「会社が大変だからかな。冷房がつかない。すごく暑い」
韓国のテレビ局JTBCをめぐり、所属アナウンサーのそんな一言が波紋を広げている。
発言の主は、JTBCゴルフのアナウンサーで、恋愛リアリティ番組『乗り換え恋愛2』でも知られるイ・ナヨンだ。
最近、自身のYouTubeチャンネルに公開した「私、まだ無職ではありません」という趣旨の動画で、JTBC社屋に出勤する様子を公開した。
動画の中でイ・ナヨンは、会社1階でオンラインの中国語レッスンを受けた後、「こんなこと言ってもいいのかな。会社が大変だからかな。会社の冷房がつかない。すごく暑い」とこぼした。
さらに「これ、本当に影響があるのかな。こんなこと言ったからってクビにはならないですよね?」と冗談めかして続けた。
一見すれば、暑さに耐えかねた会社員の何気ない一言にも聞こえる。
だが、今のJTBCを取り巻く状況を考えると、単なる“職場あるある”では片づけにくい。
「軽率」か「正直」か
この発言をめぐって、韓国のネット上では賛否が分かれた。

一部からは「公の場で話すには軽率だった」「影響力のある人なら、言葉がどんな波紋を呼ぶか考えるべき」「JTBCの構成員ならなおさら慎重であるべき」といった指摘が出た。
一方で、「会社を心配する気持ちから出た率直な言葉ではないか」「不安な現実を打ち明けただけなのに、過度に責めるのは行き過ぎだ」と擁護する声も上がっている。
実際、イ・ナヨン本人も動画の説明欄で、自身の不安を率直に記している。
「会社が不渡りを出した…? 笑わないで。私は真剣だ」と冗談を交えつつも、「もしこの会社を出ることになったら、またアナウンサーとして働けるのか。もう年齢も重ねて、再就職も難しいだろうし、このままアナウンサーは終わりなのか」と落ち込んだことを明かした。
さらに「すぐに会社が終わるわけではなくても、だんだん夢の終わりに向かっているような気分」ともつづっている。
この言葉が重く響くのは、JTBCが実際に深刻な経営難の渦中にあるからだ。

JTBCは最近、206億ウォン(約20億円)規模の流動化借入金を期日までに返済できず、債務不履行、いわゆるデフォルトを宣言した。
その後、JTBCを含む中央グループ系列会社は企業回生手続きを申請。ソウル回生裁判所はJTBCの自律構造調整支援(ARS)プログラム申請を受け入れ、回生手続き開始の判断をいったん保留している。
番組内でも「JTBCが大変」
しかも、JTBCの経営難は数字や裁判所の書類の中だけにとどまっていない。番組の中でも、自虐的に語られ始めている。
最近放送されたJTBCのバラエティ番組『冷蔵庫をよろしく』では、出演者がシェフの“席”をめぐる冗談の流れで、「今、大変だから出演料も減らすついでに一人抜こう」と発言。
これにアン・ジョンファンも「今そういう状況だ。JTBCが大変だから」と応じ、「収録の途中で誰かがいなくなったら、“行ったんだな”と思ってください」と笑いを誘った。番組内には「最近大変です」という字幕まで添えられた。

もちろん、これはバラエティ番組らしい冗談だ。ただ、所属アナウンサーが「エアコンが出ない」と語り、番組出演者まで「JTBCが大変」と口にする状況は、局内外の空気がかなり切迫していることをうかがわせる。
実際、韓国メディアでは、JTBCの一部番組をめぐる不安も報じられている。バラエティ番組『離婚熟慮キャンプ』(原題)は、ワールドカップ期間が終わった後にも休止となり、JTBC側は「制作日程上の休止」と説明した。
ただ、同局の財政難や出演料支払いの一部遅延が取り沙汰されていることもあり、業界内外では経営難の影響ではないかとの見方も出ている。
また、ウェブバラエティ『ハルミョンス』の収録中止や、新ドラマ『恋愛の再発見』の撮影一時中断説も報じられた。ドラマ制作陣は、台本の完成度を高めるための再整備や梅雨時期を考慮した日程調整だとして、回生手続きとの直接的な関連には線を引いている。
『梨泰院クラス』の名門局に何が
JTBCは、日本の韓国ドラマファンにとっても決して遠いテレビ局ではない。
日本でも大ヒットした『梨泰院クラス』を放送した局であり、『夫婦の世界』『SKYキャッスル』『財閥家の末息子』など、数多くの話題作を送り出してきた。韓国ドラマのグローバル化を語るうえで、JTBCは重要な存在だった。

報道機関としても、かつて韓国社会に大きな影響を与えた。2016年の崔順実(チェ・スンシル)ゲート報道では、当時の朴槿恵(パク・クネ)政権を揺るがす決定的な報道の一つを行い、権力を追及するメディアとして強い印象を残した。
そのJTBCが今、デフォルトと企業回生手続きという厳しい局面に立たされている。
もちろん、企業回生手続きの申請は、直ちに放送停止や破産を意味するものではない。JTBC側も、番組や放送業務に大きな問題はないとの立場を示している。イ・ナヨンも「幸い、まだ会社と放送に大きな問題はない」と説明している。
それでも、「エアコンが出ない」という一言がこれほど注目されたのは、視聴者も業界関係者も、JTBCの異変をすでに感じ取っているからだろう。
冷房の不調だけなら、単なる職場の小さな不満にすぎない。しかし、それがデフォルトと企業回生手続きの渦中にある名門テレビ局で語られた瞬間、意味は変わる。
かつてヒットドラマを生み、韓国社会を揺るがす報道を放ったJTBC。その苦境は今、財務資料の中だけでなく、現場の暑さと出演者たちの冗談にまでにじみ出ている。
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