近年、旅行先や移住先として「タイ」への関心が高まっている。タイ国政府観光庁(TAT)の発表によると、2024年にはコロナ禍以降初めて日本人の訪タイ者数が100万人を突破した。こうした流れを後押ししているのが屋台からレストランまで広がる多彩な外食文化、いわゆる“タイ飯”の魅力だ。


一方で、観光客が訪れる飲食店の多くはガイドブックやSNSで話題の定番スポットに偏りがちだ。そのため、現地の人が日常的に通う“本当に美味しい”ローカル店は、いまだ十分に知られていない。そこでRBB TODAY編集部では、今回から「観光ガイドでは見つからない、リアルに美味しいタイのローカル店」を紹介する連載を展開していく。グルメ誌やガイドブックでは取り上げられにくい“地元民の通う名店”を発掘することを目的としている。
今回お話を聞いたのは、夫婦でYouTubeチャンネル「TRAVITO CHANNEL」を運営し、現在はタイ・バンコクを拠点に活動する伊藤夫妻。「食べて、撮って、旅する伊藤」をコンセプトに、タイを中心に旅行情報・グルメ情報を発信している。
発信活動のきっかけは、妻・マリコさんがInstagramを中心に国内外で旅行系Vlogを始めたこと。2025年3月よりYouTubeを開始し、夫・サトキさんも動画に出演するようになった。同年6月にタイへ移住したのを機に、タイ情報を中心に発信するようになったという。
伊藤夫妻の動画の中でも、特に人気なのが『1ヶ月タイ飯チャレンジ』だ。同企画は、移住直後の2人がタイ料理を昼食と夕食の1日2食で30日間、合計60食食べ続けるというもの。
実際、移住直後にタイ料理を食べ続けた感想はどうだったのか。60食の中で、特に印象に残った飲食店はどこなのか。伊藤夫妻に、タイ初心者が気になる疑問を詳しく聞いてみた。
“過去イチ美味しいガイヤーン”が食べられる穴場『Nom Jit Kai Yang(ノムジットガイヤーン)』

普段は和食・洋食・エスニックをローテーションしながら食べているという伊藤夫妻。今回の企画は、移住直後の最初の1か月という“タイ料理が一番おいしく感じられる時期”に実施したという。
1か月間にわたる企画では、“タイの王道な名店”から“ガチローカル屋台”まで、ジャンルを問わずさまざまな店を紹介していた。その中でも特にハマった料理が「ガイヤーン」だったという。ガイヤーンとは、タイ・イサーン地方発祥の鶏の炭火焼きで、甘辛いタレに漬け込んだ鶏肉を香ばしく焼き上げる料理だ。



動画では複数のガイヤーン料理を扱う店舗が登場しているが、その中でもマリコさんが「過去イチ美味しいガイヤーン」と語るのは、エカマイ通りにある老舗ガイヤーン店「Nom Jit Kai Yang(ノムジットガイヤーン)」だ。店内は混雑しているわけではなく、こぢんまりとした“穴場”の店だ。

伊藤夫妻がガイヤーンを注文すると、こんがりと焼き目がついたガイヤーンが熱々の状態で提供された。ドラム(骨付きもも肉)を一口食べると、マリコさんは「待ってください。これ、過去イチだ。ケンタッキー超えた。衝撃。」と大絶賛。サトキさんも「まじでウマい」と舌鼓を打った。

同店はソムタムやラープなど、ガイヤーン以外のメニューも充実している。伊藤夫妻は、豚ひき肉のスパイシーサラダと春雨のサラダが合わさった「ラープウンセンムー」を注文。唐辛子がピリリと辛く、マリコさんも「ちょうどいい辛さ!」と感想を述べた。

本場イサーンの味が楽しめる屋台『Larb Pet Yasothon(ラープペットヤソートーン)』

外食文化が根付くタイでは、屋台で振る舞われる料理も絶品だ。特に、二人が気に入ったのが、シーロム通りにある「Larb Pet Yasothon(ラープペットヤソートーン)」だ。バンコクの屋台でも「ラープ・ペット・ヤソートーン」は、タイの東北部地方“イサーン”出身者の味として人気の店だ。




二人が注文したのは、鴨肉を使ったスパイシーな和え物料理「ラープペット」。鴨肉を細かく刻み、炒り米粉(カーオクア)・粉唐辛子・魚醤・ライム・ハーブ類で和えた料理だ。また、テリテリで香ばしい見た目の「ガイヤーン」も注文した。タイはとにかく「鶏肉」が美味しいと語る伊藤夫妻。タイでは放し飼いで育てられた地鶏が多く、肉質の締まりと旨味が特徴だ。さらに、店ごとに漬けダレの味が異なり、ナンプラーやレモングラス、にんにくなどを効かせた独自の調合が“個性”を生み出している。


香港式ワンタン麺店『菊花園(GOKFAYUEN)麺家』で“おかゆ”の概念が覆った
そんな伊藤夫妻にとって“意外と美味しかった料理”が「タイのお粥」だという。とりわけマリコさんは、もともとお粥が得意ではなかったそうだが、タイのお粥は「スープのようにとろとろで、味がしっかりしていて驚くほどおいしい」のだとか。中国や韓国のお粥よりも味付けが濃い印象だという。


動画では、夫妻がバンコク・トンロー拠点の香港式ワンタン麺店「菊花園(GOKFAYUEN)麺家」でお粥を堪能。サトキさんは「おかゆの概念が覆った」と大絶賛。マリコさんも、日本に住んでいた頃はお粥に“病院食”のイメージがあったが、この店のお粥はまったく別物だと語る。

もちろん、看板メニューのワンタン麺も絶品だ。同店では自家製の玉子麺、スープ、ワンタンに加え、チリソースまで手作りにこだわっている。なかでもワンタンのエビはプリプリで食べ応え十分だ。
“何を食べても美味しい”有名シェフのいるローカル店『KAI chef House(カイシェフハウス)』


伊藤夫妻に“特に印象に残っている飲食店”を尋ねたところ、紹介されたのが「KAI chef House(カイシェフハウス)」だった。紹介されたのが「KAI chef House(カイシェフハウス)」だった。同店は、注文ごとに鍋を振るう炒め物や定食などが提供されており、ローカル客中心のカジュアルな雰囲気が特徴だ。テレビにも出ている有名なKAIシェフが切り盛りしており、伊藤夫妻もシェフの人柄を気に入っているという。

伊藤夫妻が店に入って驚いたのは、メニューのレパートリーの多さ。マリコさんもあまりのメニュー表の厚さに「ボリュームが半端ない!薄めのタウンワークくらいある」と驚いていた。



注文した品の中で、特に二人が気に入ったのが「ポークネック」だ。ポークネックとは、豚の首(肩)まわりの霜降り部位で、脂の甘みと弾力ある食感が楽しめる肉のこと。タイの屋台でよく売られている豚肉の串焼き(ムーピン)に似た甘い香りが特徴だという。サトキさんは「タイで食べたポークネックの中で一番柔らかい」と語り、それがたまらなく美味しいのだという。

伊藤夫妻はポークネックのほか、タイ風の焼きそば「パッタイ」も堪能。パッタイとは、米麺(センレック)をタマリンドの酸味・ナンプラー・砂糖で甘酸っぱく炒め、卵やエビ、もやし、ニラ、砕いたピーナッツなどを合わせた定番料理だ。伊藤夫妻は同店の料理について「何食っても美味しかった」と満足そうに振り返った。
“1ヶ月タイ飯”でも「意外と飽きなかった」

『1ヶ月タイ飯チャレンジ』を終えた伊藤夫妻に、正直“飽き”はなかったかを尋ねると「意外と飽きなかった」との答えが返ってきた。二人は企画を振り返り、「タイ料理はやっぱり種類が豊富だなって思いましたね。飽きなかったし、全部美味しかった」と口をそろえる。
タイ料理といえば辛い印象が強いが、実際に移住してみて感じたのは辛くない料理の選択肢も多いという点だ。「辛くない料理も結構多いですし、味付けも日本人にとって親しみやすいものが多い」と語った。今回の『1ヶ月タイ飯チャレンジ』のように、今後も伊藤夫妻は観光名所や有名店の紹介だけではなく“住んでいるからこそ撮れる日常”を深掘りしていきたいという。
伊藤夫妻は、その他の動画でガイドブックにはほとんど載っていない“裏路地の隠れた名店”を訪れている。次回の記事では『バンコク裏グルメ』をテーマに、お二人に“行きにくいけど美味すぎる”裏グルメの魅力を伺う。















