シャープが社運をかける新技術「IGZO」、目指すのは紙のようなディスプレイ | RBB TODAY

シャープが社運をかける新技術「IGZO」、目指すのは紙のようなディスプレイ

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IGZO技術を搭載し3,840×2,160ピクセル表示を可能とした32V型液晶ディスプレイ「PN-K321」
  • IGZO技術を搭載し3,840×2,160ピクセル表示を可能とした32V型液晶ディスプレイ「PN-K321」
  • 「PN-K321」
  • IGZO技術搭載の「AQUOS PHONE ZETA SH-02E」
  • 「IGZO」技術を搭載した「AQUOS PAD」
  • IGZO搭載「6.1型498ppi(2560×1600ドット)」ディスプレイをマクロ撮影。一部をさらに拡大してみた
  • TFTの比較。アモルファス・シリコンを用いた場合より開口率が上がり、細かく画素を配置できる
  • IGZOを用いたTFTは電子移動度が非常に高い
  • 常時電力を供給しなくても大丈夫なため、消費電力の削減になる
■シャープが社運をかける技術「IGZO(イグゾー)」

 10月に開催された「CEATEC 2012」。そのシャープブースで最も注目されていたのが「IGZO(イグゾー)」と呼ばれる技術を用いた新型液晶ディスプレイ製品群。2560×1600ドット、498ppiを実現した6.1型ディスプレイをはじめ、32型タッチパネル付き4K2Kディスプレイ、7型のタブレット端末用ディスプレイ(1280×800 217ppi)などが参考出展されており、高精細さ、タッチ感度の高さなどが話題となっていた。同社はこの技術の出展で、「CEATEC AWARD 2012」経済産業大臣賞を受賞している。

 筆者も実際に会場で製品を体験したが、498ppiの6.1型ディスプレイなどは目を画面に近づけてもドットが全く分からないほど高精細で、ディスプレイに映った「着物の写真」をマクロレンズで撮影してみても、本物の布を撮影したのかと錯覚するほど。但しこの時点ではどのディスプレイもまだ参考出展。いつ製品化されるのかと気になっていたが、「CEATEC 2012」の閉幕直後、NTTドコモから「IGZO」ディスプレイ搭載スマートフォンが、KDDIからはタブレットが相次いで発表され注目を浴びた。さらに、来年2月には、「IGZO」採用の液晶パネルを搭載した32型の4K2K業務用ディスプレイを発売予定とのことで、同社が社運をかけたとも言われる「IGZO」技術を採用した商品の市場展開が、いよいよ加速してきた。

■IGZOとは何か

 そもそもIGZOとは、酸化物半導体と呼ばれる材料の一種。インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)の酸化物で、化学式でInGaZnOと標記され、その頭文字を取ってIGZO、業界ではアルファベットで“I・G・Z・O”と呼ばれている。東京工業大学の細野教授らが科学技術振興機構の創造科学技術推進事業プロジェクトにおいて特許を取得しており、それまで半導体材料の主流だったシリコンよりも基本特性が格段に優れているとして期待されていた。

 シャープもこの技術の可能性に着目。科学技術振興機構からライセンスを受け、世界で始めてアモルファス(非晶質)IGZOを採用したTFT(半導体トランジスタ)を使用した液晶パネルの量産に成功した。更に同社は、半導体エネルギー研究所と共同で独自技術によりIGZOの特性の安定化を図った結晶化「CAAC-IGZO」を開発した。シャープは、これらの技術をコアコンピタンスの一つとして戦略的に展開するために、「IGZO(イグゾー)」として商標化している。

■3つの大きな特徴 「高精細」「低消費電力」「高感度のタッチパネル」

 「IGZO」の特徴は大きく3つ、「高精細」「低消費電力」「高感度のタッチパネル」が挙げられる。液晶ディスプレイでは、薄いガラス基板に挟まれた液晶を透過する光を画素ごとにオンオフすることで映像を再生するが、そのオンオフを行う回路として使われているTFTには従来、シリコン系の材料が使われていた。「IGZO」を用いたTFTでは、オン状態で素子を流れる電子の移動しやすさを表す指標である電子移動度が、現在主流のアモルファス・シリコンTFTに比べて20~50倍も高い。液晶ディスプレイの場合、TFTは画素ごとに形成され、1枚のガラス基板上には数百万個のTFTが並ぶことになるが、電子移動度が高いと、液晶を制御する能力はそのままにTFTの面積を小さくすることができる。TFTの面積を小さくできると、画素の開口率が上がる。すなわち、バックライトの透過領域を広げられるため、透過する光の量を保ちながら単位面積当たりの画素数を増やすことができ、高精細な表示が可能となる。

 「IGZO」を用いたTFTではオフ状態であるにもかかわらず流れてしまうリーク電流が小さい。静止画表示の場合、従来のアモルファス・シリコンTFTではリーク電流が大きいため、1フレームの期間中、毎秒60回もTFTに駆動電力を供給し、細かくオンオフを繰り返す必要があった。一方「IGZO」を用いた場合、TFTに充電した電力が漏れにくく、駆動電力の供給が毎秒数回程度で済むようになり、電力供給をしていない時間に「休止時間」を設けることができる。画素数が上がるとどうしても電力消費も大きくなりがちだが、この「休止駆動方式」によって、消費電力は従来の5分の1~10分の1に低減されるという。

 「休止駆動方式」によるメリットはもう一つある。それが、タッチパネルの感度を高めるということ。従来のTFTは、駆動電力を絶えず供給していることで、常にそこからノイズが発生している状態にある。こうした状態では、尖ったボールペンの先端などの微弱な信号を検出しづらいことがあったが、休止駆動方式でその影響を抑えることで、そうした細い線の認識も可能になる。さらに筆圧によるペン先の微小な変化も感知可能となり、より自然な書き味が体験できるとのことだ。

■“紙”そのものに近づく究極のディスプレイ

 「高精細」「低消費電力」「高感度のタッチパネル」。これらの特徴を備えた「IGZO」ディスプレイだが、これからどういった広がりを見せるのか。シャープの担当者に話を聞くと、「タブレット、Ultrabookの隆盛、Windows 8の登場など、今の状況とタッチ技術の向上は非常に親和性が高いと思います」と、まずタッチ技術が今後ますます重要となる中で、「IGZO」のニーズも高まると指摘。ディスプレイの高精細化に関しては、「アップル社がRetinaディスプレイを発表したことで、市場の流れが高精細に向かいました。これ以上は(違いが)分からないと思っていても、より高画質のものを見てしまうと、現状では物足りなくなるものです」とした。

 そして、「より高精細になると、紙の読み心地に近づいてきます。タッチの精度も突き詰めると紙の書き心地に近づきます。これまで胸のポケットから手帳を出してメモを取っていましたが、今後はスマートフォンで完結できるようになります。とにかく“紙のように”見て書ける、それがシャープの目指すディスプレイです」と、「IGZO」が目指す方向性を話してくれた。今回同社と半導体エネルギー研究所が新たに開発した「CAAC-IGZO」にしても、完成形ではなく、技術革新の余地はまだまだあるという。「IGZOは化合物なので、単元素のシリコンと違い多くの組み合わせが考えられます。その面でも、IGZOは大きな可能性を持っていると言えるでしょう」。また、ガラス基板上に直接IGZOを使用したTFTを形成する技術であり、将来的には、毎朝見る鏡に映像を写したり、タッチ操作できるテーブルを作れたりと、ディスプレイ以外にも可能性は広がっていく。

 スマートフォンおよび高速ネットワークの普及で、モバイル上のコンテンツはどんどんとリッチ化している。その反面、消費電力は抑えたいという相反する問題も出てくる中、その双方を両立させることができる「IGZO(イグゾー)」へのニーズは今後さらに高まっていくだろう。
《白石 雄太》

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