【みずほCB産業調査レポート】再編CATV事業者 ——「アクセスインフラの担い手」か「ゆで蛙」か(Vol.1) | RBB TODAY
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【みずほCB産業調査レポート】再編CATV事業者 ——「アクセスインフラの担い手」か「ゆで蛙」か(Vol.1)

ブロードバンド その他
事業環境の変化(イメージ)
  • 事業環境の変化(イメージ)
  • ブロードバンドの普及推移(左:累積、右:月間平均純増)
  • IPマルチキャスト方式を巡る制度問題の動向
  • NTTによるNGNサービスの概略とサービス展開計画
●ケーブルテレビをとりまく状況

 近年、FTTHは着実に加入者数を伸ばし2008年6月末には1,300万に到達、ADSLの加入者数を上回り、ブロードバンドサービスの主役の座を揺ぎないものとしている。一方、2007年7月施行の改正著作権法においてIPマルチキャスト方式の有線役務利用放送サービスについても放送コンテンツの同時再送信について、著作権処理上、有線放送サービスと同等の取扱いが認められるに至った。そして、2008年3月末にはNTT地域会社が次世代ネットワーク(NGN)サービスを東京・大阪の一部で開始し、IPマルチキャスト方式による地上波再送信サービスの全国展開も時間の問題となっている。

 本稿においては、通信事業者全体を含めCATV事業者をとりまく環境と、新たな事業環境がケーブルテレビ事業者に与えるであろう定量的なインパクトを明らかにしつつ、今後のあるべき姿について改めて検討することとしたい。

 まずはFTTHサービスの急速かつ広範な普及拡大である。2006年度第1四半期にはADSLがマクロベースで純減に転落する一方、FTTHサービスはその増勢を強め、2007年第2四半期には1,000万加入に到達した。FTTHの純増ペースは鈍化の兆しが窺えるが、コンスタントに約80万加入/四半期のペースは維持しており、2008年上期には累積加入者ベースでADSLを上回ることが略確実な情勢となっている。こうした普及拡大の背景としては、大手キャリア各社の利用料金自体の低廉化(既存電話番号が移行可能なプライマリ電話とのバンドルベースでの割安感訴求)や初期導入費用並びに利用料無料化キャンペーン等のプロモーション施策に加え、積極的な宣伝広告を通じたイメージ戦略の成功が指摘できる。

 通信事業者による地上波・BS再送信も含めた有料放送サービスもここ2年で着実に足場を固めた感がある。例えば、関西においてはケイ・オプティコムが2004年夏のFTTHサービス価格引き下げに伴い、トリプルプレイベースで約8,000円のバンドルサービスの提供を開始、2008年5月末時点では近畿2府4県の149市町村にて提供されているが、産経新聞の報道によれば2008年1月末時点で有料放送サービスについても10万加入(2008年3月末FTTH加入者数68.2万の約15%に相当)を獲得している。また、こうした安価なバンドルベースでの価格設定は周辺ケーブルテレビ事業者の価格設定にも確実に影響を与えている。例えば、ジュピターテレコムもチャネル数の少ない廉価デジタルパッケージである「デジタルコンパクト」を2006年末以降、関西地区を皮切りに提供するに至っている。

 また、NTTの光ファイバー上でオプティキャスト(スカパーJSATの100%子会社)が提供する有線役務利用放送サービス「スカパー光」についても、当初からの3大都市圏集合住宅から着実にその提供エリアを広げ、2007年8月には戸建ても含め横浜並びに川崎市全域が対象エリアになるなど、着実に提供エリアを拡大している。2008年6月末の加入世帯数は約8万世帯に留まっているものの、3大都市圏大型集合住宅という局地戦では相応のシェアを獲得している模様である(2008年3月末時点の集合住宅サービス提供可能世帯数約20万)。 

 一方、IPマルチキャスト方式による有料放送サービス普及の阻害要因となってきた著作権処理を巡る問題についても、各種審議会における議論を経て、2006年末の著作権法改正(2007年7月施行)において「放送される著作物」の「放送対象地域」における「非営利且つ無料」の「同時再送信」については、著作権処理の面で有線放送と同等の取扱いが実現するに至っている。

 現段階では上記以外の領域(例えば自主放送)については依然有料放送と同等の取扱いは実現していないものの、引き続き文化審議会著作権分科会において議論が進められることに加え、IPマルチキャスト方式そのものについてのライツホルダーのスタンスも着実に変わりつつあり、実際にIPマルチキャスト方式を採用するサービスのコンテンツラインアップも着実に拡大傾向にある。

 このような状況下、NTT地域会社各社は2008年2月27日に「次世代ネットワーク(NGN)の商用サービス提供に向けた検討状況」を発表、3月31日より東京、大阪の一部地域においてサービス提供を開始した。IPマルチキャスト方式での地上波デジタル放送再送信については放送事業者の同意が揃わず一旦先送りとなったが、東京並びに大阪の一部エリア(5/9、5/23より開始)を皮切りに逐次開始される見込みである。またこれに先立つ3月7日には有線役務利用放送サービスの担い手であるNTTぷらら並びにアイキャストが具体的な料金プランを発表している。具体的な月額利用料は、ベーシック40chの「テレビおすすめプラン」で2,625円、ベーシック40chとVoD見放題の「お値打ちプラン」で3,675円(価格はいずれも消費税込み、チューナーレンタル料別、NTT光回線の利用を前提として追加工事費不要)となっている。

 ユーザーが、NTT地域会社のFTTHサービス上で地上波再送信サービス並びに有線役務利用放送サービスの提供を受けるためには、NTT地域会社の提供する「フレッツ光ネクスト」に加入した上で、多チャンネル放送サービス「ひかりTV」の提供プランに加入する必要がある。「ひかりTV」の料金設定については、従来サービスとの比較で若干割安の水準という落ち着いたものとなっており、今後の個別ケーブルテレビ事業者の事業環境を考える上では、有料多チャンネル放送サービスも含めたサービス拡販に向け、どの程度のキャンペーンが打ち出されるのか(=ケーブルテレビ事業者にとってのリスクはARPU低下ではなく販売促進面での体力勝負となる方向性か)、またどのようなペースで地上波再送信エリアが拡大していくのかが、ポイントとなるであろう。

 当初計画との比較でサービス・エリア展開が当初計画より後ろ倒しとなっており、また有料放送サービスの加入者獲得計画(2011年3月末で110万加入、2013年3月末で170万加入)もFTTHサービス加入者数との比較で穏当なレベルとなっているものの、根本的に、時間の経過と共に全国規模で競争圧力が強まっていくとの見方を変えるべきではないと考える。

執筆者

浦辺 紀行 (うらべ のりゆき)
みずほ証券 アドバイザリーグループ アドバイザリー第3部 シニアヴァイスプレジデント(執筆当時はみずほコーポレート銀行産業調査部情報通信チーム参事役)
 
慶応大学経済学部卒業。ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院修士(MBA with Distinction)。日本興業銀行、日本銀行(出向)を経て2003年11月よりみずほコーポレート銀行産業調査部にて、通信・メディア分野のリサーチ及びアドバイザリー業務を担当。
主な著作に「通信事業者・CATV事業者によるトリプルプレイの展望と課題」(みずほ産業調査No.19 2005年12月)、「成長するモバイル市場とメディア価値」(宣伝会議 2006年4月1日号)。その他、ケーブルテレビ2006ではパネルディスカッション「ケーブルテレビの向かう未来」のコーディネーターを務める。
 
中田 郷 (なかた ごう)
みずほコーポレート銀行産業調査部情報通信チーム 調査役
 
中央大学法学部卒業。みずほ銀行、みずほコーポレート銀行名古屋営業部を経て、2006年10月よりみずほコーポレート銀行産業調査部にて、通信・メディア分野のリサーチ及びアドバイザリー業務を担当。
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