養殖業者の女社長が考えたビジネス戦略とは? | RBB TODAY

養殖業者の女社長が考えたビジネス戦略とは?

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チョウザメの淡泊な身は、タイの旨味とフグに似た食感を兼ね備えているという
  • チョウザメの淡泊な身は、タイの旨味とフグに似た食感を兼ね備えているという
  • かつて産卵後のメスの魚肉は捨てられていたが、そこに築地氏はアスリート・フードとしての需要を見出した
  • 株式会社宮崎活魚センター代表取締役の築地加代子氏
【記事のポイント】
▼廃棄される部位を食材や特産品として売り出すことで、ロスを防ぐとともに話題性を獲得できる
▼初期段階では消費者のジャンルをしぼり、そこでの評価を得る
▼産学連携でアカデミックのお墨付きを得ることで説得力をプラスする


■料理長にメニューを考案してもらい、試食会を開催

 キャビアの生産量で日本一を誇るのが、2004年にシロチョウザメの人工種苗生産に成功した宮崎県だ。2013年にはキャビアの販売を開始。輸入のキャビアにはない旨味があることから、生産量も順調に伸びている。

 シロチョウザメを養殖して、キャビアの材料となる卵を取り出すには約10年かかる。また、シロチョウザメの飼育には独自に餌を配合しており、その餌代を含む養殖施設の維持費や税金などのコストが、キャビア生産における大きな負担となっていた。これを軽減するために、卵を採取した後のシロチョウザメの肉を、食肉として販売しようという動きが起きている。

 従来はキャビアの養殖において卵を採取すると、シロチョウザメの肉は廃棄されていた。その食肉としての味と、美容に良いといわれる成分の多さに注目したのが活魚卸売専門店の株式会社宮崎活魚センターだ。日本各地のレストランに、シロチョウザメを積極的に売り込んでいる。とはいえ、チョウザメという名前はサメを連想させるため、サメの肉は臭いという偏見に囚われがちだろう。だが、代表取締役の築地加代子氏によると、実はチョウザメはサメではないという。

「パッと見はグロテスクですが、元々はイギリスでは王室の許可なしには獲れない魚で、ロイヤルフィッシュと呼ばれ珍重されてきました。中国でも不老長寿の魚として皇帝に献上したことから、エンペラーフィッシュと呼ばれる高級魚なのです」

 生食や揚げ物、焼き物、濃厚な出汁が取れるのでスープなど、どんな料理にも合う理想的な食材だが、注目なのはその栄養価の高さ。コラーゲンが約60%と豊富で、DHAやEPA、タウリンも多く含まれている。カルノシンも含むことから、認知症予防や不眠症改善、疼痛緩和などの効果も期待できるようだ。

 このような特性を持つシロチョウザメを売り込むにはどうすればいいか? 考えた末に築地氏が行ったのは、宮崎市にあるシェラトン・グランデ・オーシャンリゾートを訪問することだった。

「『宮崎県のキャビア産業にぜひご協力を』と呼びかけ、料理長の方々にメニューを考えていただきました。その後に、経営者や医師、養殖業者、報道関係者など約30名を招待し、試食会を開催したんです」

 その後の地道な売り込みもあって、シロチョウザメの肉は現在、東京ベイ舞浜ホテル、芦屋のフレンチ・レストラン「コシモ・プリュス」などで提供されるようになった。宮崎県はスポーツ振興事業に力を入れており、Jリーグの春季キャンプ地としても人気だが、ここにもシロチョウザメが納品されている。

■専業主婦から転身し、祖父の代からの事業を継ぐ

 精力的にシロチョウザメの営業を展開する築地氏だが、実は祖父の代に築いた宮崎活魚センターを引き継いだのは7年前のこと。それまでは専業主婦だった。そのため、会社を引き継いだ時は、水産卸売業のことなど何も分からなかったという。そこで役に立ったのが、子供の頃から祖父母の仕事を見ていた経験だった。

「両親も仕事への思いを話してくれましたし、祖父が若い時から付けていた日記を読むことも、精神的な支えとなりました」

 とはいえ、女性社長として水産卸売業に関わるのには苦労もあった。水産業界は男社会のため、市場に行くと白い目で見られたりもしたという。時には従業員から嫌がらせをされたこともあったが、「私がまだヒヨコだったからだと思います。でも、逆風には強いですから」と築地氏は笑う。


 状況が徐々に変化してきたのは、自ら現場に出向いて、漁業・養殖業に携わる人々と触れ合った頃から。好奇心からあれこれ質問すると、親切に教えてもらうことができたという。それと同時に、現場の人々の疲労感・閉塞感を肌で感じることもできた。養殖業が衰退し、高齢化している状況を知り、「何とか地域全体で豊かになる方法はないものか」と考えるようになった。そこで目を付けたのが、宮崎県で養殖が行われているシロチョウザメの肉だったという。

■宮崎大学と連携してチョウザメ肉の研究を進める

 シロチョウザメのオスの魚肉は1キロが約2000円する高級魚だが、その認知度を高めていくのも築地さんが考える戦略の一つだ。今後は、都市部の富裕層にその魅力をアピールしていく。

 対するメスの肉は半値だが、「味自体は変わりません。むしろ、メスの方に脂がのっているとも言えます」とのこと。このメスの肉を使った加工品の開発については、現在、宮崎大学と連携して研究中だ。同大学ではアスリート・フードの研究を行っており、相手からコンタクトを取ってきたという。今後はユーザーに対する説得力が増すためにも、科学的な裏付けを進めていきたいと考えているようだ。

「いろいろな人の意見や知恵を聞くことで、思いがけない新しいものが生まれることもあります。自社だけの利益を追求するのではなく、皆で手を携えて地域を盛り立てていきたいですね」

 宮崎活魚センターではシロチョウザメ以外にも、さまざまな魚が持つ栄養価に注目している。今、力を入れているのが、五ヶ瀬ワイナリーのブドウの搾りカスを餌に混ぜて北浦の養殖業者が育てたという「五ヶ瀬ぶどうカンパチ~桜舞aube~」。ポリフェノールが持つ抗酸化作用によって、魚の身が変色しにくい特徴がある。これを、昨年12月に取り扱いをはじめた「平兵衛酢ブリ」とともに、売りだしていく計画だ。

 また、2月2日には、築地氏が登壇するイベント、「DBIC×LOCALコミュニティからのイノベーション創出~宮崎~」が、東京・虎ノ門のDBIC(デジタルビジネス・イノベーションセンター)において開催。宮崎活魚センターを含む宮崎の“食”への取り組みが紹介された。

 かつては捨てられていたシロチョウザメ、さらには魚の持つ栄養価に注目し、その営業活動によって成果を上げている宮崎活魚センター。同社の手法には養殖業の新たなビジネスの可能性が感じられる。

魚肉も美味!キャビアだけじゃない、チョウザメの新ビジネス

《斉藤裕子/HANJO HANJO編集部》

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