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【浅羽としやのICT徒然】第14回 マクルーハンが50年前に気づいていたこと

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テトラッド
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●ICT技術とマクルーハン

 ICTとの関連と言う点では、パーソナルコンピュータの父と呼ばれる、ゼロックスPARC(Palo Alto Research Center)でダイナブック構想を打ち出したアラン・ケイ博士は、マクルーハンの著作を一時期読みふけっていたと言われています。実際、1977年に発表された、ダイナブック構想を解説した論文“Personal Dynamic Media”の中でマクルーハンの“Medium is the message”が引用されています。そしてケイはノートと同じくらいの大きさで、インタラクティブに操作できるコンピュータを個人のための新しいメディアと考え、ダイナブックと名付けました。彼はマクルーハンのメッセージをポジティブに捉え、ダイナブックという新しいメディアが、人類の知力を飛躍的に増強するものと位置付けていました。そして、私見ですが、このマクルーハンからケイのダイナブックに繋がった思想は、その後スティーブジョブスに受け継がれ、アップルから発売されたiPadに結実することになります。

先の“Personal Dynamic Media”の論文の中で紹介されているダイナブックのモックアップの写真はiPadにそっくりです。iPhoneやiPadのようなメディアの登場は、我々の世界の認識や関係をどのように変えてしまったのでしょうか。そしてその先にはどのような社会が待っているのでしょうか。

●メディアを読み解くツール「テトラッド」

 「McLuhan’s Wake」は、「メディア論」というよりは、マクルーハンの死後に刊行された「メディアの法則」という、息子のエリック・マクルーハンとの共著の著作の内容を中心に構成されていました。映画はエドガー・アラン・ポーの小説「メールストロムの旋渦」の主人公の水夫が、メールストロムという名の大渦巻きに兄弟とともに巻き込まれ、九死に一生を得たエピソードから始ります。つまり大渦巻きに飲み込まれようとしている水夫を、インターネットメディアに飲み込まれようとしている現代の人々に見立てたのです。そして、我々がメディアの大渦に飲み込まれないように、その動きを冷静に観察し分析するための方法として、マクルーハン親子が「メディアの法則」の中で提唱した4つの質問(テトラッド)を紹介しています。

 すなわち、新たなメディアが現れた時に、次の4つの問いを投げかけることで、そのメディアがもたらす影響を測ることができるというものです。

・強化(Enhance): それは何を強化し、何を強調するのか?
・回復(Retrieve):それはかつて廃れてしまった何を回復するのか?
・衰退(Obsolesce): それは何を廃れさせ、何に取って代わるのか?
・反転(Reverse): それは極限まで推し進められたとき、何を生み出し、
   何に転じるのか?

 これらは必ずしも順番に並べるのではなく、図のように4つの象限に図示するものです。例として「メディアの法則」に紹介されていたTVとコンピュータの分析結果も図に示しました。どちらも回復と反転のところがちょっと解りにくいですが、書籍の内容をそのまま引用しています。

 これら4つは順番に起こるということではなく、同時多発的に発生するもののようです。ただ、強化や衰退は表面的に見えやすいものであり、回復と反転は裏に隠れていて見つけるのが難しいものが多いです。従って、分析を行う際には、強化、衰退、回復、反転の順番で考えて行くのが良さそうです。

 ポイントは、回復の部分に何があるのかを見極めること。それによって、何が反転するのかの読み解きが変わってくるように思います。使いこなすのは簡単ではなさそうですが、面白いツールです。

●メディアに飲み込まれないために

 マクルーハンは、新しいメディアが登場すると、古いメディアは新しいメディアのコンテンツとなる、とも言っています。例えば、テレビが登場して、映画がテレビのコンテンツとなり、またラジオが登場して、音楽や書物がラジオのコンテンツになりました。そして、インターネットが登場すると、映画や書物はもちろんのこと、テレビもラジオもそのコンテンツとなってしまっています。

 人間は、さまざまなメディアを通じて、他者と関わり合うことではじめて社会性を獲得し、世界観を形成し、ある価値観の中で人生を過ごしているわけです。すると、人間こそが最も原始的なメディアであると捉えることもできるのではないでしょうか。映画の中でも示されていましたが、現在のインターネットを始めとする電気メディアは、まさにその根源的なメディアである人間をもコンテンツとして取り込もうとしているように思えます。マクルーハンは、そのことを今から50年も前に気づき、我々へのメッセージとメディアの渦に巻き込まれないための方法とを残してくれていました。マクルーハンの著作は非常に難しいので読むのが大変なのですが、時間をとってもう一度しっかり読んでみたいと思います。また、それぞれ切り口は違いますが、下記の書籍が解りやすくマクルーハン理論について解説していますのでご参考にして下さい。

参考書籍:
「マクルーハンの光景 メディア論がみえる」 宮澤淳一著 みすず書房
「メディアの予言者 -マクルーハン再発見」 服部桂著 廣済堂出版


●筆者プロフィール:浅羽としや/IIJで、1エンジニアとしてバックボーンNWの構築や経路制御などを担当し、CWCで、技術担当役員として広域LANサービスの企画・開発に従事。現在、ストラトスフィアで、社長としてSDNの基盤ソフトウェアのビジネスを推進中。
《浅羽としや》
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