【テクニカルレポート】CELLレグザの高機能を支えるCELLプラットフォーム……東芝レビュー | RBB TODAY
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【テクニカルレポート】CELLレグザの高機能を支えるCELLプラットフォーム……東芝レビュー

IT・デジタル テレビ
図1.CELLプラットフォーム
  • 図1.CELLプラットフォーム
  • 図2.Cell BEの構成
  • 図3.ハードウェアの構成
  • 図4.チューナボード
  • 図5.チューナ部の内部構造
  • 図6.8チャンネルのマルチ表示
 東芝は、テレビ(TV)の概念を変える“高画質と高音質”、“録画”機能、及び“ネットワーク”機能を実現するため、高性能プロセッサCell Broadband Engine(以下、Cell BEと略記)を搭載した“CELLプラットフォーム”を開発した。CELLプラットフォームは、Cell BE、インタフェースLSI、及びメインメモリを搭載したCell BEボード、TV機能ボード、及びLED(発光ダイオード)バックライトコントローラボードから構成される。

 このCELLプラットフォームに加え、当社のデジタルハイビジョン液晶TV“ CELLレグザ”では、13個のチューナユニット及び容量3T(テラ:1012)バイトの磁気ディスク装置(HDD)を搭載することで、従来のTVでは実現できなかった高画質と高音質、デジタル放送の多チャンネル視聴や多チャンネル記録、ネットワーク機能などを実現している。

1.まえがき

 2011年に予定されているアナログ放送の停波に向けてデジタル放送対応TVの需要が加速するなか、液晶TVの画質や機能は、過去数年で飛躍的な進化を遂げているが、その一方で、価格は下落を続けている。こうした市場にあって、東芝のレグザ(REGZA)シリーズは、映像エンジンのメタブレインを核としたシステムにより、現在、画質、機能、及び価格の面で業界をリードする存在になっている。

 当社は、そのレグザシリーズのフラッグシップモデルとして、TVの概念を変える“高画質と高音質”、“録画”、及び“ネットワーク”をキーワードに、CELLレグザを開発した。ここでは、CELLレグザの中核に位置する、Cell BEをメインCPUにして3 枚のデジタルボードで構成されたCELLプラットフォーム(図1)について述べる。

2.Cell BEの特長

 Cell BEは、当社が、ソニー(株)、(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント、及びIBM 社と共同で開発した高性能プロセッサで、卓越した演算処理能力を誇り、現在、世界最高峰のスーパーコンピュータに用いられている。更に、航空宇宙やCELLレグザ の高機能を支えるCELLプラットフォーム CELL Platform Expanding Limits of TV Performance金融工学など、複雑かつ高度な計算処理を求められる分野での応用も期待されている。

 Cell BEは、3.2 GHzで動作する64ビットの制御用プロセッサ(PPE:Power Processor Element)と7個の演算用プロセッサ(SPE:Synergistic Processor Element)から構成されるマルチコアCPUである(図2)。PPEは汎用プロセッサであり、従来のプロセッサと同様にオペレーティングシステムやアプリケーションを実行する。また、オペレーティングシステムの役割であるメインメモリや外部デバイスとの入出力制御に加え、SPEの制御も行う。このように、PPEは処理の制御を主に行うため“制御系プロセッサ”とも言える。一方、SPEは計算を単純に繰り返すマルチメディア系の処理を行う“演算系プロセッサコア”である。Cell BEは、この7個のSPEを有効に活用することによって高い計算能力を発揮する。このCell BEを核とするCELLプラットフォームをCELLレグザに搭載し、従来のTVでは実現できなかった高画質と高音質、マルチチャンネルの視聴、8チャンネルの同時記録、録画など様々な機能を実現した。

3.CELLレグザのハードウェア構成

 CELLレグザの内部ハードウエア構成を図3 に示す。チューナ部とモニタ部に分かれ、チューナ部にはチューナボード、Cell BE が搭載されたCell BEボード、及びTV機能ボードが内蔵され、モニタ部にはLEDバックライトコントローラボードが内蔵されている。CELLプラットフォームは、上記のCell BEボード、TV機能ボード、及びLEDバックライトコン
トローラボードから構成される(図1及び図3 参照)。

3-1.Cell BEボード

 Cell BEボードには、Cell BE、インタフェースLSI、及びメインメモリ(XDR DRAM)が搭載されている。

3.1.1.Cell BE

 Cell BEを構成する1個のPPEと7個のSPEは独立した処理ができるため、プログラムを並列に実行することによって8チャンネルの同時デコード(復号)処理や高画質化処理、及びグラフィックス処理を実行することができる。また、低解像度のインターネット映像特有の圧縮ノイズを補正するネットワーク超解像処理や、オーディオ信号からの音声や音楽を抽出して、それぞれにふさわしい音質へ補正する機能も持っている。

3.1.2.メインメモリ

 このような非常に高度で複雑な処理を行うためには、演算性能だけではなくメモリも高性能である必要がある。このためCell BE では、1 GビットのXDR DRAMを8 個実装することで、1 Gバイトのメモリ空間を確保するとともに、64ビット幅で25.6 G バイト/sという非常に広いメモリ帯域を実現した。

3.1.3.インターフェースLSI

 インタフェースLSIは、チューナインタフェース、HDDコントローラ、Gigabit Ethernetコントローラ、映像出力コントローラなどを持ち、必要なデータをCell BEにスムーズに伝達することができる。

3.2.TV機能ボード

 TV機能ボードは、外部からのHDMI入力などの機能を受け持つ。また、チップ間通信やDLNA対応機器との通信用にEthernetのスイッチングハブを搭載している。ユーザーによるリモコン操作の信号も、フロントキャビネットに内蔵したレシーバ部分からこのボードに入力され、内部制御用のマイクロコントローラで処理を行って各ブロックにコマンド(制御信号)を送出するシステムとなっている。

3.3.LEDバックライドコントローラボード

 モニタ部のLEDバックライトコントローラボードは、緻密(ちみつ)なコントラストを描き出し、映像を際だたせるために、映像データをリアルタイムに分析して512分割されたLEDバックライトの制御を行っている。また、LEDバックライト制御情報をフィードバックすることで、映像の補正も同時に行っている。CELLレグザでは、これら3 枚のデジタルボードが互いに連携することにより、従来のTVでは実現できなかった高画質を実現している。

3.4.チューナボード

 CELLプラットフォームのほかに、放送波を受信するチューナボード(図4)がある。このチューナボードには、地上デジタル放送を複数記録(以下、地上波マルチ記録と略記)するため8 個、視聴のため1個、及び録画のため2個の合計11個の地上デジタル放送用チューナが搭載されている。このほか、衛星放送を受信、録画するための2個のチューナと合わせて13 個のデジタルチューナを搭載している。地上デジタル放送視聴・録画用の2個のチューナと、地上波マルチ記録用の8 個のチューナはそれぞれ独立して動作できることから、ユーザーの操作に応じたトランスポートストリーム出力を可能としている。

3.5.HDD

 HDDとしては、地上波マルチ記録用に容量1 Tバイトの3.5 型HDDを2台、録画用に容量0.5 Tバイトの2.5 型HDDを2台搭載し、合計3 Tバイトの容量を持っている。地上波マルチ記録用HDDは、最大で8チャンネルの番組を同時に約26 時間分録画できる。

3.6.冷却構造

 Cell BEボードには、消費電力の大きなCell BEとインタフェースLSI が搭載されているため、ヒートシンクとファンを使用して冷却を効率よく行っている。Cell BEとインタフェースLSIの熱は図5に示すように、それぞれの上に置かれた金属ブロックからヒートパイプを伝わってヒートシンクに運ばれ、低速で回転する大型ファンで冷却される。この大型ファンの騒音は、TVとして実績のある基準レベルまで抑制されている。また、HDDと各ボードの配置を最適化することで、熱の影響を排除し、装置の長寿命化と信号処理回路の安定化を実現した。

4.放送波受信から映像出力までの流れ

 ここでは、CELLレグザの放送波受信から、パネルへの映像出力までの流れについて述べる。

 CELLレグザは、8チャンネルのマルチ表示や、8チャンネルの地上波マルチ記録、2チャンネルの録画を行うW録を同時に処理することができる。また8チャンネルのマルチ表示をしていないときでも、高速チャンネル切替えや、番組表に複数番組が動画のまま縮小表示されるサムネイル動画のために、バックグラウンドで最大8チャンネル分のMPEG-2(Moving Picture Experts Group - Phase 2)デコード処理を行っている。

 8チャンネルのマルチ表示処理フローは、次のとおりである。図3のチューナ部にある13 個のチューナから出力されるトランスポートストリームはチューナコントローラがまとめ、インタフェースLSIを経由してCell BEへ送る。Cell BEは、視聴用1チャンネルと地上波マルチ表示用8チャンネルのデスクランブルとデコードを行い、それらの中から選択された映像を1枚の映像に合成し、ノイズフィルタや高解像処理などの映像処理を行ってから、インタフェースLSIを介してTV制御コントローラに映像を出力する。TV制御コントローラは、更にNR(Noise Reduction)などの高画質処理を行ってからモニタ部にHDMIで出力する。

 モニタ部にあるLEDバックライトコントローラでは、LEDバックライトの512分割より詳細に2,048分割して映像の明るさの検出とヒストグラムによる明るさ分布の分析をリアルタイムで行い、512分割されたLEDバックライトの制御を行う。また、バックライト制御した情報をフィードバックすることにより、パネルに最適に補正した映像データを表示させることができる。8チャンネルのマルチ表示の画面例を、図6 に示す。

5.地上波のマルチ記録の方法

 Cell BEは、8チャンネルの地上デジタル放送のうち指定されたチャンネルを、内蔵の3.5 型HDD 2 個に保存することができる。2 個のHDDにそれぞれ4チャンネル分を分散して記録することで、HDD内のシークアクセスなどによる転送レートの低下に対して十分なマージンを確保した。記録された映像は、約26 時間分を保持することができるが、それ以降は古いデータを消しながら記録し続ける。地上波マルチ記録された番組の中で保存したい映像は、内蔵の2.5 型HDDや、外部のUSB(Universal Serial Bus)-HDDにもダビングできるシステムとなっている。

6.あとがき

 驚きの“高画質と高音質”、“録画”機能、及び“ネットワーク”機能を実現させたCELLプラットフォームとその周辺ユニットについて述べた。CELLレグザでは、このほかにもネット超解像などインターネット機能の強化や、高音質実現のための音声解析も行っている。これらの処理はCell BEのソフトウェアで実現しているので、ソフトウェアの進化によって、新たな機能を実現することもできる。

 今後は、更なる高機能化や低価格化を進め、より多くのユーザーに優れた製品を提供できるようにしていく。


■執筆者(敬省略)

・森  正法 MORI Masanori
ビジュアルプロダクツ社 TV &ネットワーク事業部 映像開発
第一部グループ長。テレビの設計・開発に従事。
TV & Network Div.

・西田 義広 NISHIDA Yoshihiro
ビジュアルプロダクツ社 TV &ネットワーク事業部 映像開発
第一部主査。テレビのハードウェア設計・開発に従事。エレ
クトロニクス実装学会会員。
TV & Network Div.

・道庭 賢一 DONIWA Kenichi
ビジュアルプロダクツ社 コアテクノロジーセンター エンベディッド
システム技術開発部参事。組込みシステムのハードウェアの
研究・開発に従事。
Core Technology Center


※同記事は株式会社東芝の発行する「東芝レビュー」の転載記事である。
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