新作Netflix映画『大洪水』が、グローバル市場で破竹の勢いを見せている。
ただその一方で、本国の韓国では酷評が相次いでおり、その温度差に戸惑いの声も上がっている。
海外では「1位」、韓国では「駄作」
世界の動画配信サービスに関する各種データを集計・順位付けする「FlixPatrol」によると、12月19日に配信が開始された『大洪水』は、公開から3日でNetflix映画(非英語)部門のグローバル1位に到達した。韓国を含むブラジル、メキシコ、フランス、台湾など、世界52カ国で「本日のトップ10」1位を獲得している。
海外の視聴者からは「新鮮な設定のアポカリプススリラー」「キム・ダミとパク・ヘスの演技が圧倒的」など、好意的な声が並んだ。一方で、韓国のコミュニティやレビューサイトでは、「時間の無駄」「今年最悪」といった厳しい評価が目立つ。

この現象について、字幕翻訳家のファン・ソクヒ氏は12月23日、SNSを通じて「悪評のあとに『絶対見るな』『配給会社は潰れろ』といった呪詛が付く」と指摘。「十分“可”といえる出来にもかかわらず、評価の塩分濃度が高すぎるし、表現も過激だ」と警鐘を鳴らした。
さらに「チケット代の高騰で目線が上がるのは理解できるが、上昇率30%に対して期待値は200%上がった気分だ」と述べ、過剰な酷評文化を問題視している。
思ってたのと違った?
こうした反応について、業界では韓国での不評理由をマーケティングのミスマッチに求める声が強い。

配信前に公開されたポスターや予告といったティザーコンテンツでは、水没したマンションや死闘の場面が強調され、典型的なディザスター・サバイバル作品としての文脈で訴求されていた。そのため視聴者は、『TSUNAMI -ツナミ-』『トンネル 闇に鎖された男』『EXIT イグジット』のような、災害下におけるヒューマンドラマと脱出劇を期待したとみられる。
しかし、実際の中身は難解さも伴うタイムループSFだった。中盤以降にはAIなどの設定も前面に出てくるため、直感的なディザスター映画を想定していた層は、「騙された」という感覚を抱きやすかったと考えられる。
実際、「ディザスター映画だと思って家族と見たら、空気が凍った」という声も少なくない。

映画業界関係者は「監督の前作『テロ、ライブ』の緊張感を期待していた観客にとって、複雑なSF設定は参入障壁になった」と指摘する。「最初からSFミステリー・スリラーだと明示していれば、それを求める適切な層に刺さり、反発も抑えられたはずだ」と分析した。
制作を手がけたキム・ビョンウ監督自身も、こうした賛否は想定していたという。「10人中7~9人が好む大衆映画として企画したわけではない」と説明していたが、結果的に“大衆向けディザスター作品”として装った宣伝が裏目に出た形だ。
本国では厳しい評価を受けたものの、世界1位という結果は誇るべき成果だろう。『大洪水』の事例は、作品の本質とマーケティングのシンクロが、いかに重要かを示す象徴的なケースとなった。



