【連載・日高彰のスマートフォン事情】実質3キャリア時代を迎えたiPhone、MWC前に総まとめ(前編) | RBB TODAY
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【連載・日高彰のスマートフォン事情】実質3キャリア時代を迎えたiPhone、MWC前に総まとめ(前編)

ブロードバンド 回線・サービス
SIMフリー版(左)を加え、ドコモ、au、ソフトバンクの3社のネットワークでiPhone 4Sの使い勝手を比較した
  • SIMフリー版(左)を加え、ドコモ、au、ソフトバンクの3社のネットワークでiPhone 4Sの使い勝手を比較した
  • ドコモショップでは、Xi回線のmicroSIMカードのみの契約が可能。この写真ではiPhone 4Sの技適マークを表示しているが、特に端末の提示を求められることはなかった
  • 「Network Ping Lite」で応答速度を測定
  • 留守番電話機能の比較。左からビジュアルボイスメールに対応したソフトバンク、留守番電話センターへの発信となるau、キャリア設定がないため何も起こらないドコモ
  • EV-DO方式が利用できないときに表示される「○」。このときははっきり体感できる速度低下が発生する
  • 数値は5回測定のうち最大と最小の数値を除いた3回の平均
 昨年2011年は誰もの予想を超えるスピードでスマートフォンの普及が進んだ年だったが、依然としてその話題の中心にあるのはアップル「iPhone」である。

 特に、従来ソフトバンクモバイル1社の取り扱いだったところにKDDIからもiPhone 4Sが発売されたことで、ユーザーは自らの意思でキャリア(通信事業者)を選択することができるようになり、ネットワークの品質も大きな注目を集めるようになった。スマートフォンの普及による急激なトラフィック増大に伴い、通信品質の低下や障害などが発生することも少なくなく、ネットワークの質が改めて問われていると言えるだろう。

 アップルがこれまでの製品投入タイミングを踏襲するとしたら、今年はまず「iPad 3」が発売され、続いて「iPhone 5」が登場すると考えられるが、新機種にどんな機能が搭載されるかもさることながら、前の2社に続いてNTTドコモがアップル製品を取り扱うのか否かにも関心が集まっている。iPhoneに関してドコモはノーコメントないしどちらかと言えば否定的なメッセージを貫いているが、世界を見渡せばひとつの市場で3社以上のキャリアがiPhoneを販売するのは今やまったく珍しいことではなく、ドコモから出てきてもまったく不思議ではない。

しかし、ドコモ自身による販売開始を待つことなく、ある意味でiPhoneは既に国内3キャリア時代を迎えていると見ることもできる。

 海外ではどのキャリアでも使える「SIMフリー版」のiPhoneが早くから流通しており、日本から近い市場では香港が最初からSIMフリーでの提供となっている。これにドコモのSIMカードを装着することでFOMA網での利用が可能だ。SIMフリー版でも日本の技術基準適合証明を取得していることを画面に表示できるので、法令やキャリアの約款に反することはない。

 そして、昨年秋にドコモがLTEサービスの「Xi」を開始したことで、SIMフリー版のiPhoneの利用が一気に現実的なものになった。従来のFOMA契約では、SIMフリー端末はPCを接続したのと同じ扱いとなり、定額サービスを適用してもパケット代は月額1万円以上(現在は8,190円)かかっていた。それがXi契約では月額5,985円となり、さらにテザリングも利用可能。SIMフリー版の端末はキャリアによる割引がないので高額だが、パケット通信料金自体はドコモでも他社と大差ない水準まで落ちたと言える。もちろんiPhoneはLTEには対応していないが、Xi通信サービスを契約すること自体にはLTE端末は必要ないので、このような使い方が可能なのだ。


■Web閲覧の快適さを左右する通信速度と応答時間

 今回、香港で販売されているSIMフリーのiPhone 4Sを入手することができたので、これにXiのSIMカードを装着し、au、ソフトバンクの製品と使い勝手を比較してみることにした。

 Webブラウジング時のパフォーマンスを想定し、Webサーバー(さくらインターネットのレンタルサーバー)に置いた1MBのHTMLファイルをダウンロードする時間から通信速度を測った結果が以下の数値である。測定は2月上旬のいずれも平日、朝8時から正午までの間に行っている(同一地点では同時刻に測定)。表中の数値は5回測定のうち最大と最小の数値を除いた3回の平均である。

<下り速度比較の表>

 測定する場所によってどのキャリアが一番速いかは、まったくまちまちだ。上の表の場所以外でも暇をみつけては速度を測定してみたが、3社の優劣を決定できるほどの傾向は見つからなかった。

 一方、この速度測定をしたのと同じサーバーに向けてPingを打ったときの応答速度には明らかな差があった。iOSアプリの「Network Ping Lite」を使って、4回連続のPingの平均応答時間を調べてみた。なお、スタートボタンを押すタイミングによってはたまに1000ミリ秒以上の特異な値が出ることがあった。このため4回連続のPingのうち1回でも1000ミリ秒以上が含まれた場合は再測定を行っている。

<Ping応答速度>

 上の表の通り、どこでも平均的に応答時間が短かったのがau、逆に長かったのがソフトバンク、ドコモは調査地点によって大きく変化するという結果だった。応答時間は、例えばWebブラウジングをしている際、リンクをタップしてから実際にデータがサーバーから端末に向けて流れ始めるまでのレスポンスに影響するので、快適さを左右する要素となる。応答時間は端末からWebサーバーまでの経路によっても変わってくるので今回の調査はあくまで簡易的なものだが、iPhoneユーザーのブログ記事などを見ても、auのiPhone向けパケット網は応答速度の面でおおむね良好なパフォーマンスを示しているようだ。

 ただし、特定の場所でつながりにくい、速度が出ないといった不満が生まれるケースはあるものの、都心部でiPhoneを使う限り、3社のうちどれかのパケット網が突出して優秀という印象はなかった。仮にiPhoneの画面左上に表示されるキャリア名を隠してしまえば、WebブラウザやTwitter用アプリなどを通じて普通にインターネットを利用している限り、そのとき自分がどのネットワークを利用しているかを当てることはほとんど不可能だろう。


■使い勝手に関しては3社で明らかな違いが

 しかし、電話機としての使い勝手には3社の間に大きな違いがある。まず、auとソフトバンクの間で比較すると、au版iPhone 4Sの発売時さかんに指摘された通り、auのiPhoneには次のような未対応機能がある。

・パケット通信と音声通話の同時利用
・@ezweb.ne.jpメールのリアルタイム受信(3月13日対応予定)
・iMessage
・FaceTime
・国際ローミング時における事業者選択機能
・ビジュアルボイスメール

 このうち、パケット通信と通話の同時利用に関しては、auが採用する通信方式であるCDMA2000の仕様に起因するもののため、解決の見込みはない。メールのリアルタイム受信以下の点については、目下ネットワーク側での対応を進めており、この3月中にも順次利用可能となる予定だ。

 また、当然のことながらSIMフリー版+ドコモXi回線でも多くのサービスが未対応となる。例えば、電話の画面の右下にある「留守番電話」アイコンをタップしても留守電を確認することはできないなど、iPhoneのソフトウェアにドコモ向けの設定が含まれていないために発生する現象に加え、iモードメールがMMSやインターネットのEメールとの互換性がないため@docomo.ne.jpアドレスが利用できないといった、ドコモ仕様の独自性に起因する課題もある。

■3社3様のネットワーク品質

 ネットワークに関して言えば、auのiPhoneでは俗に“○(マル)問題”などと言われる現象も発生していた。CDMA2000では、端末が電波の届きにくい場所にいる場合、接続を高速なEV-DO方式から低速のCDMA 1Xに切り替えることでできるだけ圏外にならないような制御が行われており、iPhoneでは画面左上の「3G」表示が「○」に変化することからこの状態が確認できる。しかし、いったん1Xに落ちてしまうと、電波の状態が良いはずのエリアに戻ってもEV-DOに復帰せず、画面には○が表示されたままになるという現象が少なからず報告されていた。

 ユーザーのブログなどで“○問題”が発生するとされる場所を何件かあたってみたところ、確かに、郊外で人家がまばらな場所や、都心でも電波の入りにくい奥まった場所などでは、3Gの表示が○に変化し、通信速度もはっきり体感できるレベルで低下するのが確認できたが、○のまま3Gに復帰しないという現象は見られなかった。KDDIは“○問題”に関して特に公式な動きは見せておらず、報告されていたような現象も基本的には仕様の範囲内とみなしていたようにうかがえるが、今回、筆者が3週間ほどau版のiPhoneを使ってみた中で同様の現象が確認できなかったということは、同社の通常のオペレーション範囲では“○問題”も認識されており、その後のネットワーク制御の最適化で改善されたという可能性も考えられる。

 一方のソフトバンク。au版のような未対応機能はなく、テザリング以外ほとんどすべてのiPhoneのフィーチャーを楽しむことができ、前述のテストでも応答速度はやや劣るものの通信速度は他社に遜色ないか上回ることもあるなど、一般的なイメージに比べると決して悪くないネットワークであるように見える。少なくともiPhoneを都心部で使う限りは他社に比べて特に劣っているとは言えず、パケット料金が4410円ということを考えるとむしろコストパフォーマンスは高い。

 しかし、郊外で建物の中にいるときや、山間部などではやはりつながりにくさを感じることが多い。先日、筆者が友人と茨城県の筑波山を訪れた際、ソフトバンクのiPhoneでTwitterに投稿しようとしたユーザーがなかなか電波を捕まえられず苦労していたが、東京からそう遠くない著名な観光地でもこのような現象が発生するのは残念だ。おそらくソフトバンクの言い分としては、他社と違って800MHz帯の電波がないからということになるのだろう。仮に今後900MHz帯の周波数を取得した場合、本当にルーラルエリアの品質が改善されるのか、注視していきたい。

 ドコモに関してはiPhoneを正式サポートしているわけではないので、今回の試用結果はあくまで参考情報だが、個人的な印象としては、安心感はあるものの“可もなく不可もなし”といったイメージで、スマートフォン回線の品質に関しては「ドコモ」というブランドが持つような圧倒的な差は感じられなかった。ドコモではトラフィック制御の難しいAndroidユーザーが急激な勢いで増加しているほか、先般spモードで発生したメール誤配送のトラブルなど、今後のネットワーク品質にかかわる不安材料は少なくない。ただ、障害に対して後手に回る形にはなったものの、スマートフォン対応のため1月27日に1600億円規模の追加対策を発表するなど、財務面を含むインフラ投資の体力が非常に大きいのもまたドコモの特徴である。

 今回、Xi回線を契約するためドコモショップに足を運んだが、ドコモの端末を購入しない回線単体契約にもかかわらず、丁寧かつスムーズな流れでmicroSIMカードを受けることができた。ネットワーク自体の品質ではないし、たまたま“当たり”の担当者だったのかもしれないが、サービス事業者としての総合力の一端がうかがえる対応だった。

 以上のように、3社それぞれの環境でiPhoneを使用してみると、あるキャリアのネットワークでスマートフォンが快適に利用できるかは、単にエリアが広いかどうかといったレベルの話ではなく、端末の特性を十分理解した上でのインフラ構築がこれまで以上に重要になってきたことがよくわかる。
《日高彰》
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