
嫌気性微生物による有機物分解とメタンガス生成が効率的に進む新型反応器を開発
ポイント
・ バイオものづくり由来の廃棄物と廃水を一括処理し、有機物の分解からメタンガス生成までを行う装置を開発
・ 反応器を撹拌部と流路部に区画することで、固形物の蓄積を抑えつつ装置内の微生物の働きを段階的に引き出し、長期間の安定稼働を実現
・ 嫌気性微生物を活用した効率的なメタンガス回収により、バイオものづくり現場の課題解決に貢献
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202607072114-O1-8oYS4Uhw】
概 要
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)バイオものづくり研究センター 一色 理乃 研究員(主務:サーキュラーテクノロジー実装研究センター)、黒田 恭平 主任研究員、成廣 隆 研究センター付らと、独立行政法人国立高等専門学校機構鹿児島工業高等専門学校 創造デザイン工学科 山田 真義 教授らは共同で、有機物を高濃度に含むバイオものづくり由来の廃棄物と廃水を、一括で処理してエネルギー回収も可能な装置「嫌気性バッフル連続撹拌一体型反応器(ABCS:Anaerobic Baffled Continuous Stirred)」を開発しました。
バイオものづくりの製造工程で発生する固形有機性廃棄物(糖化残渣)や高濃度有機性廃水には、微生物の作用でエネルギー資源へ変換可能な有機成分が多く含まれています。これらの処理には、無酸素下での微生物の作用によって有機物を分解・除去して環境負荷を抑えるとともに、メタンガスとしてエネルギーを回収する嫌気性消化技術の活用が期待されています。しかし、バイオものづくり由来の廃棄物・廃水は固形物を含み、かつ有機物濃度が高いという特性があるため、従来の反応器では固形物の蓄積や分解に伴う廃水の酸性化といった課題に対応しながら微生物叢のバランスを長期間維持してメタンガス生成までの反応を効率的に進めることが困難でした。
今回、反応器の内部を撹拌部と流路部の二つの区画に分け、高分子有機物の分解からメタンガス生成までの反応を段階的に進行させることで、従来型では困難であった固形有機性廃棄物と高濃度有機性廃水の一括処理を可能にしました。開発した反応器は固形物の蓄積を抑え、100日以上の長期間の連続運転においても安定した反応を継続し、従来型反応器と比較して1.62倍のメタンガス生成速度を達成しました。本技術は、廃水処理設備の運転効率向上と省スペース化、さらにエネルギーの自給を可能にし、微生物による廃水処理の実用性と持続性の向上に貢献します。
なお、この技術の詳細は、2026年6月29日に「Journal of Environmental Chemical Engineering」にオンライン掲載されました。
下線部は【用語解説】参照
研究の社会的背景
微生物や酵素などの生物機能を利用して化学品や材料を製造するバイオものづくりは、化石資源への依存低減や脱炭素社会の実現の観点から注目されており、今後さらなる産業拡大が見込まれています。バイオものづくりでは、木材や農業残渣などの植物バイオマスを分解して得られた糖を原料として利用しますが、その過程で糖に分解されなかった固形有機性廃棄物(糖化残渣)が発生します。また、微生物を培養して目的の化合物を製造する過程では、糖や有機酸などを多く含む高濃度有機性廃水が発生します。これらバイオものづくりにかかる廃棄物と廃水は環境負荷を高めるリスクがあるため、有機物を除去するなど適切に処理する必要があります。
現在、糖化残渣などの固形有機性廃棄物の処理は脱水・乾燥を経た上での焼却が最も一般的ですが、エネルギー消費量が大きいため持続可能性が高いとはいえません。一方、高濃度有機性廃水は活性汚泥法などの好気性処理技術によって処理されていますが、有機物の濃度が高いことから処理に必要な微生物量、酸素量が膨大となり施設も大規模になります。そこで、いずれの処理においても、有機物を微生物が無酸素下で分解し、メタンガスとしてエネルギーを回収可能な嫌気性消化技術の活用が期待されています。しかし、従来の廃水処理用の反応器では、微生物による固形有機物の加水分解速度の遅さや、微生物と固形有機物の接触効率の低さから分解が不均一になりやすいことから、処理可能な有機物負荷に限界がありました。そのため、多段階にわたる反応を安定的に進めつつ効率的にメタンガスを生成することは困難でした。
研究の経緯
産総研ではこれまで、廃水を処理する微生物叢の機能を解明、制御することで、生物学的な側面から廃水処理システムを高度化する研究を行ってきました。廃水処理に利用される活性汚泥プロセスに共通する微生物叢の特定(2023年9月5日 産総研プレス発表)やペットボトルなどに用いられるポリエチレンテレフタレートの原料を製造する過程で排出される高濃度有機性廃水の一括処理(2022年5月13日 産総研プレス発表)に成功しています。今回、嫌気性消化技術により、バイオものづくり由来の廃棄物と廃水を同時に効率的に処理可能な反応器の開発に取り組みました。
なお、本研究開発は、独立行政法人日本学術振興会の科学研究費助成事業(JP23K20980、JP25K00043)による支援を受けています。
研究の内容
開発した反応器(ABCS反応器)の内部は、固形物の分解を助ける撹拌部と、有機物分解とメタンガス生成が進む仕切り板付きの流路部から構成されています(図1)。この構造により、固形物の分解反応からメタンガス生成反応まで一つの反応器の内部で順序よく進むように設計されています。撹拌部では、固形有機物と微生物の接触効率が上がることで、セルロースのような高分子有機物を分解する微生物がよく働き、グルコースのような低分子有機物へと変換する反応が促進されます。その後、流路部で低分子有機物の分解や有機物からのメタンガス生成反応が進行します。また、区画間が緩やかなスロープで接続された構造となっていることも、固形物の滞留を防いでいます。
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この反応器の性能を検証するため、従来型の撹拌部のない嫌気性バッフル反応器(ABR:Anaerobic Baffled Reactor)とともに100日以上の連続運転を行い、バイオものづくり工程から排出されるものを模擬した固形有機物と高濃度有機性廃水(約25,000 mg COD/L)を同一条件で処理しました。その結果、ABCS反応器ではセルロースなどの固形有機物が撹拌部で微生物により分解されましたが、ABRではこれらが分解されずに反応器内部に蓄積しました(図2)。ABRでは固形物が内部に溜まることで処理水に含まれる有機物の濃度は低くなり、流出廃水に含まれる有機物量を流入廃水に含まれる有機物量で除した比率である有機物除去率としてはABCS反応器と同程度の値を示しました。しかし、反応器内に固形物が蓄積するためにABRをさらに長期間運転すると反応器の流路閉塞などから運転が破綻することが予測されます。一方、ABCS反応器では固形物が十分に分解されて後段の反応に移行するため蓄積せず、その分メタンガス生成が進みました。実際に、ABCS反応器のメタンガス生成速度はABRの1.62倍となっており、固形有機物の分解効率の違いがエネルギー生成速度の差として現れたと考えられます。(図2)
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固形有機物の分解効率およびメタンガス生成速度の違いをもたらす要因を明らかにするため、各反応器の汚泥から16S rRNA遺伝子アンプリコン解析により微生物の種類と存在割合を解析しました。その結果、両反応器において、プロピオン酸や酪酸、酢酸等の有機酸をメタンガスまで変換する微生物(SyntrophobacterやSyntrophomonadaceae、Methanothrix、Methanobacteriumなど)が検出されました。さらに、ABCS反応器ではセルロースやグルコースを分解する細菌(BacteroidesやDysgonomonasなど)が高い割合で存在していましたが、ABRではこれらの細菌の存在割合は全体的に非常に低いことがわかりました(図3)。ABRで固形物が蓄積した現象は、こうした分解細菌が反応器内で十分に増加できない構造が影響したものと考えられます。一方で、ABCS反応器では撹拌部が存在することで、セルロースなどを分解する細菌が増殖し、嫌気性汚泥内での存在割合が増加することで、固形有機物が分解されやすい環境が形成されたと考えられました。
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これらの結果から、開発したABCS反応器は固形有機物と高濃度有機性廃水を同時に処理しながら、100日以上の長期間にわたって安定した運転と高いメタンガス生成性能を実現できることが示されました。
今後の予定
今後は、ABCS反応器をスケールアップすることで実装に向けた実証試験を行います。さらに、その他の固形有機物を含む廃水・廃棄物への適用可能性を検証するため、プラスチックケミカルリサイクル廃棄物・廃水の処理試験を行います。ABCS反応器を横展開し、微生物による持続可能性の高い廃水処理技術の開発を目指します。
論文情報
掲載誌:Journal of Environmental Chemical Engineering
タイトル:Development of an anaerobic baffled continuous stirring (ABCS) reactor for co-digestion of synthetic high-strength wastewater and solid organic waste
著者名:一色理乃、*山田真義、青柳智、堀知行、山内正仁、*成廣隆、*黒田恭平【*は共同責任著者】
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jece.2026.123885
研究者情報
産総研
バイオものづくり研究センター 一色 理乃 研究員(主務:サーキュラーテクノロジー実装研究センター)、
黒田 恭平 主任研究員、成廣 隆 研究センター付
環境創生研究部門 青柳 智 主任研究員、堀 知行 研究グループ長
鹿児島工業高等専門学校
創造デザイン工学科 山田 真義 教授、山内 正仁 教授
用語解説
糖化残渣
木材や農業残渣などの植物バイオマスを酵素などで糖に分解する工程で、糖にならずに残る固形の有機性固形物。難分解性有機物(主にセルロースやリグニン)を含む。
高濃度有機性廃水
糖や有機酸、アルコールなどの有機物が高濃度で含まれる廃水。発酵産業、食品加工、化学工業、バイオものづくりプロセス、その他の多様な工業プロセスで発生する。
嫌気性消化技術
無酸素下での微生物の働きで有機物を分解し、メタンを主成分とするバイオガスを生成する技術。廃棄物処理とエネルギー回収を同時に行えるため、循環型処理技術として利用されている。
微生物叢
さまざまな環境に生息する多種多様な微生物の集合体。「マイクロバイオーム」ともいう。
農業残渣
収穫後に圃場などに残る茎・葉・わらなど、農作物由来の未利用植物資源。家畜飼料や土壌堆肥として利用されるほか、バイオマス資源としての活用が進められている。
植物バイオマス
木材、農業残渣、草本類など、植物由来の再生可能な有機資源。セルロース、ヘミセルロース、リグニンを主成分とし、化学品や燃料の原料として利用される。
活性汚泥法
産業廃水や都市下水で広く用いられている生物学的処理法。反応槽と呼ばれるタンクに廃水を流入させ、エアレーションポンプにより空気をタンク内へ送りこむことで、好気性微生物の各種化合物分解活性を利用して廃水に含まれる有機物の分解や窒素成分の除去を行う。
好気性処理
酸素を利用する微生物を用いて有機物や窒素成分を分解する処理方法の総称。活性汚泥法、生物膜法、好気性ろ床法などが含まれ、廃水処理の主要技術として広く利用されている。
有機物負荷
廃水中に含まれる有機物の量を示す指標で、廃水処理の難しさを左右する。有機物負荷が高いほど、処理設備や微生物にかかる負荷が増大する。
嫌気性バッフル反応器
内部に連続した仕切り(バッフル)を設け、廃水が上下に流れながら複数区画を通過する構造の嫌気性処理装置。各区画で異なる嫌気性微生物が定着し、段階的に有機物を分解する。汚泥の保持性にも優れている。
COD
化学的酸素要求量(Chemical oxygen demand)。有機物などの酸化に必要な酸素量を指標化したものであり、水中の有機物濃度の測定や、水質汚濁の程度を評価するために広く用いられている。
16S rRNA遺伝子アンプリコン解析
細菌に共通して存在する16S rRNA遺伝子の塩基配列を指標に、微生物の種類と構成比を解析する手法。高速シーケンサーを用いて多数の配列を取得し、反応器内の微生物叢を明らかにする。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20260708/pr20260708.html

