幼稚園・保育所の現状と課題から、女性の生き方・働き方を考える | RBB TODAY
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幼稚園・保育所の現状と課題から、女性の生き方・働き方を考える

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調査報告の模様。左から無藤氏、後藤氏、真田氏
  • 調査報告の模様。左から無藤氏、後藤氏、真田氏
 4月17日、ベネッセコーポレーションのシンクタンクである「ベネッセ次世代育成研究所」により、「第2回幼児教育・保育についての基本調査」報告会が開かれた。同研究所の主任研究員・後藤憲子氏と、研究員・真田美恵子氏、白梅学園大学教授・無藤隆氏が登壇し、2012年11月~12月にかけて実施された同調査についての報告を行った。

 その内容は、幼稚園・保育所の現状と課題を浮き彫りにするもので、ポイントは大きく次の4点となる。

(1)必要年齢層での保育所の定員超過と幼稚園の定員割れ
 前者では0~2歳児層を受け入れる施設で61.8%が超過受け入れを、一方で後者では私立の79.4%、国公立の94.2%が定員割れをしており、必要な箇所に手が届かないサービスのアンバランスさを露呈した。

(2)現状の認定こども園への移行希望の低さ
 深刻な待機児童問題を緩和するための鍵となるのが、私立幼稚園の動向だ。しかし、「条件によっては、認定こども園に移行してもよいと思う」の回答をした私立幼稚園は36.0%と、約3園に1園にとどまった。

(3)保育者の非正規雇用率の高さ
 特に国公立の幼稚園・保育所では、前者が47.1%、後者が54.2%とどちらも半数にまでのぼる。背景には、施設運営費が一般財源化されたことにより、人件費の捻出がより難しくなっていることなどがある。

(4)きわめて多くの回答者が「保育者の待遇改善」が必要と回答
 私立幼稚園では77.2%、私営保育所では83.4%が、育者の質の向上のためには、「保育者の待遇改善」が必要と回答した。

 昨年8月に「子ども・子育て関連3法」が制定された直後に実施され、関連3法を受けて間もなく始まる「子ども・子育て会議」の前に公になった本調査。それぞれの園が現状と今後を鑑みる、まさにベストタイミングでの発表となった。

 上記のうちここでは(3)にフォーカス。保育者にも見られる雇用の問題に着目し、さらには広く女性の働き方までを考えていく。

 国公立の幼稚園では47.1%、同保育所では54.2%にまで達する、非正規雇用率。この話題について真田氏は、「保育の長時間化などを考えると、非正規雇用が多くなっていることは一概に悪いとは断定できない」と発言した。たしかに、時間を区切って必要な場面に人員を配置できることは、経営側にとってメリットがある。しかし氏は「ただし、研修期間がないなどで専門性は(正規の場合より)上がりにくい」とも指摘。(4)で「保育者の質の向上」について触れているだけに、理想と現実との間にジレンマがあることが伺える。

 個人の問題としてこれを捉えたとき、当人が雇用形態と技術の伸びのバランス、さらには正規に比べて少ない収入などをよしとして選んでいれば、これには何ら問題がない。むしろ、性別に限らず希望に応じた働き方を選択できるのは基本的にはよいと考えることもできる。

 しかし、もしそれが「仕方なく」の選択だとしたらどうか? 無藤氏からは「結婚を機に辞める方も多い」との指摘もあり、日々子育てに接する現場にさえ、女性が働くことに壁があるようだ。

 2月末、東京都・杉並区の田中良区長が行った緊急記者会見が記憶に新しい。「緊急・臨時的対応として、区立・私立の認可保育所受け入れ枠増、区立施設の活用などにより、保育所の定員を200人増やす」という内容の報道。ここに至るまでには、“保活”中の母親たちの、涙ぐましい日々がある。妊娠期や出産間もない時期から、居住地域の保育所を探す保活。激戦の認可保育所入所を勝ち取るため、自治体の保育所事情を調べ上げたり、場合によっては担当課に窮状を手紙で訴える。それでも子どもを入れられる保育所は見つからず、そのような母親たちが集まって異議申し立てをしたことで、定員増設の運びとなったのだ。

 彼女たちの多くは、出産後に復職を希望するからこそ保育所を必要とするが、それが叶わなければ仕事に戻ること自体を諦めるか、雇用の形態を変更せざるを得ない。ここでもまた、仕方なくの選択を強いられる構図がある。今回増設を勝ち取ったことが大きな一歩として評価される一方で、急に全員の不満が解消されるわけでもなく、苦渋の選択をする母親たちはまだまだ多いのではないだろうか。

 先の保育者の非正規雇用の問題と、直接のつながりがあるわけではないが、どちらも「結婚」や「生み育てる」ことが知らず知らずのうちに一種の“足かせ”に変質しているように見える。

 ただし、横浜市の待機児童対策のように、難局を打開する行政側の動きも見られるようになってきたのは、一つの光明だろう。林文子市長のもと、2009年度・2010年度と全国ワースト1、2011年度にはワースト2だった待機児童数を、積極的な保育所整備により2012年度にはほぼ0にまで解消し、各所で話題となった。たとえばこのような大きな取組みで、全国的に女性の生き方、働き方をもっと開放的に変えられないものか。

 昨年8月制定の「子ども・子育て3法」を受け、間もなく始まる「子ども・子育て会議」。保育者の待遇改善に、大きく一歩を踏み出す話合いとなることに期待する。できるところから少しずつ、女性たちが、結婚するしない、生む生まないに関わらず、生き方の軸を自由に設定できる社会の実現が望まれる。
《寺島 知春》
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