【テクニカルレポート】持続可能性を高める行動を促す情報技術“Sourcemap”(後編)……ユニシス技報 | RBB TODAY

【テクニカルレポート】持続可能性を高める行動を促す情報技術“Sourcemap”(後編)……ユニシス技報

エンタープライズ その他
図4 工程のビデオの表示
  • 図4 工程のビデオの表示
  • 図5 精肉の輸送ルート
  • 図6 ビール醸造業者C のソースマップ
  • 図7 Sourcemap システム構成
  • 図8 ビジュアリゼーション
  • 図9 OpenLayers で描画した地図とソースコードのサンプル
  • 図10 Open Data API
  • 図11 地図データエクスポート
3.ビジネスシナリオ

 Sourcemapは2011年現在MITメディアラボ内のリサーチプロジェクトの一つではあるが、テクノロジ素材だけでなく、商材としてもある程度完成された形となっている。ゆえにユースケースをイメージすること自体は比較的容易だが、環境分野の課題は、概ね利益追求よりも未来永劫に渡って人類文明が持続することが関心事であり、それ以外のインセンティブに乏しい現段階では、ゼロからのビジネスアイディアの創出には特有の難しさがある。

 ただ、世界の趨勢を鑑みても、いずれ近い将来に日本でも国際環境法規制やグローバルビジネスパートナーの意向を始めとする外部圧力など、外部要因に起因して本領域への関心が一気に高まっていくであろう。完成度の高いSourcemapであれば、こうした対応はスピーディにしやすいと考える。本章ではMITが小さな業者と協力してプロトタイプを暫時修正していった過程で得られたケース三つに加え、日本でのユースケースを考察し、ビジネスシナリオを提示する。

 3.1.ユースケース1. プロダクトデザイナーA社のケース

 あるプロダクトデザイナーA社は手作りの電子機器とおもちゃを製作するスタジオを運営している。A社の商品は全て「地元で」「道徳面を考慮して」「環境面を考慮して」作られている。A社はそうした努力を、主なセールスチャネルであるオンラインストアを通して知らせたいと考えている。全ての原材料が地元の素材ではない。その場合でも道徳面や環境面で問題がないことを示す方法も必要だと考えている。

 A社は材料の一部を生産しているインドで、伝統的な手法で工芸品を作る現場を見学した際、その手法が廃れつつある貴重な技術であることを知り、その手法は積極的に保護すべきであると考えた。そこでA社はSourcemap に入力する部品の一つ一つを説明する直観的な方法を検討し、ソースマップに工芸品の工程を収めたビデオや写真を挿入することにした(図4)。加えてA社は商品に付与する印刷可能なマップを提案した。

 実地検証の一部としてA社はいくつかの商品データをSourcemapに入力した。ところが、いくつかの部品は極めて貴重なものであり、このことはA社の競争優位となっているため、ソースマップによって、どこから調達しているか分かることは逆に仇となる。その対応として、個々のソースマップを‘Private’とタグ付けすることで、源がオンラインで公開されることのないようにした。

 3.2.ユースケース2. 精肉店Bのケース

 スコットランドのハイランド地方にある精肉店Bは、牛、豚、羊、鹿の精肉を販売している。セールスの内、オンラインによるものは、売上げの大きな部分を占めるようになってきている。ゆえにBはWebサイトとソーシャルネットワークに多くの時間を費やしている。Bの全ての商品は、Bの店の50km以内で生産されたものであり、多くのサプライヤと顔見知りである。オンラインであっても対面であってもほとんどの顧客は、Bの商品を地元で生産された身元の確かな商品だ、ということで購入している。

 Bは店舗に立ち寄った顧客にこうした話をすることを好んでいるが、増加しつつあるオンラインの顧客にも訴求するための方法を求めている。BのWebサイトはレシピ、ニュースのコンテンツを持っており、さらにFacebookで顧客との積極的な交流を図っているが、それらに加えてSourcemapを用いて輸送ルートと商品のCFPを示すことでそうした訴求が可能であると判断した。Sourcemap 利用の最初のステップは、環境に関連するデータを用いずにBの輸送ルートのマップを作ることであった(図5)。この時、サプライチェーンを可視化する用途とCFPを提示する用途を分けられるような機能の必要性を明らかにした。次のステップでBはオンラインストアにて特定の商品に関してCFPを表示するためにソースマップを組み込むこと、そしてBの商品のファンとの会話を醸成するためにSourcemapデータをFacebookに取り入れられるように、MITに提案した。

 店舗で販売される精肉のCFPを表示するための作業に取り掛かる中で、Bは精肉を作るためのCFPが輸送のためのCFPよりはるかに大きいという予想外の発見をした。この発見をBは少し残念に思いつつも、CFPを表示することは、顧客とのオープンな交流には欠かせないものであるとし、表示自体は意味のあることであり、ビジネスの、ひいては、業界全体のイメージを向上させるものになると考えた。

 一方、プライバシーに関わる問題にもぶつかった。仕入れ先である農場は実際に農場主が生活している場所であるため、ソースマップ上にサプライヤの住所を公表することはプライバシーを損ねる恐れがある。このことから、Sourcemapに入力する情報は慎重に選ばなければならないとする示唆を得た。

 3.3.ユースケース3. ビール醸造業者Cのケース

 ビール醸造業者Cはスコットランドハイランド地方の国立公園内に工場を構えている。精肉業者Bと同様、Cは環境保護の考えを前面に押し出すことで地域と商品のイメージを高めようとしている。Cは公園内での操業であるため、廃棄物や汚染を最小限にすることが求められる。そのためパッケージ素材と熱水を再利用するための特別な機械を導入した上で、ソーシャルネットワークであるFreecycleを使い、Cで発生する副産物の再利用が可能な人々を探している。また、醸造するビールのいくつかは地元の名物の名前が付けられ、利益の一部は野生保護問題などに向けられている。

 ところが、Cの拠点は多くの顧客に近い一方、壜詰めのための工場には遠い。ハイランドの何軒かの醸造業者との会話を繰り返す中で、近郊地域に壜詰めのための工場がないことによるオペレーションの非効率性と環境へのインパクトが明らかになった。ハイランドの18の醸造業者は全てそれぞれの商品をイングランドの中部で壜詰めし、その後、ハイランドに販売のために運んでおり、そのための燃料が必要なのである。

 短期的解決方法としては、生産拠点をイングランドに置くことであるが、そうすると地元の雇用に大きな影響を及ぼしてしまう。Cの長期的展望は、地元において壜詰め工場設立に投資することであるとした。この工場は商品を距離の離れた工場に運ぶことから発生するCFPを減らし、他の業者にとっても配送のコストを削減できる可能性がある。

 Cは単に自身のCFPを減らすことのみならず、地域コミュニティの発展を望んでいることは前述の通りである。廃棄物を減らし、壜詰め工場に投資する決断はCにとってはコスト増加を意味するが、一方では雇用機会増大による地域コミュニティの発展に貢献する。当初、CはCFPを大きく表示することには消極的であった。しかし、今はSourcemapによっていかにCが材料を再利用しているか、廃棄物を減らしているか、インフラを改善しCFPを減らしているかといったことを示すのに積極的に使用している。この試みは顧客や、この地域の投資先としてこの醸造業者を想定する投資家を呼び寄せている。

3.4.日本でのユースケース

 前節までの例のとおり、Sourcemapが開発された背景となったユースケースは、消費者のエコロジー意欲あるいは地産地消の考えを掘り起こし、訴えかけながら、自らの企業イメージを向上させるためにCFPを活用するものが主である。また、欧米で近年、CO2削減が実はビジネスパフォーマンスの向上に大きく寄与するという考えが起きてきており、結果としてそのための情報システムが求められることも大いに予想される。その時、企業のパフォーマンスモニタとしてSourcemap活用が比較的ストレートなユースケースとして注目されることは想像に難くない。

 一方、日本はというと、2011年現在、環境面では、当面は欧米のようなユースケースは比較的少ないが、環境関連法規制の活発化の動きに敏感に呼応する中で、法規制の分野がCFPの注視・モニタに関連したときに突如としてニーズが発生すると考える。世界の動向を見ても、現在の日本が世界にもたらす責任の大きさを鑑みれば、ごく近い将来その時が来ることは明らかである。そうしたことを前提として、即対応できるように、欧米でのユースケースをベースにビジネスユニット毎に自らの状況に合ったシナリオを考慮・準備しておくことは決して無駄ではない。

4.技術説明
 Sourcemapは表示対象とする商品やサービスなどの内部データ構造のSourcemapオブジェクトと、Sourcemapオブジェクトを処理する五つのデータ処理機能、すなわちビジュアリゼーション、Open Data API、地図データのエクスポート、計算を実行するLCA Calculator、エディタユーザインタフェースから構成される(図7)。本章ではこれら五つのデータ処理機能を説明する。

 4.1.ビジュアリゼーション
 ビジュアリゼーションのための出力形式は地図、グラフ、QRコード(2次元バーコード)、そして印刷出力の四つが存在する(図8)。

 地図描画にはJavaScript のオープンソースであるOpenLayers を用いている。地図描画制御にはOpenLayers.Control クラスを使用する。OpenLayers.Control のいくつか制御の例、および地図とソースコードのサンプルを挙げる(図9)。
・OpenLayers.Control.PanZoom ():パン操作やズームを制御
・OpenLayers.Control.LayerSwitcher ():レイヤの表示
・OpenLayers.Control.ScaleLine ():スケールバーのコントロール
・OpenLayers.Control.MousePosition ():マウス位置と地図上の位置のマッチング

 QRコード(2次元バーコード)は日本ではおなじみである。商品を陳列する店舗などの環境において、商品に直接付けられたQRコードをスマートフォンなどのカメラで検知し、インターネットを介してその商品のCFPや部品データを取り込み、表示するために用いられる。また、印刷形式もサポートしている。印刷形式は商品棚にソースマップを展示するために用いられる。

 4.2.Open Data API
 CO2情報を含むパーツ情報はSourcemapが以下の機関の公開情報から収集し入力している。

・The British Geological Survey’s World Mineral Statistics
・The ELCD(European Life Cycle Database)
・The CRMD(Canadian Raw Materials Database)
・Wikipedia for material properties and countries of origin
・The LCA Food Database
 これらのソースから収集されたパーツ情報は、工程(Procedure)、配送手段(Transport)、動力燃料(Power)、ライフサイクル終了時の処理方法(End of Life)等の属性を持つ。これらのデータはOpen Data API を介してjson 形式でダウンロード可能になっている(図10)。

 4.3.地図データのエクスポート
 地図データはjson、kml、iframe でエクスポート可能である(図11)。json 形式で地理データの交換が可能である他、Google Earth プラグインを通してkml ファイルを生成し、Google Earthにエクスポートできる。これらのエクスポート機能は全てAPIを介して外部プログラムから利用できる。

 また、iframeを使ってSourcemap のマップの外部Web サイトへの埋め込みが可能になっ
ている。iframeはいわゆる「フレーム」のように画面の分割を使用して他のWebページを表示するのではなく、既存のWebページの中心に‘埋め込んだように’表示させることができるものである。この機能により、自社のWeb ページにSourcemap のマップを違和感なく埋め込んで見せることが可能となる。

 4.4.LCA Calculator
 Sourcemapは部品製造や配送、それぞれに要するCFPだけでなく、製品の「ライフサイクル」全体のCFPを消費者に認識させ、意思決定を促すことを念頭においている。ゆえにCFPを計算する機能をLife Cycle Assessment(LCA)Calculator と位置づけている。ビジュアリゼーション、地図エクスポートを感覚および手足とすれば、LCA Calculator はSourcemapの頭脳といえるだろう。

 部品(Parts)、工程(Procedure)、配送手段(Transport)、動力燃料(Power)、ライフサイクル終了時の処理方法(End of Life)それぞれのCFP データを活用し、製品やサービスの合計CFP を計算表示する。また、金属などといった部品の種類ごとに、環境へのインパクトが大きい部品から小さい部品までをランキング形式で示すことができる(図12)。

 4.5.エディタユーザインタフェース
 エディタユーザインタフェース(図13)は、Sourcemap サイトのビジターがSourcemap に格納してあるデータを利用して自分のマップを作成するインタフェースである。このインタフェースを使用してSourcemap ユーザが自身のビジネスに関連する商品、もしくはサービスのソースマップを作成することが可能である。ソースマップを基にした視覚に訴える本能的な操作に加え、原材料のソース入力時の地名入力で、曖昧な名前を入力しても推測してサジェスチョンするGoogle Maps API による入力支援機能などで、初めてでも誰でも簡単に作成できるよう工夫を施している。

5.おわりに
 大気中のCO2濃度増大を始めとする事象が招く問題の存在は今日では広く認識され、近年はリサイクル運動のように具体的な行動のフェーズに移りつつある。そうした中で情報システムを、行動を起こすためのきっかけとして活用する試みも少しずつ始まっている。本稿ではマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ発のSourcemapがそうした試みの一つであること、そしてどのように活用できるのかを示した。

 Sourcemap.orgプロジェクトは今後も更なる改善を図っていく。機能面では、より実践的で幅広い利用を目指し、水の消費量を表すウォーターフットプリント、汚染物質、有毒物質といった各種環境データの取込表示機能や、現在は直線となっている拠点間の配送ルートを実際の経路に沿って表示するといった機能追加を予定している。また、企業ユーザの活用を前提にしたスケーラブルな構造とするようにシステム基盤を整備していく予定である。

●執筆者紹介 
・山崎治彦(Haruhiko Yamazaki)
 1991年日本ユニシス(株)入社.UNIXシステムの周辺機器制御システムの受入保守,プロダクト開発に従事.1998年よりASP事業の立ち上げに参加.2001年からは海外ビジネス支援を担当.2007年よりNUL システムサービス・コーポレーションに出向後,米国内研究開発機関との連携をベースとした日本ユニシスグループのR&D 推進に従事中.

・岩下忠資(Tadashi Iwashita)
 1997年日本ユニシス(株)入社.米国Unisys 製2200シリーズの基本ソフトウェア主管業務を担当する.2004 年4 月ユニアデックス(株)に転籍.その後OSS関連作業,メインフレーム新機種の開発・受入に従事し,2010 年2 月NUL システムサービス・コーポレーションに出向.Unisys プロダクトリエゾン業務と米国大学研究機関の調査活動に従事.

・Leonardo Bonanni
 マサチューセッツ工科大学メディアラボ内プロジェクト「Kitchen of the Future」に発明者,産業デザイナー,アーキテクトとして従事.現在はニューヨークのParsons School of Design およびマサチューセッツ工科大学メディアラボにてSustainable Designを教える.また同所の「Tangible Media Group」にてPostdoctoralResearch Associate として従事中.Sourcemap.org の創設者,CEO.


※同記事は日本ユニシスの発行する「ユニシス技報」の転載記事である。
《RBB TODAY》

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