「デジタル教科書」導入に向けて本格検討…DiTTシンポジウム | RBB TODAY
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「デジタル教科書」導入に向けて本格検討…DiTTシンポジウム

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教育関係者らが多く詰めかけたDiTTのシンポジウム
  • 教育関係者らが多く詰めかけたDiTTのシンポジウム
  • 「『デジタル教科書』の位置づけに関する検討会議」の座長を務める東北大学大学院情報科学研究科教授の堀田龍也氏
  • ベネッセ教育総合研究所理事長、検討会議委員の新井健一氏
  • 左から、DiTT理事でNPO法人CANVAS理事長の石戸奈々子氏、DiTT参与で一般社団法人日本教育情報化振興会のDiTT参与の片岡靖氏、DiTT事務局長で慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏
  • 「デジタル教科書」に関する検討の視点
  • 「デジタル版教科書」の構成図
  • デジタル教科書の制度化に係る主な方針・提言
  • デジタル教科書の制度化に係る主な方針・提言
 11月9日、デジタル教科書教材協議会(以下、DiTT)シンポジウム「スマート教育の実現に向けて~DiTTビジョン発表~」が、紀尾井フォーラムで開催された。DiTTは「すべての小中学生がデジタル教科書を持つ環境の実現」に向けて2010年に発足された協議会で、文部科学省や総務省とも連携し、政策提言や実証実験、普及啓発などを行っている。

 今回は、4月に文部科学省の「『デジタル教科書』の位置づけに関する検討会議」が設置されたことを受け、導入に向けての議論で検討される「デジタル教科書」の位置づけや検討の視点について、パネルディスカッションが行われた。

 登壇者には、検討会議の座長を務める東北大学大学院情報科学研究科教授の堀田龍也氏や、ベネッセ教育総合研究所理事長の新井健一氏らが参加した。

◆教科書のデジタル化にまつわる問題点

 まず、堀田氏が「『デジタル教科書』の位置づけに関する検討会議」の概要を説明。「検討会議自体は始まったばかりで、まだ何かが決まったというところまでは到達していない」とし、「文部科学省において『デジタル教科書』の定義はあるものの、教科書制度を十分に意識して定義したわけではない可能性があり、導入にあたっての『デジタル教科書』の認識についてまず議論している」と語った。

 次に、佐賀県武雄市で導入されている小学校の反転授業を例に、その効果とともに、教師が自分たちで教材をデジタル化する必要があったことをあげ、教科書をデジタル化する際の著作権問題など、ハードルとなる問題点を指摘した。

 あわせて、「検討会議は、あくまで課題の検討を行う場であり、この会議でデジタル教科書導入についての結論が出せるわけではない」とした。

 政府の準備としては、平成27年改定「日本再興計画」のプランにおいても、「デジタル教科書」の位置づけと教科書制度の在り方について28年度中に結論を出すと明言しており、「あらゆる面から導入の条件は整っている。今後は色々な方の意見を聞いて検討材料にしていきたい」と語った。検討会議ではさまざまな学校や有識者にヒアリングを行っており、現在は7件が終わり、11月には新たに2件へのヒアリングを予定している。

◆教科書改訂には多くの法律を一斉に変えなければいけない

 ついで挙がったのが、教科書改訂に伴う法律や制度の一例だ。学校教育法に始まり、義務教育の間は教科書を無料で配布する無償措置、教科書の発行に関する臨時措置法など、デジタル教科書導入にあたっては、多数の法律の改定がなされなければいけない。「すぐにデジタル化することは難しいが、手を打てるところからやっていかなければいけない」と堀田氏は語った。

 デジタル化するにあたって大きなハードルとなるのが、教科書に掲載されている作品や内容の著作権の問題だ。教科書については、「学校教育の目的上必要と認められる限度で、公表された著作物を例外的に無許諾で利用できる。ただし、無許諾での掲載にあたり、著作者への通知と補償金の支払いを行わなければならない」という、補償金制度が定められている。デジタル化にあたっての適応は、個々の作品によって異なってくる。これらの許諾を各教科書会社が調整するには多大な労力が必要であり、ひいては教科書の質の担保にも関わる問題となってくる。

 また、現在の日本における教科書制度は、教科書発行者が用意した中から、各自治体が選ぶという、「民と官」「国と地方」のバランスに成り立つ優れた仕組みで、世界的にも高い評価を受けている。このシステムを崩す必要があるのか、今の枠組みからどうデジタル化していくかという点も検討の対象となる。また、教科書には使用義務が設けられており、デジタル教科書になった際、すべての生徒がデジタル教科書を使える環境が必要になる。導入にあたっては、端末などの環境整備も大きな課題だ。


◆教科書は紙でなくてもよい

 パネルディスカッションでは、DiTT理事であるNPO法人CANVAS理事長の石戸奈々子氏が司会を務め、文部科学省が提出している「『デジタル教科書』に関する検討の視点」をもとに意見が交わされた。

 まず「デジタル教科書導入による効果や影響」について、新井氏は「日本の教育における教科書の役割は大きい」としながらも「紙であることの必要性はないというところから始めなければいけない」と語った。「媒体は紙に限らなくてもよい。たとえばデジタルならば紙よりも拡張性がある」とデジタルの優位性を語った。さらに、DiTT参与で一般社団法人日本教育情報化振興会の片岡靖氏は、「ナショナルスタンダードを普及させていく方法として非常に優れている今の教科書制度を、次の世代にいかに活用していくかを検討していくべき」と話した。

 石戸氏は次に、「教科書の質の担保」をもっとも重要な課題として挙げ、その要素のひとつとして「検定の範囲をどこにするか」という質問を投げかけた。

 これを受けて、堀田氏は「教科書の検定とは、学習指導要領に入っている要素がきちんと入っているかを確認すること」と説明。検定できる現実的な分量、時間、コストなどを考慮し、「検定はノウハウのある紙で行い、検定をクリアされた分については広くデジタルでも使用できるようにするのが突破口かもしれない」と、「デジタル版教科書」の可能性を示唆した。しかし、これはあくまで「デジタル版の教科書」であり、現在広く流通している「デジタル教科書」とは異なるとしている。

◆「デジタル版教科書」と「デジタル教科書」の違い

 DiTT事務局長である、慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏は、「DiTTが設立して、やっとここまで来た。教育のシステムがデジタルにガラッと変わることは非常にハードルが高い。しかし、もう意義や位置づけを議論している場面ではない。次にどう進めるかが大切。教科書の意義や役割に関する議論はこれまでも交わされており、媒体がデジタルになっても変わらない。問題は導入するか、しないかというところに来ている」と語った。

 続けて、片岡氏も「紙の教科書はすばらしい。紙の編集技術や表現はそのまま使用し、検定を受けた教科書をもとに、まったく同じ形で『デジタル版教科書』を作っていく。コストを抑えながらまずは『デジタル版』を作る流れが必要なのでは」と、「デジタル教科書」の導入としての「デジタル版教科書」を提言した。

 さらに、中村氏は「デジタル屋としては、音声や動画など、デジタルならではメリットが使え、子どもたちがコミュニケーションや想像力を伸ばしていける教科書が望ましい。」とデジタル教科書への期待を語り、「できれば無償配布の対象にしたいが、コストや時間など現実的な面を考慮し、まずは導入することがもっとも大切だ」とした。

 教科書としてデジタルで検定するとすれば、格段に情報量が増えるぶん、動画や音声、掲載されているURLのリンク先まで検定するのかどうか。万が一、コンテンツが差し替えになった場合、動画や音声を作り直さなければならないとなると、検定もやり直すのか。現在の4年改訂を変更、あるいは検定そのものをやめることは、質の担保にも関わってくるため難しい。


◆デジタル時代の教科書の検定基準

 デジタルは紙よりも情報量が膨大なため、情報量についても検討の対象となる。外部サイトなどリンクまで検定の対象に入れるかという問題については、「これまでも過去の教科書に誘導先などが掲載されているが、検定で情報を定めてしまうと、新しい情報を入れにくくなってしまう。その意味でも、検定の対象から外すべきだ」と、堀田氏は語っている。

 そもそも「デジタル版教科書」の範囲はどこまでなのかということも、ひとつの論点として挙がっている。コンテンツだけでなくビューアやハード、周辺機器、どこまでが教科書とするのか。また、たとえば「履歴」という機能は、紙の教科書にはない。この部分は本来の教科書検定にとってはオーバースペックではないかという疑問もある。このほか、クラウドに蓄積される個人情報はどうするかなど、枚挙にいとまがない。

◆当面は紙とデジタルの併用が無難か

 今後の検討材料として「定価認可」も挙げられる。紙ではなくデジタルにどんな価格をつけていくのか。定価認可という制度も今後意味がなくなっていくかもしれない。さらに、デジタル教科書が無償措置の対象になるかどうかという問題もある。もし紙とデジタルを併用して使う場合、単純計算でコストは2倍となってしまう。

 環境の整備という面では、2020年までに生徒1人に1台推進計画が進められているなか、「都道府県によって環境が整備されているところとできてないところで、格差が大きくなっている」(中村氏)という現状がある。これに対し、堀田氏は「2015年の全国平均では、コンピュータ1台あたりの生徒数は6.4人。1人1台になるには6.4倍と、かなりの加速が必要となる。みんなで気運を高めて推進していかなければならない」と語った。

 このパネルディスカッションだけでも、かなりの問題点やこれからクリアすべき課題が挙がったが、「問題は紙かデジタルかということではない。よりよい教育環境をつくるためのものであり、日本の将来において重要」(中村氏)として、政府や民間などが一丸となってプライオリティを高めていくという話で結んだ。

 DiTTでは今後も定期的にシンポジウムを予定しており、次回は12月に開催される。テーマは今回も挙がった「著作権」。デジタル化の大きなハードルとなる著作権問題に絞ったものになる。
《相川いずみ》
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