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【仏教とIT】第13回 「仏教×VR」の2つの可能性

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【仏教とIT】第13回 「仏教×VR」の2つの可能性
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VRゴーグルをつけて瞑想の世界へ



 「龍法」という私の名前はレアで、同名の人とは一生出会わないだろうと幼い頃は思っていたが、ネット社会の到来で事情は変わった。

 同名ということが縁で、facebookで私以外の「龍法」さん(しかも同年生まれ!)とつながり、昨年5月に初めて出会った。六本木で待ち合わせし、顔を合わせて早々に「龍法さんですか?」「はい。あなたも龍法さんですか?」という馬鹿馬鹿しい予定調和な言葉を交わし、ランチを取りながら他愛なく盛り上がった。

 さて、今回のコラムのテーマは、「VR(バーチャルリアリティ)」である。ではなぜもう一人の「龍法」さんの話を冒頭に書いたかというと、彼がVRの専門家だからである。私と同い年のこの「龍法」さん、本名を岩永龍法という。株式会社GREEで、VRコンテンツの開発に従事している。ランチの席上で、発売されたばかりの「Oculus Go」が寝ころんだままで使えるという点でいかに画期的かという熱の入った講釈をいただき、そしてこれを装着してGREEが開発したコンテンツを見せていただいた。なかには美女が私の耳元でなまめかしい言葉を囁くようなものも含まれていて、そのあまりのリアルさに酔いしれていたら知らないうちに写真に収められていた。





 VRの世界が初体験だった私にとっては、ゴーグルをつけただけで夢のような世界へと没入できるというのは衝撃的で、これは仏教体験の幅を広げてくれると感じた。仏教には、心のなかに満月を観想していく「月輪観(がちりんかん)」や、ブッダの姿を観想する「仏身観(ぶっしんがん)」などの瞑想がある。これらは慣れればVRゴーグルなどなくても実践できるけれど、高度なイマジネーションを要求するから初学者には簡単ではない。浄土宗を開いた法然上人も「仏の姿や極楽浄土の様相を心に観察しようとしても難しいからやめておきなさい」と戒め、代わりに「南無阿弥陀仏」とひたすら唱えるシンプルな実践を勧めた。もし、法然上人がVRゴーグルに出会っていれば、「瞑想が難しかったらVRゴーグル使ってイマジネーションを補ってもいいよ」などと教示しただろうと想像するのである。

 ただ、いくらOcculus Goが2万円台で購入できるとしても、VRゴーグルとVRコンテンツを入手するというのは、一般的なコンシューマーにとってはハードルが高い。家庭のリビングで気軽に仏教体験を提供できるとみなすには、時期尚早である。岩永龍法さんは、「VRゴーグルとVRコンテンツをセットにして社員研修のプログラムが提供され始めている」と教えてくれたが、瞑想体験も社員研修のひとつのコンテンツとして展開可能だろう。「VR修行体験」という仏教体験の新しいスタイルが実現されていくことを願っている。


VRでどこでもお寺探訪



 ところで、「VR修行体験」以外にも、「仏教×VR」がもたらすもう一つの可能性がある。それはイマジネーションを補って仏道修行の世界に没入させるのとは対照的に、ちょうど「どこでもドア」を開いて見知らぬ地へと旅するように、リアルなお寺をありありと体験させてくれる「VRお寺参拝」である。

 この方面においてはすでに先駆的な事例が存在する。その一つは比叡山延暦寺が一昨年秋に公開した動画である。比叡山延暦寺では、歌舞伎役者市川猿之助氏を案内役に、千日回峰行の行者道を歩きながらお堂や修行を紹介する動画を撮影した。VRゴーグルを装着しなくても、スマホの角度を傾ければ360度見渡せる仕様に仕上がっているから、自宅に居ながらにして比叡山延暦寺を参拝するような感覚をもたらしてくれる。



 この動画を制作した狙いは、比叡山延暦寺にまだ興味を持っていない若い世代に、スマホで気軽に知ってもらうことだという。2017年11月に公開された当初は「知る人ぞ知る」という静かなスタートだったらしいが、メディアなどで取り上げられるにつれ再生回数は伸び、現在では3万1千回を超えているから、所期の目的は果たされたと言えるだろう。

 比叡山延暦寺は一眼レフ4台で撮影したが、そこまで本格的な仕上がりを望まなければ、このような360度動画は数万円程度のカメラ1台だけでも撮影可能だ。私のお寺で昨年末に浄土系アイドル“てら*ぱるむす”のミュージックビデオを撮影したときは、360度カメラを中心に置いてその周りをアイドルが踊るというやり方だった。



 360度動画で自分のお寺の本堂を見ると、日頃見慣れた場がPC越しに目の前に現れたような臨場感がある。お寺はまだまだ一般の人々の生活から縁遠いから、360度動画で親近感を覚えてもらうのは、確かに有効な方法だろう。導師席において法要をつとめれば、視聴者はあたかも自分がお坊さんになったような視点でその法要を楽しめる。なにげないお坊さんの日常を配信してみるのも面白いだろう。



 あるいはまた、海外出張、海外勤務などが当たり前の時代には、肉親のお葬式までに帰って来られない人もいる。お葬式場に一台カメラを置いておいてストリーミング配信をすることで、模擬的に参列することも可能だろう。VRの技術がもたらすこれらの変化に多少戸惑いもあるが、参拝や体験の幅を広げてくれることには、ただ期待が膨らむばかりである。

池口 龍法氏
池口 龍法氏

【著者】池口 龍法
1980年兵庫県生まれ。兵庫教区伊丹組西明寺に生まれ育ち、京都大学、同大学院ではインドおよびチベットの仏教学を研究。大学院中退後、2005年4月より知恩院に奉職し、現在は編集主幹をつとめる。2009年8月に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させて代表に就任し、フリーマガジンの発行など仏教と出合う縁の創出に取り組む(~2015年3月)。2014年6月より京都教区大宮組龍岸寺住職。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)、寄稿には京都新聞への連載(全50回)、キリスト新聞への連載(2017年7月~)など。
■龍岸寺ホームページ http://ryuganji.jp
■Twitter https://twitter.com/senrenja
《池口 龍法》
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