【日立評論】映像監視システムの最新動向 | RBB TODAY
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【日立評論】映像監視システムの最新動向

ブロードバンド テクノロジー
図1 ハイブリッド映像監視システムの構成例
  • 図1 ハイブリッド映像監視システムの構成例
  • 図2 メガピクセルカメラとアナログカメラの画像比較例
  • 表1 画像認識機能の概要
  • 図3 監視カメラの設置環境とシステム例
  • 図4 EM-CCD電子増倍の原理
  • 図5 EM-CCDカメラ画像の例
  • 図6 50倍ズームレンズ画像の例
  • 表2 「VMnex」の主な機能
テロや凶悪犯罪などの事件解決につながるものとして、映像監視システムが広く一般に注目されるようになった。市場ニーズが高まる中、日立グループは、メガピクセルカメラの導入が容易なハイブリッド映像監視システムや、優れた高感度性、旋回性、耐環境性によって過酷な屋外環境でも対応可能な屋外映像監視システムにより、映像監視システムの高画質化、ネットワーク化、高機能化に積極的に取り組んでいる。また、将来の大規模監視における情報制御のさまざまな課題に対応するために次世代広域ネットワーク型監視システムの研究開発を推進している。

■1.はじめに

 2001年の米国同時多発テロ以降、例えば英国における地下鉄テロ実行犯検挙に防犯カメラの映像が活用されたり、また、わが国でも防犯カメラの映像がさまざまな凶悪事件の決につながるなど、広く一般国民にも映像監視システムに対する認識が高まりつつある。こうした世の中の需要に合わせて、映像監視システムは高画質化、ネットワーク化、高機能化が進展し、さまざまな応用分野、シーンへ広がりを見せている。
 
 ここでは、日立グループのネットワーク型の映像監視システムに関する取り組み、および次世代の広域ネットワーク型監視システムの研究内容について述べる。

■2.屋内ネットワーク型映像監視システム

 日立グループは、従来のアナログカメラに加えて、メガピクセルカメラを同時に利用可能なハイブリッド映像監視システム「Fine Vision XDシリーズ」を、2009年7月に発売した(図1参照)。

2.1 メガピクセルカメラ

 カメラが数十台以上になる大規模な映像監視システムや、多拠点の映像監視システムにおいて、ネットワークカメラはアナログカメラとは異なり、イーサネット※1)のケーブルがあれば設置や増設、さらに配置変更も容易に行える利点がある。また、IPネットワークを介して遠隔地からの集中監視や管理が可能となるため、導入後の運用管理・保守も含めたトータルコストの削減がメリットとして期待できる。
 
 一方、小中規模の映像監視システムでは、防犯や内部統制強化などの現在のニーズに合わせて、メガピクセルカメ
ラによる高画質化が、ネットワークカメラの大きなメリットである。
 
 Fine Vision XDシリーズでは、従来のアナログカメラの4倍(当社比)の約125万画素を実現したメガピクセルカメラにより、記録画像の一部をデジタルズームで拡大し
ても、人物の顔や紙幣、商品ラベル、書類の文字、自動車のナンバーなどがぼやけることなく識別しやすくなる。これにより、店舗出入り口やATM(Automated Teller Machine)コーナー、銀行のカウンターにおける人物の顔の識別や店舗レジでの紙幣や商品の識別が可能となる(図2参照)。さらに、情報源にアクセスする人物の特定のみならず、手元の動きなどから、誰が何をしたかまで監視できることから、個人情報保護や情報漏洩(えい)対策、内部統制の強化策としても有効である。

2.2 ハイブリッド映像監視システム

 メガピクセルカメラのニーズが高まる一方で、中小規模のシステムでは、導入コストや取り扱いやすさなどの面で、依然としてアナログカメラを用いるメリットも大き
い。そのため、ネットワークカメラの販売の伸びは高いものの、監視カメラ市場においては、アナログカメラのシェアの方が高い状況にある。特に、導入時のコストや運用コストを優先する流通業などでは、アナログカメラの採用が主流となっている。
 
 このような背景の下、Fine Vision XDシリーズでは、安価で取り扱いが容易なアナログカメラと約125万画素のメガピクセルを実現するネットワークカメラのメリットをあわせ持つハイブリッド映像監視システムを、これからの高画質時代に向けたソリューションとして提供している。
 
 Fine Vision XDシリーズのレコーダは、従来のCCTV(Closed Circuit Television System)のレコーダ機能を搭載しながら、コンパクトな筐(きょう)体とし、アナログカメラと高画質のネットワークカメラを、自由な組み合わせで同時に接続できる。例えば、従来の画質でも十分な場所にはアナログカメラを用い、店舗レジなど高画質で撮影したい場所にはピンポイントでメガピクセルカメラを用いるなど、撮影場所に応じた自由な選択が可能である。したがって、既設のアナログカメラを生かしながら、ネットワークカメラを順次導入していくことができるため、ネットワークカメラの導入をしやすくするシステムと言える。
 
 また、メガピクセルカメラでは解像度アップに伴い画像データのサイズが大きくなるが、Fine Vision XDシリーズのレコーダでは、最新の動画圧縮技術であるH.264を採用するとともに、大容量HDDを搭載することで、長時間かつ高画質の記録を実現しているのも特徴である。

2.3 監視カメラ・レコーダのインテリジェント化

 日立グループは、映像監視システムにおいて、監視員の負担軽減や、記録領域を効率よく利用することを目的として、アラーム通知や記録制御などの機能のほか、検索用インデックスの付加には画像認識機能を活用している。こうした機能をカメラやレコーダなどの監視機器に搭載することにより、記憶領域を最大限生かした利便性の高いシステムが実現できる。
 
 特に近年では画像認識機能を応用して、映像内のさまざまなイベントを検知する機能が求められてきている。しかしながら、カメラやレコーダなどの組込み機器では処理リソースが限られているため、複数の画像認識機能を同時実行できるようにアルゴリズムの高速化が必須である。そこで、Fine Vision XDシリーズでは、画像処理の基本演算のアクセラレータや高速アルゴリズムを開発し、カメラおよびレコーダに高性能な画像認識機能を搭載した。これらの機能により、レコーダでのカメラ映像に対するリアルタイム処理性能(フレームレート)の向上、さらに、カメラの動き検知性能向上を実現した。
 
 カメラやレコーダに搭載している画像認識機能を表1に示す。動き検知を基本機能とし、その応用機能として滞留検知や移動体検知、カメラ異常検知、いたずら検知などさまざまな画像認識機能を搭載している。いたずら検知はカメラに対する遮蔽(へい)だけでなく、画角ずれやデフォーカス(ピントぼけ)にも対応している。
 
 今後も人物の挙動や動線の解析などの映像解析技術を開発し、カメラやレコーダに搭載することによって、監視システム全体のインテリジェント化を推進していく予定である。
■3.屋外ネットワーク型映像監視システム

 監視カメラは、工業用テレビジョン(ITV:IndustrialTelevision)と呼ばれていたころから、人が常時監視できない危険個所や風雨にさらされる屋外環境下で利用されてきた。ここでは、屋外の過酷な環境下で24時間365日使用できる日立グループの監視カメラの耐環境性の高さや、大規模な映像監視システムを実現するための「見る」、「管理する」、「判断する」技術について述べる(図3参照)。

3.1 見るー監視カメラー

 「高感度」、「高速旋回」、「耐環境性」を実現した雲台一体型カメラ「HC-268 EM-CCD(Electron Multiplying ChargeCoupled Device)」の要素技術は、以下のとおりである。

(1)高感度
 
 目では見えない暗さの中でも撮像できるEM-CCDは、光電変換で得られた電荷の水平転送路のポテンシャルを深くし、電子をシリコン膜に衝突させて電子増倍するインパクトイオン化を行う。低ノイズ化の課題を、ペルチェ素子冷却と放熱構造設計、動き適応型DNR(Digital NoiseReduction)、スミア補正などの画像処理技術によって克服し、最低被写体照度0.0006 lxの高感度カメラとして実用化した(図4、図5参照)。

(2)高速旋回
 広域監視カメラには、高速旋回雲台と高倍率レンズの組み合わせが必須である。複数ポイントの巡回監視のため、水平360°エンドレス、180°/秒の高速プリセット動作、独自のバックラッシュレス機構による高い停止精度(+-0.03°)をメカトロニクス技術で実現した。標準的な15~16倍のレンズに加えて、50倍の高倍率レンズの機種もラインアップに加えた(図6参照)。

(3)耐環境性
 災害用の監視カメラには、台風などの風雨でも利用可能な耐環境性が要求される。耐環境性能を示すIP(InternationalProtection)保護等級のIP66(耐じん形、暴噴流に対する保護)と、寒冷地仕様機種は最低動作温度-30度を実現している。

3.2 管理するー日立統合監視ソフトウェアVMnexー

 ネットワーク型監視システムには、数多くのIPカメラ、画像エンコーダ、NDR(Network Digital Recorder)、操作用PC、画像デコーダ、モニタ、警戒センサーなど、各種のネットワーク機器が接続され、これらを統合管理するVMS(Video Management Software)が監視システム全体の操作性、信頼性などに大きな影響を与える。日立グループは、これまでに蓄積してきたシステム構築のノウハウを生かし、数台の規模から1,000台にも上る大規模のネットワーク機器を統合管理できる「VMnex(Video Managementfor next stage)」を開発した。
 
 日立グループのネットワーク監視カメラシステム「ISnex(Intelligent Surveillance for next stage)」で採用した高能率なH.264、MPEG-4(Moving Picture ExpertsGroup phase 4)、JPEG(Joint Photographic ExpertsGroup)などの多様な画像符号化に対応したカメラ選択表示、操作権管理、録画管理、センサー連動制御、障害管理、地図やアイコンの設定など、VMnexを利用することで、監視システムを簡単に、かつ多彩に運用できるという特徴がある(表2、図7参照)。

3.3 判断するー画像認識システムー

 防犯、設備監視、災害監視など、監視カメラの設置数は飛躍的に増加している。画像認識技術は、画像フレーム数を制御して効率よい伝送や録画を行うシステムや、物体の特徴情報をメタデータとして管理し、膨大な蓄積画像から高速検索を行うシステムなどを実現するキー技術として期待されている。
 
 実用化に向けては、屋外の過酷な環境下でも誤報を抑制し、高い認識精度を実現する物体検知アルゴリズムの開発を何よりも優先した。開発したアルゴリズム「動き差分」(表3参照)は、図8のように誤報を高い精度で抑制できる。これをベースに自動追尾や不審物検知、特徴抽出などの物体認識アプリケーションへ展開する。

■4.広域ネットワーク型監視システム

4.1 システム概要

 大規模な監視システムは、多数のカメラを遠隔地に設置し、多数の人手によって監視業務を行うことで運用されている。こうした監視業務の効率化をめざす場合、センターにおける集中監視を行うことが必須条件になると考えられる。このような、大規模な集中監視を行うシステムを、広域ネットワーク型監視システムと呼ぶ。すでに、数百台の監視カメラをネットワークでつなぎ、画像を伝送することは技術的に可能だが、伝送帯域や計算機リソース、人間の目視能力などに限界があるため、システム全体の知的な制御が必要である。
 
 このようなシステムを構築しようとした場合、全カメラからの画像データをリアルタイムに伝送し、センターで蓄積するには課題が多い。また、たとえ全画像を伝送できたとしても、数十台以上のカメラ画像を人間が目視し続けることは不可能である。一方、蓄積された画像データに対し、人物検索、動線解析、人物密度推定などを行うことができれば、犯罪捜査への有力情報の提供、店舗流通系に向けたマーケティングへの応用などが考えられる。特にマーケティング応用は、監視システムに対して、利益を産み出す機能を付加することにつながる。このため、日立グループは、多数のカメラと監視センターをネットワークで結び、撮像される画像を制御しつつ伝送・蓄積する技術の研究開発を進めている。 
 広域ネットワーク型監視システムの場合、伝送帯域、表示装置の高度化や、蓄積画像における情報爆発の解消が課題になる。そこで、まずカメラに近いところで画像内容に応じた選別を行い、その選別に応じた伝送・表示装置の制御を行う。そのうえでセンター側に伝送された画像をすべて蓄積し、容易に検索可能な状態でデータベースシステムに逐次登録していく。こうした方法により、将来の情報爆発に対する制御が可能になると考えられる。

4.2 システム構成と仕組み

 広域ネットワーク型監視システムのデモンストレーションシステムを図9に示す。このシステムは、2009年6月にNPO(Non-profi t Organization)法人産学連携推進機構内「秋葉原先端技術実証フィールド推進協議会」から発表された「類似画像検索技術による防犯支援」実証プロジェクトにおいて、実際の店舗内で稼動実験を行った際のものである。合計100台のカメラを構内に設置し、ネットワークに接続して、集中監視を可能とした。
 
 このシステムでは、各カメラで撮像された画像の内容を、画像認識機能によって判断し、伝送・表示を制御している。人が写っている可能性が高いカメラの画像をできるだけ高品質に伝送し、モニタ画面においても大きな面積で見やすく表示するなど、監視業務の効率向上をめざしたものである。
 
 モニタ表示の画面を図10に示す。上部の大きな四つのエリアには、高フレームレートで伝送されたカメラ画像をリアルタイム表示しており、下部の多数のサムネイル画像は各カメラ画像を低品質に表示したものである。上部四つの画像は、下部に表示されたカメラと画像内容に応じて、随時切り替わる。これにより、実際に監視を行う際には、上部四つの大きな画像を注視していれば、監視対象エリアの事象を把握することが可能となる。また、伝送に関しては、全カメラの画像データを伝送するのではなく、人が写っていないような必要のないカメラの画像は伝送しないため、全カメラ画像を伝送するのに比べ、約1/10 の伝送帯域で稼動できることが実証されている。これにより、構内に施設されている従来のネットワーク網を使った運用が可能となり、監視システムのためだけの専用網が必須ではなくなった。
 
 上述の仕組みによって伝送された画像は、ストレージに逐次蓄積される。蓄積された画像データは数千万フレームに及び、この中から目視で人物を探すには、非常に大きなコストがかかる。そこで、独自の類似画像検索エンジン「EnraEnra」を適用し、高速に人物を探し出すことを可能にした。この検索エンジンは、画像中の色合いや形状の特徴を用いて類似した画像を検索することができ、これを顔画像領域に適用した場合、人物の検索が非常に容易になる。数千万フレームの画像に対して、数秒で検索を実行することが可能であり、複数の手がかりを基に検索を何度も実行することができるため、多角的な分析を手軽に実現できる(図11参照)。
 
 顔画像以外にも、撮影された人物が着用していた服の色(服色)による人物検索の開発に取り組んでいる。服色は制約条件の緩い情報であり、同色の服を着た人物の識別は難しいのが現実である。しかし、カメラ間の物理的な位置関係や撮影された時間情報を活用すれば、検索確度を上げることが可能である。ここでも、検索速度の優位性を生かして、全可能性をあらかじめ検索し、すべての状況証拠を組み合わせて人物を同定することを目的とした情報統合を構築中である。

■5.おわりに

 ここでは、日立グループのネットワーク型の映像監視システムに関する取り組み、および次世代の広域ネットワーク型監視システムの研究内容について述べた。
 
 日立グループは、ハイブリッド映像監視システムFineVision XDシリーズの製品化にあたり、グループ内のネットワーク監視カメラシステム「ISnex」との機器相互接続を図るため、ネットワークカメラの共通プロトコルを策定した。これにより、今後、屋内監視から屋外監視、小規規模から大規模監視まで、日立グループの映像監視機器によるスケーラブルで統合化された映像監視システムの実現をめざしていく。さらに、ネットワークカメラ製品のインタフェースの規格標準化の国際フォーラムであるONVIF※2)(Open Network Video Interface Forum)に参画し、標準化活動を進めている。将来的には、国際標準規格をベースにさまざまな拡張性を確保しつつ、画像認識技術など日立グループの特徴となる技術を応用した付加価値の高い映像監視システムの実現をめざしていく考えである。

■執筆者

・大手 一郎
1983年日立製作所入社、都市開発システム社 ソリューション事業統括本部 セキュリティソリューション本部 セキュリティ機器商品部所属
現在、セキュリティ機器の商品企画に従事
・新保 直之
1986年日立電子株式会社入社、株式会社日立国際電気 放送・映
像事業部 所属
現在、映像監視および画像認識システムの開発に従事
技術士(電気電子部門)
・影広 達彦
1994年日立製作所入社、中央研究所 知能システム研究部 所属
現在、映像監視システムの研究開発に従事
博士(工学)
電子情報通信学会会員、情報処理学会会員、AVIRG会員
・伊藤 誠也
2004年日立製作所入社、日立研究所 情報制御第二研究部 所属
現在、映像監視システム、画像認識技術の研究開発に従事

※同記事は日立製作所の発行する「日立評論」の転載記事である
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