小売業界はIoTをどう使うべきか? IoTで顧客を呼び戻すには | RBB TODAY
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小売業界はIoTをどう使うべきか? IoTで顧客を呼び戻すには

IT・デジタル その他
小売業界はIoTをどう使うべきか? IoTで顧客を呼び戻すには
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  • マーク・アインシュタイン (C) フロスト&サリバン
◆最もIoTを必要とする小売業

 小売業界はIoT(Internet of Things)による最も大きなビジネスの変革が起こる産業である。近い将来、小売業界のビジネスモデルは実在の店舗からeコマース、mコマース(モバイル端末を使った商取引)へと進化し、小売店舗は流通センターとなり、レジでの決済からモバイル決済への移行がさらに進んでいくだろう。

 小売業にIoTを用いる上で最も重要な側面は、顧客の購買パターンや行動パターンなど様々なデータの収集・分析を行えるようになり、結果として売上の増加やコスト削減、顧客の拡大につなげることが可能になる点である。くわえて、デジタルテクノロジーを活用した全く新しい付加価値を持った「ショッピング体験」を提供できるようになり、相次ぐ閉店や経営不振に悩むスーパーや百貨店のビジネスを革新する重要な要素となる。

◆IoTが変革するショッピング体験

 今日のショッピングは、もはや単なる買い物に留まらず、顧客はより優れた「体験」を求めるようになっている。結果として、成功を収めている小売業者は、商品の販売や宣伝を、従来の4P(製品、価格、流通、プロモーション)型のアプローチから、デジタル上のチャンネルやテクノロジーを活用した体験型のアプローチへと移行している。消費者の多感覚に訴えるこの様な販売活動は、単に商品や価格を提示するだけではなく、消費者が求める情報や、店舗での新たなショッピング体験を通じて、顧客により価値のある体験を提供し、店舗に顧客をひきつけることができるのである。

◆「スマートミラー」が生み出す革新的なショッピング体験

 米国のアパレルショップは、試着に「スマートミラー」を用いた全く新しいショッピング体験の提供を開始している。AR(拡張現実)を利用したこのスマートミラーは、例えば複数のカラーバリエーションのあるドレスを試着する際に、買い物客がこのミラーに向けて手を振る動作を行うことで、好みの色を選択し、着替えることなくミラー上で別のカラーを試着することが出来るのである。くわえて、このミラー上でドレスに似合うアイテムのコーディネートも提示するといったパーソナルアシスタント機能も兼ね備えている。この様な技術は、顧客に対して全く新しいショッピング体験を提供するだけでなく、試着の手間や時間を省略するほか、店舗側にとっても商品の在庫数やショップ店員の数を減らすといった効率化が可能になるのである。

 また、RFIDを用いて商品の在庫数をトラッキングすることで、どのカラーが最も試着回数が多いか、どの商品が一番人気なのかといった顧客の好みや行動パターンなどのデータの収集及びアナリティクスを行うことが出来るようになる。結果として、より優れたサービスや商品を提供できるだけでなく、顧客の好みや行動パターンについて、より深い洞察を得る事が出来る。

◆食料品の買い物の概念を覆した「バーチャルストア」

 IoTを用いた革新的なショッピング体験については、英スーパーのTescoが韓国で地下鉄の構内に食料品のバーチャルストアを展開した例が挙げられる。同社は、韓国での顧客ターゲットを従来とは異なる若い社会人男性に定め、地下鉄の構内で電車を待っている間に、バーチャルストア上で商品のQRコードをスマートフォンで読み取り、モバイル決済を行って商品を自宅に発送できるサービスを展開したのである。

 この戦略が成功を収めたのは、韓国の地下鉄では3G・4Gネットワークが提供されていることと、スマートフォンの高い普及率が背景にある。ここでも重要なのは、IoTを活用することでデータの収集やアナリティクスが可能となり、人気が高い商品ブランド、消費者が商品を購入する時間帯や好ましい配達の時間帯などを把握できる点である。結果として、「食料品の買い物」において全く新しい体験の提供に成功したのである。

◆IoTが収益の増加につながる仕組みとは?

 IoTは顧客体験の革新だけでなく、効率化を通じて売上増加につなげることも可能にする。無線デジタル信号を通じて商品の価格をデジタルで表示する電子棚札システム(ESL:Electronic Shelf Label)は、商品価格の変更にかかる手間を削減するだけでなく、価格の変更が自動で即座に実行出来るため、天候や曜日、時間帯に応じて最適な価格設定を行うことが可能となる。例えば、雨が降り始めたら傘の値段を上げ、晴れの日には下げるといった需要に応じた価格設定や、祝日で多くの人手が予想される場合に、商品を一時的に値上げするといった価格設定が即座に実行可能となるのである。この様な技術を用いることで、商品価格の最適化を通じた収益の向上が可能になる。

 IoTを用いた売上拡大に向けた取り組みは、米国で実際に行われている。米NFLボストンのチーム「ニューイングランド・ペイトリオッツ」では、試合が行われるスタジアム内の観客の移動をBluetoothを用いてモニタリングし、場内の広告スペースを閲覧する人数を測定し、スペースごとの広告の価値を数値化して提示することで、結果として場内の広告スペースの売り上げの増加に成功している。

◆IoTは日本の百貨店を救う手立てとなるのか?

 Eコマースの拡大に伴い、百貨店の顧客離れが進み、昨今では日本の百貨店の閉店が相次いでいる。では、IoTを活用することで、百貨店はビジネスを立て直すことができるのか?その答えは、イエスであり、ノーである。アマゾンや楽天などのeコマースの普及に伴い、実在の店舗に足を運ぶ客離れが進みつつあり、このトレンドはもはや止めることは出来ない。

 しかし、この様な流れが加速しつつある一方で、顧客はより優れた商品や、より満足度の高い「体験」を求めて、今後も店舗に足を運び続けるだろう。実際に、米アマゾンやオンラインジュエリー販売の米Blue Nile、メガネ通販の米Warby Parkerといった企業が、優れた顧客体験を提供するために、実在の店舗を設置するという動きもある。これらの事業者が開設した店舗は、商品の返品や試着、修理などのサービスを通じて、より価値の高い顧客との接点を提供している。この様な例は、実在の店舗はより優れた顧客体験を提供する上で必須であり、顧客が店舗へ足を運び続ける理由となることを示している。

 顧客離れに悩む百貨店などは、IoTを活用し、顧客のニーズや好みに個別に対応すると同時に、店舗での優れたショッピング体験を提供することで、再び店舗に顧客を戻すことができるだろう。実際に、安定した収益の増加に成功している小売業者は、より優れた顧客体験の提供に注力している。しかし、顧客のニーズや好みに合わせたサービスを提供する努力がなされなければ、顧客離れに足止めをかけることはできないだろう。

◆IoT導入で最も成長する分野はどこか?

 小売業の中でもIoTの活用や導入が最も進むのは、ショッピングモールや空港、ドラッグストアやレストランなどが最も大きな成長を見せるだろう。一方で、中小規模の事業者での導入は低い程度に留まることが予測される。IoT導入においては、価格が最も大きな障害となるほか、消費者にこれらの端末を使うように働きかける必要があるという側面もある。くわえて、顧客データに関するセキュリティは、最も大きな課題となるだろう。特に日本では個人情報に関する厳格な規定が存在するため、米国や欧州と比べると小売業でのIoT導入のスピードは遅いと言える。しかし、ひとたび消費者の個人情報に関する規定が改定されれば、IoTの導入は拡大していくだろう。

 小売業をはじめ、今後あらゆる産業のビジネスモデルは、テクノロジーを活用したデータ主導型の意志決定システムへと移行していく。この様なビジネスモデルの進化に伴い、テクノロジーを活用したビジネスモデルが今後成功を収めるだろう。

●プロフィール●
マーク・アインシュタイン
フロスト&サリバン ジャパンICTリサーチ部門ディレクター
通信・デジタルメディア業界において10年以上の経験を有し、マーケットや経営コンサルティング、経営分析における専門知識を持つ。主な専門領域は、スマートフォンおよびタブレット端末の市場動向、モバイルコンテンツ分析などが含まれる。
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