【テクニカルレポート】日本でのコモンセンス知識獲得を目的としたWebゲームの開発と評価(中編)……ユニシス技報 | RBB TODAY
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【テクニカルレポート】日本でのコモンセンス知識獲得を目的としたWebゲームの開発と評価(中編)……ユニシス技報

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図2 「ナージャとなぞなぞ」ゲーム画面
  • 図2 「ナージャとなぞなぞ」ゲーム画面
  • 図3 知識獲得の仕組み
3. ゲームを用いた日本におけるコモンセンス知識獲得「ナージャとなぞなぞ」
3.1. 日本におけるコモンセンス知識獲得の課題

 1章で述べたビジョンの実現を目指して2010年9月、株式会社電通、MIT メディアラボ、日本ユニシス株式会社は協働で「空気が読めるコンピュータをつくろう」プロジェクトを開始した。しかしながら、このプロジェクトを支える日本のコモンセンス知識データに関しては当プロジェクトの開始時点でConceptNet の日本語データ1 万件程度しか存在していなかった。そのため、短期間で効率的に日本のコモンセンス知識を獲得することが最優先の課題となり、当プロジェクトでは先行研究において実績のあるOMCS のゲームによるコモンセンス知識獲得のアプローチを日本においても実施することを検討した。コモンセンス知識は誰もが知っているが膨大な量であるという性質から、インターネットを利用したゲームによる知識獲得のアプローチが有効である。そこで、日本人であれば誰でも知っている「なぞなぞ」を用いたコモンセンス知識獲得ゲーム「ナージャとなぞなぞ」を開発した。

3.2. 「ナージャとなぞなぞ」

 「ナージャとなぞなぞ」は、インターネットにアクセスすることができる人なら誰でも簡単に遊ぶことができる連想ゲームである。ナージャというゲームキャラクターが出すヒントを基に、ナージャが思い浮かべている言葉を当てるゲームである。ナージャは3歳のロシア人の女の子で、日本に来たばかりで日本のことを良く知らないので、連想ゲームを通じて色々と教えてあげよう、というゲームコンセプトである。ゲームの流れは、まずナージャから思い浮かべている言葉に関するヒントがユーザに一つ提示され、ユーザは回答を入力する。不正解だった場合は次のヒントがユーザに提示され、再度ユーザは回答を入力する。ヒントは最大五つまで追加され、それでもユーザが不正解だった場合はゲーム終了となる。ゲーム画面を図2に示す。ゲーム画面の上部は、ナージャから提示されるヒントを表示し、ゲーム画面の下部は、ユーザが回答を入力する領域となっている。

3.3. 問題生成と知識獲得の仕組み

 「ナージャとなぞなぞ」における問題生成と知識獲得の仕組みを図3 に示す。まず、本システムはゲーム開始時に、ConceptNet からノード(Concept)をランダムに一つ選択し、それを連想ゲームの正解ノード(ナージャが頭に思い浮かべている言葉)とする(図3 では「犬」)。次にユーザに提示するための五つのヒント文を生成する。五つのヒント文は、正解ノードに直接接続されているアーク(関係)とノードのセットを五つランダムに取得し(図3では三つに省略しているがヒントと囲まれている部分)、各関係の種類毎にあらかじめ用意したヒントのテンプレート文に当てはめることで自動生成する。図3 の例では、犬ノードと「一種」の関係で接続された動物ノードを、一種のヒントテンプレート文「それはX の一種だよ」に当てはめて、「それは動物の一種だよ」というヒント文を生成する。このヒントに対してユーザがキリンと回答した場合は不正解となるが、ヒントと不正解の回答を組み合わせることで「キリンは動物の一種である」という新しいコモンセンス知識を獲得することができる。ゲームの性質上、ユーザの回答はそれまでに出されたすべてのヒントを満たす回答となるので、1回のユーザの回答とそれまでに出されたすべてのヒントを組み合わせることができる。従って、1回のゲームで最大で1+2+3+4+5 =15件の新しい知識を獲得することができる。このように、ユーザに提示したヒントと、ヒントに対するユーザからの回答を組み合わせることで、新しいコモンセンス知識(以後この知識を回答知識と呼ぶ)が獲得できる。

 回答知識に加えて、「ナージャとなぞなぞ」で獲得する重要な知識として誤り知識がある。ユーザは、ゲームで登場したヒントが間違っていると感じた場合に、そのヒントを指摘することができる。誤り知識とは、この指摘されたヒントを生成した元の知識が誤っていることを表す知識である。

 ゲームで獲得した回答知識および誤り知識は、コモンセンス知識データベースであるConceptNetへ登録する。ConceptNet へ登録された新たなコモンセンス知識は、ゲーム中の新しい正解やヒントとして登場する。従って、ゲームの提供者側が新しい問題やヒントを考えたり、手動で登録したりする必要がない。

 ConceptNet の各コモンセンス知識データは、その知識の信頼性を示すscore と呼ばれる整数値(初期値1)を持っている。同じ回答知識が別のユーザから重複して得られた場合はscoreを1プラスし、誤り知識として指摘された場合はscore を1 マイナスする。「ナージャとなぞなぞ」で登場する正解とヒントは、scoreが1以上の知識を対象としている。

3.4. ユーザの参加モチベーションおよび宣伝策

 「ナージャとなぞなぞ」では、ユーザの参加モチベーションを高めるために、得点ランキングを導入している。本ゲームは匿名による未ログインでの参加、およびTwitterアカウントでログインしての参加が選択可能であり、Twitterアカウントでログインした場合は、得点ランキングに参加することができる。ユーザは、一つ目のヒントで正解した場合には5 ポイント、その後ヒントが一つ増えるごとに1 ポイントずつ減じた得点を1回のゲームで獲得することができる。総合得点ランキングの上位3名をトップ画面に表示することで参加者のモチベーションを高めている。

 また、インターネットユーザへ本ゲームを広めるために、ゲーム終了後に結果および本ゲームサイトのURLをTwitterに投稿できるボタンを配置し、Twitterでの口コミによる広がりを利用している。


■執筆者紹介(敬称略)

・中原 和洋(Kazuhiro Nakahara)
 2004 年日本ユニシス(株)入社。システム連携技術の主管部門にて、各種システム開発プロジェクトに従事。2008 年よりR&D部門にて、主に知識処理技術の研究開発に従事。
・山田 茂雄(Shigeo Yamada)
 1983年日本ユニシス(株)入社。人工知能/オブジェクト指向モデリング/インターネット技術の研究開発に従事。IEEE会員。


※同記事は日本ユニシスの発行する「ユニシス技報」の転載記事である。
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