「コーヒー界のグーグル」が起こす、IT目線の生産性革命【後編】 | RBB TODAY
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「コーヒー界のグーグル」が起こす、IT目線の生産性革命【後編】

ビジネス 経営
「ITによる生産性向上」というビジネス文脈から極めて示唆的な内容をもっている「ALPHA BETA COFFEE CLUB」。ITとひとの関係を彼らはこんな風に語っている。「ITが定める方法に従って物事を決定しています。つまりハードウェア重視とデータ重視です。プロセスは関係ありません」。ひとにITを合わせるのではなく、ひとがITに合わせることが重要なのだ
  • 「ITによる生産性向上」というビジネス文脈から極めて示唆的な内容をもっている「ALPHA BETA COFFEE CLUB」。ITとひとの関係を彼らはこんな風に語っている。「ITが定める方法に従って物事を決定しています。つまりハードウェア重視とデータ重視です。プロセスは関係ありません」。ひとにITを合わせるのではなく、ひとがITに合わせることが重要なのだ
  • ABC Coffee(株)創業者の大塚ケビン氏(右)とアルヴィン・チャン氏(左)。CEOの大塚氏は、スタンフォード大学を卒業後、「Google」にてアジア太平洋地域におけるデジタルマーケティングの責任者を務めた。一方、プロダクト兼デザイナーであるチャン氏は、サンフランシスコのフードデリバリーサービス「Zesty」の創業者でもある
  • 「やらないと何が正しいのかはわからない」。まずできるだけ早く、実験したことのアイディアが間違えていないかを確認する。何回も繰り返すことでアイディアの正誤がみつかりやすくなる。たくさんの準備をして開発に時間をかけても、初めのアイディアが間違えていたならば、その時間は無駄になってしまう。早くスタートして、その後調整していくのが効率的なのだ
  • 「地図よりコンパス」。世界はすごい速度で変わっている。目的地への道はまっすぐ一本ではない。次に具体的に何があるかわからない。そんな世界では方向性さえ見えればいいのだ。完璧な物を作るのではなく、ローンチしてから調整していく。彼らの社名のアルファベータもその方法に由来している
 先ごろ、東京の自由が丘に気になるコーヒーショップができた。「気になる」中身だが、コーヒーの味やカリフォルニアのトレンドが楽しめるのはもちろんとして、それ以上に「ITによる生産性向上」というビジネス文脈からも極めて示唆的な内容をもっている点に、おおいに興味を惹かれるのだ。そのコーヒーショップの名前は「ALPHA BETA COFFEE CLUB」(アルファベータコーヒークラブ。以下「ABC」)。創業者はアジア系アメリカ人の二人。かつてグーグルのアジア太平洋地域におけるデジタル・マーケティングの責任者を務めた大塚ケビン氏と、サンフランシスコのフードデリバリーサービス「Zesty」で成功を収めたアルヴィン・チャン氏。そして「ABC」のキャッチコピーは「ITの目線」「コーヒー界のグーグル」だ。

 サードウェーブコーヒーなど、いま日本ではかつてないほどのコーヒーブームが起こっている。町を見渡せば、職人技を誇る専門店から大衆的な大型チェーン店まで様々なコーヒーショップがある。そんななか、新たな視点「ITの目線」が投げかける考え方や具体的な方法は、コーヒーショップ経営に関わるひとのみならず、生産性改善を目標とする数多くのサービス業者への力強いアドバイスとなるように思えるのだ。

「ABC」のフィジカルショップ(リアル店舗)でのITの使用法や開発手順、ブランディングやPR方法、そして「ITの目線」からみる日本の生産性向上へのヒントーーこれら3つのテーマに分けてお届けするシリーズ「『コーヒー界のグーグル』が起こす、IT目線の生産性革命」、大塚ケビン氏とアルヴィン・チャン氏の二人の挑戦に注目してほしい。

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【後編:日本の生産性向上のヒントはどこにあるのか?】


■「職人的」にこだわりすぎる店に「効率性だけ」の店。もうひとつの道があるはず

ーー日本のカフェやコーヒーショップで疑問に感じることははありますか?

大塚ケビン(以下、ケビン) お客さんへの関心以上に、コーヒーそのものに注目し過ぎているように思います。もちろん商品へのこだわりは大切ですが、コーヒーが美味しくさえあればお客さんが来るという考え方は、そこから先の将来を難しくするのではないでしょうか。

他にもお店の雰囲気作りを優先させるあまり、お客さんのスペースやサービスが二の次になっていることがあります。コーヒーを淹れる場所が大きすぎるお店も疑問に感じます。

こだわり優先から特別な美味しさが生まれるのは面白いことだし、コアなファンを作ることにつながるのでしょうが、ビジネスの側面で考えると継続性や広がりがなくなる可能性があります。

コーヒーショップではありませんが、ほかの飲食店の成功例をあげてみましょう。ミシュランの三ツ星を獲ったお店でも、三つ星店でお金を儲けているのではなく、ハードルを下げた姉妹店的なお店で利益を得ているのです。

全米一予約が取れないといわれるレストラン「フレンチランドリー」のトーマス・ケラーも、そのお店ではなく他のビストロやカジュアルなホームスタイルの系列店で儲けています。僕たちはそういうやりかたがおもしろいと思っています。

アルヴィン・チャン(以下、アルヴィン) 品質にこだわりすぎて次に進めないお店が多いなか、ビジネスとしてお金を生むのはそういう方法なんです。

ーー一方、日本にはチェーン展開のコーヒーショップはたくさんありますよね。

アルヴィン チェーン店は生産性にこだわり過ぎている。そして商品に至るプロセスがいっぱいありすぎるんです。

ケビン ビジネスシステムを確立したことに敬意は払います。でも残念ながら味は良くありません。

アルヴィン コスト、クオリティ、エフィシェンシー(効率)ーーこの3つのバランスが重要だと思います。チェーン店の問題点はフレキシブルではないことです。たとえばメニューを変えるのも大変です。新しい味を追いかけようとしてもスケールが大きすぎるんですね。

■プロセスにはこだわらない。アウトプットを作ることがゴール

ーー会社を立ち上げる前にどんなリサーチをしましたか?

アルヴィン オンラインで色々と調べました。日本はラッキーな環境でした。スペシャリティコーヒーのデータがネットにいくつもありますし、各地の焙煎所のネットワークもあります。

ケビン 大きな分析もやりましたが、最初は友達くらいのレベルから始めて、そこからフィードバックを重ねて成長してきました。そこで得た情報からサービスも改善していきました。ある種の実験を重ねてきたわけです。

「やらないと何が正しいのかはわからない」、それがスタートアップ企業の考え方です。なぜなら考えてもわからないことが多いし、それ以前に根本が間違えているデータを使っている場合もあります。そんなことは日常茶飯です。

まずできるだけ早く、実験したことのアイディアが間違えていないかを確認する。何回も繰り返すことでアイディアの正誤がみつかりやすくなります。たくさんの準備をして開発に時間をかけても、初めのアイディアが間違えていたならば、その時間は無駄になってしまいます。早くスタートして、その後調整していくのが効率的なのです。

アルヴィン 僕たちは「フィードバックスタイル」と呼んでいます。これは「カイゼン」とは異なります。カイゼンっぽいのですが、もっとスモール。ダイナミックなカイゼンとは違います。コストはどう? お客さんはどう感じているの? といったような、もっと手前のカイゼンですね。そして重要なのはプロセスにこだわらないという点にあります。

ケビン 自分たちの作った商品がお客さんにフィットしているのかどうかを確かめるのが、まずやるべきことです。細かい部分は根本には関係ありません。根本がお客さんに合っているかどうか? カイゼンはその次に始まります。



アルヴィン ALPHA BETA COFFEE CLUBのカルチャーは「IT系」だと思います。ITが定める方法に従って物事を決定しています。つまりハードウェア重視とデータ重視です。プロセスは関係ありません。

アウトプットを創ることがゴールであって、そこに至るプロセスは重視しません。それが一番効率的なのです。結果重視。トライして問題を見つける、ユーザーを見ながら調整していく。完璧な物を作るのではなく、ローンチしてから調整していくのです。社名のアルファベータもその方法に由来しています。

「地図よりコンパス」。これはMITメディアラボ所長の伊藤穣一の言葉です。世界はすごい速度で変わっています。目的地への道はまっすぐ一本ではない。そんな世界では方向性が見えればいいんです。次に具体的に何があるかわからないから、方向性さえ見えればいいんだと思います。

日本の企業は前例がないとやろうという踏ん切りがつかないですよね。ほかの会社が成功しているかどうかを気にしすぎるんです。

■クラフトマンシップだけでは利益は生まれない

ーー日本の生産性は世界的に低くて、イタリアやスペインより低いともいわれています。アメリカの州でいえば、ミシシッピ州程度です。

アルヴィン 「がんばります」とかひとの2倍働くというのはおかしいですよね。それではショートカット=生産性の向上にはなりえない。私たちスタッフのカルチャースタイルは「がんばります」とは異なります。クリエイティブを重視しています。

ケビン 世界に向けて日本が誇れるものとして「クラフトマンシップ」をあげるひとが多くいます。それを聞くと僕は「スタービング・アーティスト」という表現を思い出してしまいます。スタービングとは「飢えに苦しむ」という意味です。素晴らしい作品を作っているのに、お金にはならないーーそんな職人が日本には多いのではないですか? 

でも僕たちふたりのなかではそれを変えたいと言う強い気持ちがあります。ABCで解決できるかどうかわかりませんが、すごい職人がいるならばその技を残していきたい。職人はいいものを作ります。それは他者にメリットを与えていますが、一方職人はメリットを受け取っているかどうかわかりません。その状況を僕たちのやり方で変えていきたいと思っています。

アルヴィン ビジネスのゴールは利益、そしてなにかしらの社会的インパクトだと信じています。

「コーヒー界のグーグル」が起こす、IT目線の生産性革命(後編)/ABC

《加藤陽之/HANJO HANJO編集部》
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