老舗旅館「龍名館」がタブレットで変革 | RBB TODAY

老舗旅館「龍名館」がタブレットで変革

ビジネス 経営

株式会社龍名館広報部の山口沙織さん。「ホテル龍名館東京」は、スモールラグジュアリーホテルとして、これまでにミシュランガイドに5年連続(2012~2016年)で掲載されている
  • 株式会社龍名館広報部の山口沙織さん。「ホテル龍名館東京」は、スモールラグジュアリーホテルとして、これまでにミシュランガイドに5年連続(2012~2016年)で掲載されている
  • 客室管理に特化したアプリを導入したことで、各部屋の清掃状況がiPadをタップするだけで随時把握できるように。一元管理できるので、フロントと清掃員の業務効率化と伝達ミスの軽減につながる
  • 新しく導入したタブレットの画面。全客室の在室の有無や清掃状況が色分けされ分かりやすく表示。フロントにくる宿泊当日の変更もタイムラグ無しに清掃員が把握できる
  • ある客室の情報を表示したタブレットの画面。「バスタオル追加で2枚」などの細かい顧客の要望も、清掃員が効率的に把握可能
【記事のポイント】
▼清掃員向け専用アプリを導入することで、指示や備品チェック、顧客要望をデジタルで一元管理
▼IT部門がなくてもチームを構成することでIT化に対応する
▼コスト削減や人手不足対応だけでなく、将来へのIT化への第一歩とするという意識をもつ

 インバウンド需要の拡大、そして2020年の東京オリンピック・パラリンピックといった要因から、「おもてなし」がキーワードとして注目されている。ITやIoTを活用した「おもてなし2.0」とでもいうべきサービスや製品が、飲食業・旅行業・物販業の領域で、多数登場しつつある。

 ITやIoTを活用した店舗における接客向上では、RFIDタグやビーコンなどのIoTデバイス導入をはじめ、接客のためのアプリ&タブレット活用、スマートペイメントやスマートポイントサービス、AIによる接客や顧客対応、SNSやLINEなどの活用による来店フォローアップなどが積極化している。連載「サービス業のIT利用最前線!」は業務を活性化させる最新事例を紹介することで、同業他社だけでなく他ジャンルも含めて、IT導入に目を向けてもらうためのヒントとなることを想定している。

■伝統ある旅館「龍名館」が取り組む、先進のデジタル化

 第1回は、株式会社龍名館・広報部の山口沙織さんに話を伺った。「龍名館」(りゅうめいかん)は、1899年創業の老舗旅館を前身とし、「ホテル龍名館お茶の水本店(旧:旅館龍名館本店)」の他、分店として「ホテル龍名館東京(旧:旅館呉服橋龍名館)」を都内で営業している。源流である「旅館龍名館本店」は、幸田文や伊東深水など、画家・作家・芸術家など文化人が愛用したことで名を知られている。

 そんな伝統ある同館だが、近年はIT/IoT活用に注力。他のホテル・旅館に先駆け2013年に、宿泊者向けiOSアプリ「Ryumeikan」の無料提供を開始。ホテル龍名館東京の直通電話機能や予約機能の他、周辺案内、クーポン、東京の当日の天気予報表示、同社の公式TwitterやFacebookの紹介などに対応した。自社の内部システムについては、2015年9月から宿泊台帳をデジタル化。チェックイン時の宿泊台帳の入力にタブレットを導入し、宿泊客の登録内容の一部が自動的にシステムに反映されるようにした。

 さらに2016年9月からは、清掃員向けiPadおよび専用アプリを導入。従来は紙ベースでやりとりしていた清掃指示や備品チェック、顧客要望をデジタルで一元管理できるようにした。今回のインタビューは、このシステムを中心に、同社のIT/IoTに対する取り組みを広く伺った。

■現場スタッフでチームを構成、自分たちの使いやすさを突き詰める

ーー清掃員向け専用アプリについて、概要を教えてください。

山口 客室管理に特化したアプリとして、昨年9月より導入し、ほぼ半年となります。階を横断した各部屋の清掃状況(完了しているか否か)が手元の端末で随時把握できるほか、各部屋のテレビシステムを使って報告していた清掃状況を、iPadをタップするだけで、すぐに把握できるようになりました。一部のスタッフ達からは新しい運用に関して抵抗感もあったと思います。ただし導入によって生産性が下がっては意味がありません。

 導入を決めた当初は本計画の目的やシステムの機能性について十分に説明することを心がけました。現在は、「やはり便利」「手放せない」という声をもらえるところまで来ました。

ーー現場は反対だった、ということは、導入は会社主導だったのですね。導入は、経営層からの指示だったのでしょうか? それともIT部門の提案だったのでしょうか?

山口 日頃から業務に関わっている宿泊部門主導ですが、やはり新しいものを導入する変化に抵抗を感じるスタッフも一部おりました。当ホテルでは、開業から7年間、紙を使って清掃作業を行ってきましたので、新しい仕組みを入れることに対する不安感があったようです。

ーー社内で導入を推進する部署は、大変だったかと思います。これは客室担当の部門ですか? IT担当の部門ですか?

山口 当社には、IT担当の部署が存在しません。私は現在は広報担当ですが、昨年まではフロント勤務でした。そのときに、フロントのスタッフ内で、タブレット導入チームを編成しました。。チームは計6名で、フロントスタッフが3名、オブザーバーとして支配人など事業責任者クラスのものが3名という構成です。このチームで、専用アプリに必要な機能などの検討を行いました。


ーーリリースによると、新システムの総開発費が約1500万円。「ホテル龍名館お茶の水本店」「ホテル龍名館東京」あわせて、清掃現場に16台、フロントに7台のiPadを配備したとのことですが、金額の内訳を教えてください。

山口 このシステムは、前年に導入した宿泊台帳システムとも連携しておりますが、その組み込み、端末費用、開発費など、すべてあわせて約1500万円となっています。アプリ自体はそれぞれ別になっていますが、基本的には基幹システムから、宿泊台帳・清掃作業それぞれの情報を参照管理するシステムになっています。

ーーこのシステムの導入は、コスト削減が狙いでしょうか?

山口 コスト削減もありますが、今後IT化が進んでいくにあたって、あらゆる情報が宿泊の基幹システムと連動していく流れがあるかと思います。バスルームや客室家具まで、すべてが基幹システムと連動していくことを見据えた、大きなもくろみの第一歩として、まず客室管理に特化した清掃員専用アプリを導入しました。非常に壮大な計画だと思います。コスト削減という観点だけだと、正直現時点では、まだまだ難しい面もあります。従来が紙ベースということで、それほど経費はかかっていませんでしたし、時間短縮についても、本店・東京店あわせて1日1時間ほどの短縮で、それほど大きな数字は出ていません。

ーー現状に問題があったから改善のために導入した、ということでなく、2020年の将来を見据えた経営判断ということですね。

■ITに抵抗感のある世代にいかに受け入れてもらうかが肝心

ーー導入にあたってのビジョンなどは、どういったものだったのでしょうか?

山口 ITの世界は日進月歩です。競合はグローバルチェーンを中心に多くの投資をかけてきており、お客様の利便性を考えると当ホテルも継続的に投資をしていくことが必要と判断しました。ホテル・旅館は小規模な施設も多いため、リリースを発表したときに、他ホテルさんから問い合わせなどを多数いただきました。

ーー清掃員向け専用アプリについて、具体的な開発は、どのように行いましたか?

山口 宿泊の基幹システムを作っているパートナー企業に、アプリ開発も依頼しました。宿泊基幹システムとの連動は必須で、スタッフからの多かった要望を取り入れ、「紙の機能性をそのままに、同じような操作・手順で移行する」ということを要件としました。年配のスタッフ、さらには初めてタブレットを使うというスタッフも多くいたので、「誰にでも簡単に使えて、かつ紙より便利になること」がテーマでした。

ーーそうした現場の抵抗感を緩和するのに、どういう対応をされましたか?

山口 こちらも勉強し直しました。、清掃スタッフたちの行動を分解して理解し、きちんと組み立て直す作業を行いました。「この作業があるから、この○○を紙に書いていた」といった工程を、ひとつひとつ落とし込んでいって、その都度意見を伺いながらすり合わせを重ねました。

ーーどれくらいの時間がかかったのでしょう?

山口 本来、清掃員向け専用アプリも、宿泊台帳システムと同時期に導入し2015年にリリースする計画だったのですが、ていねいにすり合わせを行ったことで時間がかかり、1年遅れてのリリースになりました。機能ボリュームも倍ぐらいになりましたが、その代わり、納得できるものができたと思います。「作ってみたけど使ってもらえなかった」という状態だけはどうしても避けたかったので、2年弱かかりました。おかげさまで、細かい機器トラブルはありましたが、大きな問題もなく、スムーズに導入・運用できています。個人情報の管理などにも気を遣っています。

ーー投資に見合った効果、という点ではどうでしょうか?

山口 まだ明確なコスト削減や勤務時間短縮までには至っておらず、実感しにくい部分ですが、“移動”が必要だったステップが減りました。いままでは、1か所にしかない情報を見るために、スタッフが館内を往復移動する必要がありましたが、それがなくなり、作業時間が短縮されました。


■お客様目線でITを考えてみる

ーー今後、IT/IoTに関する専門部署を立ち上げる予定などはありますか?

山口 まさにいま課題として考えているところです。弊社は人員が少なく、ホテル龍名館東京の場合、フロントの社員は支配人を含めて約25名。1日あたりの出勤社員数は、7~10名くらいとなります。そのなかでIT業務などは、フロントスタッフが兼任で行うケースが多いので、それがスタッフへの負荷となっています。

ーー将来的に、お客さま向けアプリと宿泊基幹システムの連動などもありえますよね。

山口 そうですね。他ホテルではアプリをルームキーとして使用できるホテルも出てきています。今後はこうしたサービスも行っていけたらと思っています。

ーー5期連続で過去最高益の更新、客室の平均単価も5期連続ならびに前年同月比57か月連続で過去最高(2016年4月末時点)となった理由をどう分析されていますか?

山口 「ホテル龍名館東京」は2009年開業で、開業以来7期連続で売上の記録更新させていただきました。稼働率は横ばいですが、客室平均単価が上がり続けているという現状です。国内国外のお客さまの利用について、「ホテル龍名館東京」では国外のお客さまが5割を超えました。これは当社に限らず、ホテル業界全体だと思いますが、訪日外国人のお客さまが増えたことが、確実に業績に寄与していると思います。

ーー他のサービスについてもお聞きします。オリンピックにあわせて禁煙の議論が盛んになっているなか、龍名館は全室禁煙です。ビジネスとしての効果はありますか?

山口 全面禁煙化は2016年6月より導入しました。2015年の喫煙ルームの稼働率は約74%で、禁煙ルームの91%を大きく下回っていました。一方で、欧米を中心とした外国人客らの「禁煙ルーム」のニーズが増加していまして、全室禁煙化で、稼働率約3%アップを計画していました。すぐには効果は出ませんでしたが、じわじわと前年より稼働率がアップしました。だいたい全面禁煙化の4か月後から、前年稼働を5%弱上回るなど、予想を上回る数字が表れました。喫煙されるリピーターのお客さまについても、全面禁煙化を怒る方とかはいなくて、受け入れていただけました。

ーー最後に、「おもてなし」を具体化するにあたっては、どのようなことを意識していますか

山口 定義づけが難しいところではあるのですが、当社はもともと、旅館を前身として創業しています。なにかしら新しいものを始めるときでも、そうした“和のおもてなし”を意識しています。言葉にしにくいのですが、お茶の出し方、タイミング、四季折々のディスプレイといったささやかな部分でも、“距離感”や“季節感”を大切にし、ホテルであっても旅館としての「おもてなし」を出来ればと考えています。

サービス業のIT利用最前線!1  老舗旅館がタブレットで変革

《冨岡晶/HANJO HANJO編集部》

関連ニュース

特集

page top