。
実際の内容がどう評価されるか以前に、そう見えてしまったことが問題になる。いまの韓国ドラマを取り巻く空気の怖さは、そこにある。
結果として、『スピーキング・デッド』は制作中断から5年を経て、ようやく再び姿を現すことになった。
韓国ドラマにとって、「これはフィクションです」は、もはや免罪符にならない。
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