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【ニールセン博士のAlertbox】2010年イントラネットベスト10

エンタープライズ その他
Jacob Nielsen博士
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 イントラネットのデザインは成熟しつつあり、従来からある機能の品質を改善し続けてきた成果があがりつつある。その一方で、モバイルからのアクセスや緊急時への備え、ユーザーや従業員参加型のコンテンツのような新しいトレンドも採用されてきている。

 2010年の優れたデザインのイントラネット、ベスト10は以下の通り。

•Enbridge, Inc.:エネルギー輸送及び販売の北米でのトップ企業(カナダ)
•GE:テクノロジー、メディア、金融サービスを扱う多角的企業(アメリカ)
•Howard Hughes Medical Institute (HHMI):非営利の医学研究組織(アメリカ)
•Huron Consulting Group:コンサルティング会社(アメリカ)
•Jet Propulsion Laboratory (JPL):地球や太陽系、宇宙を調査するロボット宇宙船の運営管理を行うNASAのセンター(アメリカ)
•The MITRE Corporation:連邦政府資金による4つの研究開発センターを運営する非営利組織(アメリカ)
•SCANA Corp.:Fortune 500に入っているエネルギー関連の持ち株会社(アメリカ)
•トレンドマイクロ株式会社:インターネットコンテンツセキュリティのトップ企業(日本)
•URS Corporation:公共機関や民間企業にエンジニアリング、建設、技術サービスを提供するトップ企業(アメリカ)
•Wal-Mart Stores, Inc. (Walmart):8000以上の店舗を53の異なるブランド名において15カ国で展開している小売業者(アメリカ)

 Walmartは2002年にも旧バージョンのイントラネットで選ばれており、今回の受賞によって、このベスト10に複数回選ばれたことのあるごく少数の企業グループの一員となった。他には、Deloitte Touche Tohmatsuがグローバル向け及びオーストラリアのメンバー会社のイントラネットの両方で受賞し、Cisco Systemsのイントラネットも2度選ばれている。

 今年の受賞サイトの多くはアメリカから選ばれているが、カナダからの受賞や、初めての日本からの受賞もあった。

 これまでのトレンドとは異なり、この10年間で初めて、ヨーロッパや金融業界からの受賞はない。(GEが金融ビジネスを行っているのは事実だが、彼らは金融サービス専門の企業ではない)。銀行や金融ブローカー、保険会社が入っていないのは金融危機が理由と言えるかもしれない。というのも、こうした企業には関心を払わなければいけないことが他にあり、イントラネットデザインの予算は(たとえあったとしても)以前より縮小されたからだ。それとは対照的に、2001年から2009年にかけての受賞サイトの31%がヨーロッパからだったことを考えると、ヨーロッパのイントラネットデザインの今回のお粗末な結果には弁解の余地がない。来年はもっと良質なヨーロッパのイントラネットを見せてもらえるように願おう。

■イントラネットチームの拡大

 今年、選ばれた企業組織の従業員数の中央値は6,350人だった(今年の場合、中央値の方が平均値より測定値としては有効である。なぜならばWalmartの規模が巨大すぎて、算術平均の計算値を歪めてしまう可能性があるからだ)。2001年から2006年にかけては、ずっと規模の大きな組織がベスト10で多数派を占める傾向にあった。そのピークは2006年で、そのときの平均従業員数は107,000人だった。しかしながら、2007年から2010年にかけては、より規模の小さい企業がベスト10で目に付くようになってきた。このトレンドはイントラネットのテクノロジーが成熟してきていることを示しているように思われる。従業員数が10万人以上の企業にあるような多額の資金を使わなくても、良質なユーザーエクスペリエンスを構築することがますます簡単になってきているからである。

 別の解釈としては、あらゆる規模の企業がイントラネットにより重きを置くようになり、イントラネットチームに与えられる資金が増加しているというのもあるだろう。今年のチーム平均構成員数は14人だったが、 これはベスト10入賞企業の規模がずっと大きかった2006年のチーム平均構成員数よりも27%多い。

■イントラネットのモバイルサイト

 今年度、受賞したイントラネットの30%がモバイル専用の機能を備えていた。これまでであれば、我々はこの数字を大きなものとして歓迎していたかも知れない。しかし、モバイルがオープンウェブ上で大きなトレンドになっている今となっては我々の結論は正反対のもの、つまり、イントラネットはモバイル機器のサポートにおいて遅れているように見える、ということになる。

 この結果のかなりわかりやすい理由の1つとして、イントラネットへのアクセスのほとんどがオフィスからだというのがあるかもしれない。また、あるチームで見られたように、モバイルからのアクセスを希望する従業員が、現実にそれを簡単に使いこなせるほどには自分のモバイル機器に慣れていないという可能性もある。

 とはいえ、いずれの説明も長い間、正解のままということはないだろう。イントラネットの利用のほとんどが業務中であろうことは確かだが、人々の「いつでもどこでも」アクセスしたいと期待は増加するだろうからだ。なぜならば、それこそがユーザーにその期待を持たせることになった大規模なウェブサイトから与えられるものだからである。また、移動の多い従業員が(売り込みの電話のような)特に高い価値を生み出すユースケースを占めていることも多い。最終的には、次の2つの理由によって、従業員はイントラネットのコンテンツやサービス、アプリケーションにアクセスするため、モバイル機器を利用するのが上手になっていくだろう。1つめとして、モバイルでのウェブ利用が広がるにつれて、彼らの習熟度は上がっていく。2つめには、モバイル機器はどの世代に対しても明らかにユーザブルになっていっている(そしてモバイル化の動きは年々加速していっている)。そうしたことから、ユーザーはモバイル上のタスクの全てを今よりも大幅に簡単にできるようになっていくだろう。

 我々の一般的なモバイルユーザビリティ調査の結果からかんがみ、モバイルユーザー向けには別のデザインを製作することを強く推奨したい。モバイル機器から汎用ウェブサイトにアクセスしようとすると、ユーザーパフォーマンスは著しく悪くなる。つまり、そうしたサイトはデスクトップをターゲットにしているのである。モバイル専用の機能をデザインしていた3社はいずれも我々の勧めに従っていたわけだが、そのやり方はいろいろだった。

 JPLのチームはサイトではなく、専用アプリケーションを構築して、1つのプラットフォーム、すなわち、iPhoneのためにデザインを最適化し、それによって、より充実したユーザーエクスペリエンスを提供している。

 EnbridgeとMITRE の両社ではモバイルにターゲットを絞った専用サイトを作り、そこでは機能を重要なコンテンツとアプリケーションだけに絞っていた。より一般的なこうした戦略を取ることによって、1つのアプリケーションだけでなく、より広範囲のユーザーがサポートされることになる。とはいえ、MITREのデザインは主にBlackBerry向けではあった。他のスマートフォンでこのサイトを使うことも可能ではあるが。

 こうした事例はモバイル用のイントラネットとモバイル用のウェブサイトとの間の重要な違いを明らかにする。つまり、企業での利用の場合、その企業が既に優先利用しているプラットフォームがあるのなら、その機器のみにターゲットを絞ることは可能だということである。しかし、ウェブ上では来訪者全ての要求を満たす必要があり、そうでなければ、ビジネスチャンスは当然失われる。

■イントラネット上のソーシャル機能

 モバイルの年であったことに加え、今回は間違いなくインターネット一般におけるソーシャルネットワーキングの年でもあった。イントラネット上では、この2つめのトレンドは1つめのトレンドよりも強い影響を及ぼしていた。

 ソーシャル機能は受賞イントラネット上では一般的に見受けられた。ソーシャル機能をデザインする上での問題点の多くは、ウェブサイトのためにソーシャル機能をデザインする時の問題点と類似している。しかし、そこには重要な相違点もある。

 最も目立つ違いは、イントラネット上のソーシャルネットワーキングには以下の2つのレベルがあるということである。

•個人としての従業員のためのソーシャル機能
•ワークグループの支援機能や業務に関連する結びつきを促進するその他機能

 個人を対象としたソーシャル機能の例としてはWalmartのディスカッションページやプロフィールページ、従業員参加型のコンテンツがあるトレンドマイクロのTrendSpace、従業員が自分たちの好きなリンクを共有することができるMITREのソーシャルブックマークサービス、GEのコメント機能やレーティング機能がある。

 業務向けのソーシャル機能に含まれるものとしては、エンジニアがコラボレーションしたり、ベストプラクティスをシェアしたりする場所となっているURSのテクニカルフォーラム、ユーザーが特定の知識を持つ同僚を探すのを助けるMITREのExpertise Finder(専門知識検索)、チームが直接コラボレーションをして、情報を共有する場所としてのHHMIのプロジェクトページがある。

 ソーシャルイントラネットとソーシャルウェブサイトの間のこの他の大きな違いとしては、著しく増大している企業内での説明責任というのもある。これは正しく取り扱えば、品質の向上や、さらに広範な参加につなげることが可能だ。このことは匿名の禁止についても当てはまる。トレンドマイクロはこれをさらに一歩進めて、従業員がイントラネットのコミュニティ機能に貢献すると報償ポイントがつくという凝ったシステムを利用している。ポイントは単に自慢の種になるだけではなく、実際に賞金として換金することが出来る。これは参加状態のばらつきに対抗する1つのうまいやり方であろう。

■社長ブログの域を超えて

 ここ数年、良質なイントラネット上ではCEOのブログがトレンドであるということを指摘してきた。これはソーシャルネットワーキング特有の下位ジャンルにほぼなっている。CEOのブログにはディスカッションやコメントといったソーシャル機能が含まれていることが多いからである。

こうしたブログは今年度も優勢だったが、今回は役員陣の「人間としての顔」を見せ、彼らに近づきやすくする機能がより強化されていた。例えば、Walmartのイントラネットでは、役員のプロフィールで、経歴以外にも彼らの個人的な体験や興味といったものが強調されている。トレンドマイクロでも役員のブログには半期ごとのオンラインミーティングが組み合わされ、従業員が彼らと直接、関わり合えるようになっている。

■マネージメントを変える;社内のマーケティング

 ユーザーとは変化を嫌うものだ。それはウェブサイトと同じくらいイントラネットにも当てはまる。しかしながら、厄介なことに、イントラネットにはどうにも変更が必要な場合も多い。良質なイントラネットでも、従業員に毎日利用されているものであれば、いくつかの点を改善することによって、大幅に従業員の生産性を向上させることが出来るからだ。(仮にイントラネットが毎日使われてないというのなら、そのこと自体、そのイントラネットが十分に良いとは言えない証拠である)。それでもユーザーのほとんどは慣れたユーザーインタフェースでなんとかやっていくことを実際には好む。そこで、次のような疑問が沸いてくる:変化の必要性と変化に伴う痛みの間の対立関係をどのように解決できるだろうか。

 今年の受賞イントラネットの多くは、デザイン変更を管理して、ユーザーが新機能や改善された機能を実際に使ってみることを奨励するための対策を明らかに講じていた。例えば、多くのチームではデザインの方向性を決める前に大規模なユーザーリサーチを実施していた。これによって、チームはユーザーのニーズに集中し続けることが可能になり、公開後に人々から抵抗されるというリスクが低減される。悪いフィードバックがあれば、少なくとも導入前にそれを知って、従業員からの反発を乗り越えるための時間が稼げる。ユーザビリティの調査は、実際のフィードバック以外に、チームがユーザーの声に対して聞く耳を持つ、ということを明確に示せるという2つめの機能をも提供する。調査は利害関係者同士を結びつけ、あなた方が彼らに気を遣っていることを知らせる方法の1つなのである。

 ユーザー調査だけでなく、デザインプロセスを通して続く初期のコミュニケーションにおいても、より幅広い範囲の利害関係者に参加してもらっていたチームもいくつかあった。デザインがより明確になって来た時に、全員展開の前に、新しいデザインを小規模のグループに利用してもらうという特別な初期アクセスプログラムを行っていたチームもあった。例えば、SCANAでは後に新しいデザインを広める「特命大使」となる150人の従業員を使って、1ヶ月間のベータテストを行っていた。

 新しいデザインが立ち上がった時点で、社内のマーケティングキャンペーンを公開で行うことは、そのデザインが早い時期に社内に浸透することに最終的に役立っていた。新しい機能を従業員が自力で見つけるだろうなどとは考えてはならない。そうするには人々は忙し過ぎるし、イントラネットそのものにもあなたがたほど興味はないのだ。今年度、宣伝対策としては、IT博覧会やカフェテリアでのデモ、ポスター、説明会、eメールが使われていたが、初期テストの被験者にサイトの大使として協力してもらうというSCANAの草の根キャンペーンの例もあった。SCANAはまた社内向けにコマーシャルを作り、そこで従業員をボランティアの俳優として使っていた。

■緊急時の備え

 それは我々に不安をもたらす時間の兆候であり、そこにはインフルエンザウィルスの突然変異からテロリストの攻撃や地球温暖化にいたるまでの危機が含まれている。理由は何にしろ、受賞企業の40%はイントラネット機能を予期しない緊急事態への対処法にするという明確な目的を持って、デザインしていた。WalmartとURSの両社は数年前のハリケーンカトリーナの影響を受け、自分たちのイントラネットが将来の緊急時に、援助に即、対応できるように動いた。もちろん、災害の発生後にそれに対して何をすべきかを検討するプロジェクトを始めるのでは遅すぎる。それ以前に行動すべきなのである。ボーイスカウトのモットー、「そなえよつねに」は正しかったと言える。

 今年の受賞イントラネットが提供する緊急機能には以下のようなものが含まれる。

•ページ更新を待たずに緊急情報をポップアップ表示するホームページアラートシステム
•緊急通知を起動できる独立の緊急時専用ホームページ
•緊急時に現れるホームページ内の専用セクション
•本格的な緊急オペレーションセンター

 イントラネットを緊急時の管理に役立てようというトレンドはイントラネットが成熟してきたという1つの証だ。イントラネットは組織のインフラの重要なパートとして認識されてきているのである。

■継続しているトレンド=品質の継続的な改善

 今年の受賞サイトに見られるトレンドの多くは、過去、我々が確認し、コメントしてきた長期スパンで見られるトレンドの継続しているものである。これらには以下のようなものが含まれる。

•頻繁なSharePointの利用
 ―他にもGoogle Search Appliance等、たくさんの技術プラットフォームが一般的に見受けられた。つまり、1つのソリューションだけでは大規模なイントラネットは保証されないということである。

•一貫したユーザーインタフェースを保証するためのページテンプレートの常用

•コンテンツの質を保証するための編集時のワークフローの固定。例えば、Enbridgeではページごとにコンテンツ所有者が明記され、質の悪い情報の掲載を防止しようとしていた。
•ホームページ上のニュースストリームに見られる多くの興味深いプレゼンテーション

•コンテンツ上のユーザーや、自分たちの仕事に最も有用なアプリケーションに集中するための役割ベースのパーソナリゼーション
 ―カスタマイゼーションの広がりによって、ユーザーはUIに自分で手を入れられるようになった。それには昔から人気のクイックリンクやリンク機能の改良デザイン版も含まれる。

•高度検索に対するインタレストアプローチ(興味関心連動型アプローチ)を含む検索機能の重点的な改善
 ―とはいえ、イントラネット上の検索にはまだ欠点が残っており、イントラネット運営チームの多くは(「安全策」を提供するといった)手作業の調整に頼っていた
 ―従業員検索機能はいまだに非常に人気が高い

•シンプルなユーザーテストから、カードソーティング、フィールドスタディ、ペルソナ法にいたるまでの、ユーザビリティ手法の利用の拡大

•ふるわない ROI指標。しかし、使用満足度や従業員満足度の向上といった将来的に見込みのありそうな評価尺度も。
 ―厳しいROIの一例としては、トレンドマイクロがイントラネット上でミーティングを主催する費用を年間で160万ドル削減した

 こうした論点や他の多くの論点に対して、今年、選ばれた優秀なイントラネットは、過去何年かのデザインに対して、着実な進化を示した。こうしたことは以前にはなかったことで、このことは新しいデザインが以前のものをベースに構築され、さらに洗練されてきているということを意味する。言い換えると、イントラネットのユーザーエクスペリエンスの品質を改善しようという継続的なプロセスから、我々は恩恵を受けていると言える。ほとんど全ての他分野においても、CQI(継続的品質改善)は真の高品質へつながる過程と見なされており、イントラネットにおいてそれが見られるということはこの分野の成熟度が増してきている証拠であろう。

 したがって、今年度の新しいトレンドは、イントラネットのデザインが成熟してきている、ということになる。こうした成熟度の向上はチームサイズからCQIへの依存度にいたるまで、ベスト10に選ばれたイントラネットの多くの側面において見受けられる。この10冊目のIntranet Design Annual(イントラネットデザインについての年次レポート)には、記念になる年のベスト10に選ばれたイントラネットのすばらしさだけでなく、一人前になってきたこの分野全体に対する賞賛の言葉も書き記されている。
《RBB TODAY》
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