【テクニカルレポート】スマートメータ用マルチホップ通信システム(前編)……パナソニック技報 | RBB TODAY

【テクニカルレポート】スマートメータ用マルチホップ通信システム(前編)……パナソニック技報

 大規模ネットワークに対応可能で、900 MHz帯特定小電力無線および電力線通信の両方に適したマルチホップ通信プロトコルを開発し、親機1台あたり端末2000台規模のスマートメータシステムを実現可能なことを実環境評価により確認した。

ブロードバンド テクノロジー
第1図 スマートメータシステム構成
  • 第1図 スマートメータシステム構成
  • 第2図 論理トポロジー
  • 第3図 ルーティング負荷のシミュレーション結果
  • 第4図 親機停止時の適応セル変更
  • 第1表 端末6の隣接ノードテーブル
要旨
 大規模ネットワークに対応可能で、900 MHz帯特定小電力無線および電力線通信の両方に適したマルチホップ通信プロトコルを開発し、親機1台あたり端末2000台規模のスマートメータシステムを実現可能なことを実環境評価により確認した。ルート探索対象を大幅に限定し、さらに相関性を考慮した複数のルートを生成することにより、ルーティング負荷の低減と伝送特性の変動に対する追随性向上という相反する課題を解決した。また、リンク品質やホップ数だけでなく、参入端末数を考慮したネットワーク形成や、マルチホップセル間の干渉を抑制するための完全分散型の動的周波数チャネル割り当てを実現することにより、親機設置設計の容易化と運用保守の省力化を可能とした。

1. はじめに
 東日本大震災後の電力供給不足を受けて、再生可能エネルギーや省エネ型社会への関心が高まっている。これにともない、ピーク電力の抑制や電力安定供給実現のため、消費電力の可視化や需給制御などの機能を備えたスマートメータが注目を集めており、今後スマートメータを積極的に導入していくことが、政府方針でも示されている。

 スマートメータに用いる通信方式として、特定小電力無線や電力線通信(PLC: Power Line Communication)が挙げられるが、直接通信だけで広範囲をカバーするのは困難であり、端末間で中継を行うマルチホップ通信が必須である。筆者らは、これまでにPLC用マルチホップ通信技術を開発し[1]、集合住宅向けのスマートメータや電力制御システムを実用化してきたが、これをベースに、900 MHz帯無線を用いた大規模ネットワークに適用するための開発を行った。本稿では、開発したマルチホップ通信プロトコルの原理と、実環境での性能評価に関して述べる。

2. スマートメータシステムの概要
 スマートメータシステムは、各住戸の電力メータが通信機能を備え、集約装置である親機を介して電力会社サーバなどと通信を行うものであり、電力量データを収集する遠隔検針や、電力会社の需給状況を通知して、需要家側で消費電力を削減するデマンドレスポンスなどを実現する。第1図のように集合住宅や戸建などの利用環境に応じて、電力配線形態や電波伝搬などの特性が異なるため、適切な通信方式を使い分けることが重要である。例えば、集合住宅では、パイプシャフト内に設置されたメータ間の電波伝搬ロスが非常に大きい場合があるため、PLCが有効である。戸建の場合は、柱上変圧器が分散しているため、PLCで広範囲をカバーするのは困難であり、無線が適する。小規模集合住宅の場合は、無線とPLCが混在したハイブリッド型も適用可能である。

 マルチホップ通信において通信信頼性を高めるためには、リンク品質やホップ数などを考慮して、最適な中継ルートを生成する必要がある。しかしながら、ルート探索のために必要な情報は、ノード数の増加にともなって飛躍的に増大するため、既存のルーティングプロトコルでは大規模ネットワークに対応困難である。

 また、親機ごとに構成されるマルチホップセル間の信号干渉を抑制することも重要である。現在、特定小電力無線用に950 MHz帯が割り当てられているが、2012年に920 MHz帯への移行が予定されている。この帯域は、さまざまな用途に利用されることが予想されているため、他システムとの干渉も無視できない。

 そこで、大規模ネットワークに対応可能なマルチホップルーティングプロトコルと、システム内外の干渉を抑制するための動的周波数チャネル割り当てアルゴリズムを開発した。通信信頼性の確保だけでなく、システム導入時の設定や運用保守の省力化も可能な設計とした。

3. マルチホップルーティングプロトコル
3.1 課題
 中継ルートを生成するためのルーティングプロトコルは、リアクティブ型とプロアクティブ型に大別できる。リアクティブ型は、通信要求発生時に宛先端末までのルートを探索する方法で、AODV( Ad hoc On Demand Distance Vector)やDYMO(DYnamic MANET On-demand routing)が標準化されている。ルート要求パケットをフラッディングするため、端末台数が多くなると輻輳しやすく、大規模ネットワークには適さない。また、リンク品質を考慮したルート生成も困難である。

 プロアクティブ型は、定常的にリンク情報を交換してルートを生成する方法であり、OLSR( Optimized Link State Routing)が代表的である。リンク品質を考慮したルート生成にも対応しやすく、スマートメータ用に適している。ただし、標準的なプロトコルでは、端末数の増加にともなってルート探索トラフィックが急増するため、数千台の大規模ネットワークには対応困難であり、また、伝送環境の変動に対する追随性も不十分である。これらの課題を解決すべく開発したプロアクティブ型ルーティングプロトコルCMSR( Centralized Metric based Source Routing)の特徴を述べる。

3.2 低トラフィックでのルート検索
 ルート探索トラフィックを低減するため、以下のような方式とした。
1) フラッディングを使用せず、親機までのルートに限定して探索
2) 仮のルートコストが良好な少数ノードに限定してリンク品質情報を交換
3) リンク品質調査後は、大きな変化がある場合のみ再調査(差分情報のみを交換)

 各ノード(親機および端末)は定期的にHELLOメッセージをブロードキャストし、隣接ノードとリンク品質情報を交換する。第2図において、リンクで接続されているノード(親機および端末)の間では信号を受信可能なことを示し、リンク横に示した数値はリンクコスト(リンク品質)を表す。隣接ノードからのHELLO受信時のリンクコストと、上位ルートコスト(親機までのルートコスト)から算出した仮ルートコストが低いノードを優先リンクとして選択する。第1表に示した端末6の隣接ノードテーブルにおいては、端末1、5を選択する。優先リンクの個数はチューニング可能であるが、ここでは説明の都合上、2個とした。

 選択した優先リンクについて、受信方向のリンクコストをHELLOに格納して送受信することにより、双方向のリンクコストを把握する。双方向のリンクコストを元に算出した正式ルートコストが最小のものをルートとして決定する。第1表においては、端末5経由のルートが選択される。

 なお、送信元がルートを指定するソースルーティング方式を用いることで、中継ノードでのルートテーブル保持を不要とし、RAM使用量低減を図った。端末数を2000台まで変化させ、シミュレーションを行った結果を、第3図に示す。HELLO送信間隔は3分とした。標準的なOLSRに比べて、CMSRでは、端末数の増加に対して、負荷の増加が緩やかで、極めて低トラフィックであることがわかる。900 MHz帯の無線やkHz帯PLCの実効スループットは数十kbpsであるため、OLSRではルーティング負荷だけで帯域を超過してしまうが、CMSRの場合は2000台でも2 kbps程度に収まっており、帯域の大部分をアプリケーション通信で利用可能である。

3.3 伝送環境変化への対応
 プロアクティブ型は、一般的に伝送状態の変化に対する追随が遅く、HELLO送信間隔に比例した時間がかかる。これを改善するため、MAC(Media Access Control)層での送信エラーを検出して、リンクコストを変更する。さらに、2ホップ以上先での通信失敗に対しては、リアクティブ型で用いられるルートエラー通知機能を設け、早急なルート切り替えを可能とした。この際、ルート切り替え後の通信成功率を高めるため、元ルートとの相関性が低い代替ルートを優先的に用いる。

 また、親機の故障や保守による停止時には、既に参入している親機のセルから、別の親機のセルに変更してルートを再生成する。しかしながら、RAMリソースや通信帯域の制約により、各親機に収容可能な端末台数に制限があるため、停止した親機に属していた端末を周辺親機に収容しきれない可能性がある。親機に十分な収容余力をもたせて運用していれば解決できるが、コスト増を招く。このため、各親機の収容残数を考慮して、セルを選択し、ネットワークを形成する[2]。スループットや消費電力などを考慮したルート生成の研究例[3]はあるが、端末台数を考慮したルート生成はあまり検討されていない。

 親機4台のうち1台を停止した場合のシミュレーション結果を、第4図に示す。実線は、親機B停止後のルートを表し、端末は所属する親機セルごとに色分けしている。

 また、点線は、親機B停止前のセル境界を示す。収容残数を考慮しない場合、親機Bに属していた端末は、隣接する親機A、Dにセル変更しているが、収容台数上限に達したため、すべての端末を収容し切れていない。(a)

 左下部の白色で示した端末は、セル変更できずに、ルートを喪失している。収容余力のある親機Cのセルとは離れているため、参入できない。

 これに対して、収容残数を考慮した場合、もともと親機A、Dに属していた端末の一部が、親機Cのセルに変更することにより、(b)に示すように、親機Bに属していた全端末が収容された。なお、収容台数の状況は、HELLOに付加して送信するため、トラフィックを増やすことなく実現している。※後編(2月25日掲載予定)に続く


●参考文献
[1] 岡田幸夫 他,“ 低速電力線通信に適したプロアクティブ型マルチホップルーティングプロトコルCMSR,” 信学技報 AN2007-25, pp.61-66, 2007.
[2] 岡田幸夫 他,“ 大規模ネットワーク対応のスマートメータ用マルチホップ通信,” パナソニック電工技報 vol.59, no.3, pp.18-24, 2011.
[3] 森崎明 他,“ 通信状態を考慮したアドホックルーティングプロトコルの検討,” 情報処理学会 DICOMO2010, vol.2010, no.1, pp.645-651, 2010.

●執筆者紹介
岡田幸夫 Yukio Okada
エコソリューションズ社 エナジーシステム事業グループ
土橋和生Kazuo Dobashi
エコソリューションズ社 技術本部
梅田直樹Naoki Umeda
エコソリューションズ社 エナジーシステム事業グループ
佐々木貴之Takayuki Sasaki
エコソリューションズ社 エナジーシステム事業グループ


※本記事はパナソニック株式会社より許可を得て、同社の発行する「パナソニック技報」2012年1月/Vol.57 No.4収録の論文を転載したものである。
《RBB TODAY》

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