カン・ハヌルとコ・ミンシが共演して話題になった『隠し味にはロマンス』。財閥ハンサングループの理事ボム(カン・ハヌル)と地方の食堂でシェフを務めるヨンジュ(コ・ミンシ)の恋のゆくえをドキドキしながら見守った人も多いだろう。
『隠し味にはロマンス』のタイトルどおり、本作の魅力はたびたび登場する料理だ。料理がいかに人の心を豊かにするか、ボムとヨンジュを通して対象的に描いているのが印象的だ。2人の恋愛模様はもちろんのこと、料理を通じて人の絆を描いた本作の見どころを紹介したい。
(以下、物語の内容にふれるネタバレあり)
■筆者プロフィール
咲田真菜
大学卒業後、国家公務員、一般企業の会社員として勤務後フリーライターに転身。『冬のソナタ』で韓国ドラマにハマって以来、視聴し続けている。好きなジャンルはラブコメ、ファンタジー、法廷もの。ドロドロした愛憎劇はちょっと苦手。いつか字幕なしで鑑賞したいと韓国語を勉強中。
韓国・全州の食文化とテンプルステイ
料理をテーマにした韓国ドラマは多い。よく知られているのは、イ・ヨンエ主演の『宮廷女官チャングムの誓い』だ。豪華な宮廷料理が登場し、料理に込められた意味や食材へのこだわりを教えてくれた料理ドラマの代表作といっていいだろう。
また、食事シーンが印象的なドラマは多い。例えば『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』で、パク・ウンビンが演じた主人公のウ・ヨンウが大のキンパ(韓国風海苔巻き)好きで、毎朝父親が経営する店でキンパを食べるシーンが描かれた。キンパ以外にもジャージャー麺やチキンはもはや韓国ドラマになくてはならないアイテムとなっている。

本作が他の韓国ドラマと一線を画しているのは、ローカルフードを登場させている点で、印象的だったのはヨンジュが作った「水ジャージャー」だ。水ジャージャーは、舞台となっている全州の名物だという。
またヨンジュが経営する食堂「ジョンジェ」のメンバーであるボム、ミョンスク(キム・シンロク)、チュンスン(ユ・スビン)の4人でテンプルステイするシーンも印象的だった。実際に韓国で行われている仏教体験で、法衣を着て座禅を組んだり数珠づくりをしたりするものだ。心を落ち着かせ、いかにもデトックス効果がありそうな寺の料理を食す。月明りの中でヨンジュとボムが語り合うシーンは心が洗われ、大都会ソウルを舞台にしたドラマでは味わえない雰囲気が、このドラマにある。
カン・ハヌル&コ・ミンシ 2人の対照的な人生が意味するもの
他人のレシピを盗んで収益を上げようとするボムと、真摯に料理に向き合うヨンジュの出会いは最悪だった。いわば韓国ドラマの典型的なパターンといっていいだろう。
ボムは財閥という恵まれた環境に生まれるものの、家庭の温かさに久しくふれていなかった人物だ。ビジネスを最優先に考える母親のもとで育ったため、汚い手を使ってでも目的を達成しようとする。しかし根っからの悪人というわけではなく、お調子者で憎めない面がある。時折見せるボムのコミカルなシーンに笑いが止まらない人もいるのではないだろうか。
演じているカン・ハヌルは、コメディーからシリアスな役まで器用にこなす実力派俳優。昨今では『イカゲーム2』『イカゲーム3』の参加者388番として知っている人も多いだろう。『イカゲーム2』『イカゲーム3』で共演しているイム・シワンが主演を務めた『ミセン~未生~』、ハ・ジウォンと共演した『カーテンコール』など、話題作に多数出演し、高い演技力で視聴者を魅了している。

一方ヨンジュは、親の顔を知らずに育った人物だ。寺に捨てられたヨンジュを住職(ファン・ジョンミン)が母親代わりとなって育てた。住職をはじめとした尼僧たちからたっぷり愛情を受け、住職が作る心のこもった料理で育ったヨンジュは心優しい女性に成長した。
演じているコ・ミンシは、光州事件を題材にした『五月の青春』で演じた看護師役が印象深い。イ・ドヒョンが演じる医学生と恋に落ち、運命に翻弄されていく姿を苦しい思いで見た人もいるだろう。

ヨンジュが作る温かい家庭料理を食べて、忙しい母親の代わりに育ててくれた祖母の料理を思い出したボム。経済的には何も不自由なく育ったけれど、愛が足りなかったボムの心にヨンジュはスッと入り込んだ。ボムは忘れかけていた愛を少しずつ思い出し、ヨンジュに惹かれていく。愛情を込めて作る料理は、人の心をいとも簡単にとらえる力があると、この物語は教えてくれる。

全体を通して、ゆったりと時間が流れる癒し系のヒーリングドラマといえる本作。ヨンジュを支えるミョンスクを演じるキム・シンロクと、チュンスンを演じるユ・スビンのコミカルな演技も魅力だ。特に『地獄が呼んでいる』『ムービング』などで、癖のある役を演じることが多かったキム・シンロクの新たな一面が見られるのは非常に楽しい。
そしてエンディングでは、パク・ジフンがカメオ出演。ミョンスクがハマっているドラマの主人公として登場するのだが、『弱いヒーロー2』で共演しているユ・スビンが「高校はどこ?」と質問するシーンに吹き出してしまう。こうした脇を固めるキャストの魅力もぜひチェックしてほしい。
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