17日、東京・帝国ホテルにて『三菱電機・燈 協業に関する戦略発表会』が開催された。同発表会には、三菱電機株式会社 代表執行役 執行役社長 CEO・漆間啓氏、同社専務執行役 CDO、CIO・武田聡氏、燈株式会社 代表取締役社長 兼 CEO・野呂侑希氏の3名が登壇した。

燈は『日本を照らす燈となる』を使命に掲げ、2021年2月に創業した東京大学発のAIスタートアップ。最先端のテクノロジーを駆使しながら、建設、製造、物流、さらには卸売・小売業界など広範な産業領域へと支援領域を拡大している。今年1月28日に、同社は三菱電機を引受先とする第三者割当増資により資金調達を実施。本増資に先立つ企業評価額は1,000億円となり、産業現場における実装力と技術的優位性が評価された。

会見冒頭、漆間氏は、三菱電機がこの4年ほど「循環型デジタル・エンジニアリング企業」への変革を進めてきたと説明。その流れの中で、一昨年5月にはデジタル基盤「Serendie」を発表し、昨年9月にはOT領域における情報セキュリティ強化を目的としてNozomi Networksを買収、さらに今年1月には燈への出資を完了したことを紹介。データ活用とセキュリティ強化に続き、今後はAIへの取り組みも加速していく考えを示した。

今回の協業の中核に据えられたのが、現場に蓄積された暗黙知をデータ化し、人がいなくても実現できる状態を目指す「Physical AI」だ。漆間氏は、交通、電力、原発、工場など、止めてはならない現場においては、機器の挙動を把握しながら予防的に対応し、万が一止まった場合もいかに早く復旧させるかが重要だと説明。その上で、「今年は間違いなくPhysical AI元年になる」と語った。

また、三菱電機側の推進体制として、今年1月に研究所、生産技術センター、AI戦略室の機能を統合した新組織「AXC」を設立したことも紹介した。AXCがマネジメントを担いながら、自社で蓄積する技術、燈と共同開発する領域、燈に委託する領域を整理して協業を進めていく考えを明らかにした。あわせて、掲げた「6か月以内に実用化、事業化」という時間軸についても、「これでも遅いのではないかと思うほどAIの進展は速い」と説明し、半年以内にさまざまな領域のデジタル化を進める方針を打ち出した。

一方、野呂氏は、燈が2021年2月の創業以来、建設業界を起点に産業特化型のDX・AI導入を進めてきたと説明。従業員数は現在約420人、その半数近くがエンジニアで構成されているとし、「AIを中心とする最先端テクノロジーで、日本の産業をより良い方向に進めていきたいという思いで創業した」と振り返った。

燈の強みとして野呂氏は、「燈モジュール」と呼ぶ100種類以上のAIモジュール群に加え、現場の未整理な情報をデータ化し、デジタル空間でのシミュレーションを経て実機へ戻していく循環のスピードと精度を挙げた。その上で、Physical AIを創業以来最大のチャンスと位置付け、誇るべき産業基盤に知能を宿し、次世代のものづくりで世界をリードしていく考えを語った。

同社が掲げる協業ビジョンは、三菱電機におけるあらゆる領域での「真のテクノロジーパートナー」となることだ。単にロボティクスによる自動化を進めるだけでなく、「防衛・宇宙」「産業・FA」「空調・冷熱」「エネルギー」など幅広い領域において、三菱電機が持つハードウェア群の知能化を共に実現していく姿勢を示した。

続いて登壇した武田氏は、Physical AI実現の鍵として「データ」「制御」「安全」の3点を挙げた。OT領域には、現在AIで主に活用されているデータの「数10倍~数100倍」ともいわれる膨大なデータがあるとした上で、三菱電機はデータ基盤「Serendie」を通じて、それらをAI活用につなげる環境を整えてきたと説明。さらに、高精度な制御技術と現場での安全性に関する知見も同社の強みだとした。


具体的なユースケースとして紹介されたのが、工場内物流のオーケストレーションだ。武田氏によれば、工場では各ライン内部の自動化は比較的進んでいる一方、ライン間物流は、ライン間のバランス調整や生産品目の変化への対応などを現場で人が吸収しているため、自動化率が低い領域だという。そこで燈の技術を活用し、AMR(Autonomous Mobile Robot、自律走行搬送ロボット)による部品供給に加え、エレベーターとの連動や、生産ラインに必要なパーツを必要なタイミングで届ける仕組みまでをデジタル上に再現し、シミュレーションを実施。その結果、AMRの稼働率が5割改善した事例が紹介された。

質疑応答では、今後の展開先や差別化ポイントについても言及があった。漆間氏は、まずは自社工場で実装を進めて知見を蓄積し、その後は国内、さらに海外へと広げていく考えを説明。その上で、制御機器がコモディティ化していく中では、現場ごとに異なる暗黙知や生産技術の知見を標準化・ライブラリ化し、どこまで顧客に提供できるかが競争力の源泉になるとの見方を示した。

競合との差別化について野呂氏は、NVIDIAのように描画能力やシミュレーション基盤に強みを持つ企業の技術も必要に応じて活用していく考えを示した上で、現場のデータを素早く取り込み、ロボットや実機の制御に落とし込んでいくラストワンマイルの実装力に強みがあると説明した。あわせて、大企業とスタートアップの協業で課題になりがちな意思決定の遅さや温度差についても、「今のところそうしたギャップはまったく感じておらず、非常にうまく協業させていただいております」と語った。










