【新連載・仏教とIT】第1回 お坊さんから見た、ITの世界 | RBB TODAY

【新連載・仏教とIT】第1回 お坊さんから見た、ITの世界

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【新連載・仏教とIT】第1回 お坊さんから見た、ITの世界
  • 【新連載・仏教とIT】第1回 お坊さんから見た、ITの世界
  • 池口 龍法氏

仏教×ITの可能性


 「お坊さんもアイドルみたいなもんだから、ShowRoomで配信したら若い人たちに響くんじゃないか」

 「私のYouTubeチャンネル、登録者数が4,500人を超えました。動画は威力がありますよ」

 「門前の掲示板、通りがかりの人がけっこう読んでくれてます。だから、読んだ人が写真撮ってSNSに投稿したくなるように言葉を考えてます」

 いずれも、ここ数日に出会ったお坊さんたちとのナマの会話の一コマである。他愛もない雑談の場ではあったが、お坊さんたちの顔つきはみな真剣だった。仏教とIT。一見、異質な分野であるが、ITが提供する新しいプラットフォームに2,500年の伝統を誇る仏教のコンテンツが融合すれば、面白い化学反応が起こることは想像に難くない。だから、同世代のお坊さんたちが集まって話すと、決まってITの話で盛り上がる。

お釈迦さまもITを推奨!?


 とはいえ、これは本当に仏教の革新的なムーブメントなのか。もしかしたら、ITによって仏教が消費されているだけではないのか。私が思うにであるが、お釈迦さまがもし現代に生まれていたら、ITをうまく用いただろう。なぜかというと、最初期の経典の一つである『法句経』に、


「もろもろの悪を作すことなく もろもろの善を奉行し
自らその意(こころ)を浄むる これもろもろの仏の教えなり」


 という言葉がある。仏教は「心を調える」ことを主軸において生活することを説くが、その手段は問わない。したがって、現代の文脈に合わせて翻訳すれば、

“「ITに使われるなかれ ITをうまく活用し
心を調えるサービスを届ける これもろもろの仏の教えなり」”

 ということになるだろう。最新のテクノロジーを採り入れ、時代の苦しみに向き合っていくのが、仏教の本質だというのが私の理解である。

僧侶は常にオンラインであるべし


 したがって、お寺とは世俗社会の喧騒を離れた静かな場であってほしい、と夢見ている人たちの理想を裏切るようで申し訳ないが、私の生活はどっぷりとスマホ漬けである。法要の導師をつとめている時以外は、いつでもどこにいても私あてのコンタクト――電話もメールもSNSも――を受信できるよう、片時もスマホを離さない。遠方に出かけるときは、モバイルノートを持ち歩き、スマホからテザリングして仕事をする。移動中の車内でも原稿を書いて提出できるのは便利だが、就寝前の寝床まで校正依頼が飛び込んできたりするから、つい寝不足になる。

 これはまさしく「スマホ依存症」などと片づけられる現代病であるが、しかしながら、お寺で生まれ育った私が幼き日から慣れ親しんできた風景でもある。深夜2時ときには3時、あるいは未明の5時。プルルルル、とお寺の電話が鳴る。その瞬間に父つまり住職が飛び起きて受話器を取る。家族も「訃報!」とざわつく。私も「そういえば、檀家の○○さん、危篤って言ってたな」と思いがよぎる。とはいえ、子ども時代の私になにができるわけでもない。寝床から出ても邪魔なだけなので、周りがごそごそしているのを尻目に再び眠りについたが、目を覚ましたときにいつもの朝はそこになかった。代わりにあったのは、慌ただしく葬儀の準備をする家族の姿だった。人の生き死にの現場に居る僧侶に、オフラインは存在しないと肌で感じていた。

 だから、大人になった今、私はスマホの電源を切らない。いつでもどこにいても、檀家さんの訃報を受け止めたいということも理由であるが、そもそも新しい情報がたえず入ってくるのは、この世が常に移り変わるからである。押し寄せる情報のなかをいかにしなやかに生きられるか――これは僧侶のみならず、すべての現代人に課せられた修行だろう。ゆっくり寝ているより、私はこの環境を楽しく生きていきたい。

本稿に「仏教×IT」への願いを込めて


 「仏教×IT」というテーマで本連載のお誘いをいただいたとき、「時代が変わった」ことをひしひしと感じた。日本における「仏教×IT」、とくにネット上の情報発信の先駆けを果たしたのは、インターネット寺院「彼岸寺」(2003年開基)である。彼岸寺については次回に詳しく書くつもりなので、ここでは端的に述べるにとどめるが、初期の彼岸寺では、20代の超宗派の僧侶が集まってブログで仏教を語っていた。当時はたったそれぐらいのことが、センセーショナルだった。

 いまでは、SNSで情報発信を行うお坊さんはもはや珍しくない。海外でも、ツイッターで1,800万人のフォロワーを持つダライラマ法王を筆頭に、SNSを活用して影響力を発揮する仏教指導者は多い。隔世の感があるが、満足するには早い。

 「仏教×IT」は、冒頭に書いた雑談レベルでも多くの可能性を秘めているが、お坊さんは基本的にITの素人であるし、暇でもない。私自身、親しいお坊さんをユーチューバーとしてプロデュースしようと考えたこともあるが、絵コンテを描いたりする余裕なくいまにいたっている。やはり、専門家とのコラボレーションなくして、ひとつひとつの可能性は実現できない。

 そんななかでいただいたこの連載である。「仏教×IT」が注目を浴び、参入のハードルが下がり、現代日本の宗教文化がどんどんエモくなることを願って、拙稿を綴っていきたい。

池口 龍法氏
池口 龍法氏

【著者】池口 龍法
1980年兵庫県生まれ。兵庫教区伊丹組西明寺に生まれ育ち、京都大学、同大学院ではインドおよびチベットの仏教学を研究。大学院中退後、2005年4月より知恩院に奉職し、現在は編集主幹をつとめる。2009年8月に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させて代表に就任し、フリーマガジンの発行など仏教と出合う縁の創出に取り組む(~2015年3月)。2014年6月より京都教区大宮組龍岸寺住職。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)、寄稿には京都新聞への連載(全50回)、キリスト新聞への連載(2017年7月~)など。
■龍岸寺ホームページ http://ryuganji.jp
■Twitter https://twitter.com/senrenja
《池口 龍法》

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