【仏教とIT】第26回 仏像は「拝む」より「推す」時代? | RBB TODAY
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【仏教とIT】第26回 仏像は「拝む」より「推す」時代?

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【仏教とIT】第26回 仏像は「拝む」より「推す」時代?
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仏像総選挙!!



2月半ば、ふとツイッターのタイムラインにあがってきたパワーワード、「仏像総選挙2020」。添えられていたのは、栄えある1位目指して競い合う48体の仏さまたちの写真。仏像ってアイドルだったのか。あ、新しい……。私は、光の速さでリツイートしてしまっていた。



投票は2月末日で締め切られた。開票結果は、3月22日(日)に東京・上野にある観音ハウスでお客さんを入れて発表される予定だったが、新型コロナウィルス感染予防のため同日に動画配信のみで行われることになった。遠方にいる仏像ファンにとってはかえって喜ばしい、神対応ならぬ仏対応だったのではないか。

https://www.pscp.tv/w/1kvJpXVQmlQJE

さて、仏像総選挙2020で115票を集め、栄えある1位に輝いたのは、奈良県興福寺の阿修羅像。200万人近くを動員(巡回展すべて含む)した「国宝阿修羅展」以来、10年以上にわたって仏像ブームを引っ張ってきた立役者。1位を予想した人も多かっただろう。投票者からは「ご対面すると惚れ惚れするぐらいイケメン」などとコメントが寄せられた。そう言われてみると、確かに美男子で、しかも人間くさい表情をしている。惚れてしまう人がいてもおかしくない。



とはいえ、阿修羅像がダントツの1位ではなく、2位になった京都府広隆寺の弥勒菩薩像はわずか2票差の113票。「とにかく美しい。最小限の線で最大限の流麗な美しさが出ている」などと、こちらは「美」への称賛が相次いだ。そういえば私も、中学生ぐらいのときに日本史の教科書で、この弥勒菩薩像を見て以来、色っぽさを感じてずっと気になる存在だった。



配信では、他にもそれぞれの仏像の「推しポイント」が丁寧に語られていて、私も絶えずなるほどと頷きながら楽しんでいた。仏像マニアだけでなく、これから仏像を推してみたい人にも、おススメの動画である。アーカイブが残されているので、ぜひご視聴ください。


総選挙のなかの人たち



仏像総選挙の仕掛け人は、仏像部という。
部員は首都圏に住む30代の5人。「仏像を楽しみたい」「仏像好きや、仏像に興味のある人が集まる場所があったらいいな」ぐらいのゆるやかさで活動をしているそうだ。

2009年にmixiのコミュニティ「仏像部」からスタートし、イベント「仏像ナイト」を開いたり雑誌「BTUTUS(ブツータス)」を発行したりと、仏像の魅力を語ってきた。その後、しばらくの空白期間を経て、2019年末に活動再開。

仏像ナイトvol.4(2012年11月3日)。「世田谷ものづくり学校」という学び舎を舞台に、仏像ファンの文化祭


仏像をデザインしたオリジナルのキャラ弁。「BTUTUS」の誌面より


そして、この2月、仏像総選挙2020を開催。「多くの人に馴染みのありそうな仏像をセレクトして、興味を持ってもらえたら」と部長のニャンピョウさん。「案外、投票数が伸びて驚きました。『修学旅行で惚れた』というコメントもいただき、仏像に対する思い入れってやっぱりあると知りました」と反響を喜ぶ。
私はあいにく仏像部とこれまで交流がなかったが、開票動画を見ていたり、この取材のために部長に話を聞いたりしていると、なんだかふわっと落ち着く。総選挙について聞いてみてもまったく肩ひじ張っていない。しかも、「48といえば、やっぱり某アイドルグループのイメージですよね。でも、仏像部的には観音ハウスのある上野トーハクの48体仏にかけていて。総選挙にも競い合うイメージがあるかもしれませんが、企画の主旨は、あくまでもみんなの仏像愛やパッション、仏像とのエピソードなんかが集められて、それをワイワイ共有すること。それが叶ったので嬉しいです」と、気が利いていたりもする。仏像愛が楽しくこじれている、素敵な部活動である。

今後もユーモラスな企画が生まれてくると期待している。さしあたっては、仏像部さんでは部員5人によるブログを更新頻度高めにアップしていくそう。まずはそちらから今後の仏像部の展開を注目していてほしい。


「推す」から「拝む」へ



とはいえ、仏像で選挙することに多少の戸惑いを持つ人もあるのではないか。
お寺で育った私にとってもそうで、仏像はあくまで「推す」よりも「拝む」対象であり、世俗的な価値を越えたところにある存在だった。しかし、選挙するとなると、「推し」の仏像を選んで投票することになるし、投票の結果、トップから最下位までのランキングが決まってしまう。つまり、すごく世俗的な世界に仏像を引き込んでいる。

ただ、教科書でときめいて以来気になっていた京都府広隆寺の弥勒菩薩像が、僅差の第2位に選ばれたとき、私は素直に嬉しかった。自分もひそかに推していたことに気づいたし、同じ感情を持っている人がたくさんいることにほっとした。こういう形で仏像のて力が語られていくことは、やはり素晴らしい。

それに、家庭に仏壇のないのが当たり前の時代には、いきなり仏像を拝むのは難しい。マナーもわからなければ、心の持ちようもわからないからだ。でも、日本の古寺にまつられる仏像たちは愛らしい。はるかなる時間を越えて、現代の私たちをひきつけてやまない。そういう意味では、推すぐらいの手軽さから仏像の世界への入口を提供するのは、すごく正しい。

「国宝阿修羅展」で阿修羅像が大人気になってからは、仏像フィギュアを自宅に招く動きもある。東京・表参道にある仏像ショップ「イスム」の店内には有名寺院の仏像を摸して作られた「仏像フィギュア」が並ぶ。購入されたお客さんは、自宅の玄関やリビングに好きな仏像をまつっていると、オリジナルの仏像がまつられているお寺を訪ねたくなっていくという。つまり、「推す」感情が高じていくと、その気持ちはやがて「拝む」へと深まっていく。

イスム店内。ポリストーンで精巧につくられた仏像フィギュアたちが並ぶ


そう考えるなら、仏像総選挙のような俗っぽい私たちのお遊びさえ、仏さまはあたたかく見守ってくれている。罰当たりだとか気にすることなく、「推し仏」を探したり、フィギュアを買ってみたりするところからでも、仏像の世界に出会ってほしいと願う。

池口 龍法氏
池口 龍法氏

【著者】池口 龍法
1980年兵庫県生まれ。兵庫教区伊丹組西明寺に生まれ育ち、京都大学、同大学院ではインドおよびチベットの仏教学を研究。大学院中退後、2005年4月より知恩院に奉職し、現在は編集主幹をつとめる。2009年8月に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させて代表に就任し、フリーマガジンの発行など仏教と出合う縁の創出に取り組む(~2015年3月)。2014年6月より京都教区大宮組龍岸寺住職。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)、寄稿には京都新聞への連載(全50回)、キリスト新聞への連載(2017年7月~)など。

■龍岸寺ホームページ http://ryuganji.jp
■Twitter https://twitter.com/senrenja
《池口 龍法》
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