【記事のポイント】▼世界遺産を軸とした補助制度がチャンスに▼自治体は「ヒト・モノ・カネ」でバックアップ▼着地型観光には官民一体の「価値観の共有」が必要■活性化する「着地型観光」の補助事業 地域の特色を活用した体験型の観光プログラムを企画し、観光客が現地集合・解散するという観光モデル「着地型観光」。出発地点からツアーを組む従来の「発地型」モデルとは異なり、着地型観光では目的地となる地域が観光をプロデュースするため、各地域をより深く体験できるのが魅力だ。 着地型観光は体験型という性質から、海外からのインバウンド需要の取り込みが期待されている。そこで現在、観光庁の推進のもと、全国各地の自治体では着地型観光への補助金支援が活性化しているようだ。16年6月現在も富山県や徳島県、鹿児島県徳之島町などの補助金事業が応募を行っている。■利用すべきは観光マネジメント人材の育成プログラム 15年に釜石市の橋野鉄鉱山が世界遺産に登録された岩手県では、着地型観光の支援として、旅行商品造成への補助金支援を実施している。「パンフレット・チラシの製作経費」、「広告掲載に要する経費」を対象に、これらの3分の2相当額を上限50万円で助成する事業を展開。さらに、「世界遺産『橋野鉄鉱山』バス旅行商品造成支援」として、橋野鉄鉱山を含む同県観光地を周遊する貸切バス代を支援する補助事業を展開している。 貸切バスは1台につき、日帰りツアーで2万5000円、県内で1泊以上するツアーで5万円が助成される(旅行会社1社あたり年間20万円が上限)。世界遺産という新たな強みを活かす、その一点に集中して補助金を展開している例といえるだろう。 その上で県では着地型観光の活性化に向けて、「着地型旅行商品の作り方」や「販路開拓のノウハウ」を学習するセミナーを実施している。岩手県観光課の藤原英志氏によると、これは地域の観光マネジメント人材の育成に向けての取り組みとのことだ。「セミナーで学んだノウハウを活かして、様々な地域資源に新たな価値を結び付けた着地型旅行商品が造成されつつあります。それを旅行エージェントへ売り込みを図り、観光客の誘客拡大に取り組んでいるわけです」 5年前に東日本大震災で甚大な被害を受けた同県。ヒト・モノ・カネのすべての側面で、着地型観光の支援が加速している。■官民一体の「価値観の共有」が必要 自治体による着地型観光支援が活発になるなか、観光事業者は着地型観光にどのように取り込めば良いのだろうか。通訳として活動し、着地型観光商品の制作に携わる岩原聡子さんは「自治体、広告を打つ人間、現場で動く人間、それぞれの意思疎通が欠かせない」と指摘している。「以前、『歴史のある町並みを地元の人のガイドで歩く』という企画に関わった際、プランのなかに魅力的な景観や美味しい食事はあるものの、いわゆる“見せ方”が散漫で、旅行客の満足感を引き出せなかったと反省した経験があります」 では、官民一体となった着地型観光の開発には、一体何が必要なのだろうか。「着地型観光を立ち上げる際は、該当地域のあらゆる要素のエピソードと持ち味をリサーチし、関係者全員で価値観を共有してからプランニングを行う。そうでなければ、お客さんに町のストーリーを感じて貰うことはできません。そのときにはストーリー作りのリーダーシップを自治体が取るのが理想ではないでしょうか」 着地型観光への支援が活発化している今、各地で観光事業者を後押しするような補助金が次々と生まれている。それをただ使って終わりではもったいない。それだけ支援に前向きなのであれば、官民一体となった着地型観光の開発も、事業方針の一つとして検討すべきだろう。それを成功させるには、両者が地域の持ち味について認識を共有した上でリソースの投入方法を決定し、緻密な観光プランを設計する必要がある。