【対談:福井晴敏×阪本順治】映画『人類資金』が投げかける、日本経済への疑問符 | RBB TODAY
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【対談:福井晴敏×阪本順治】映画『人類資金』が投げかける、日本経済への疑問符

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阪本順治監督(左)、福井晴敏氏(右)/写真:黒豆直樹
  • 阪本順治監督(左)、福井晴敏氏(右)/写真:黒豆直樹
  • 阪本順治監督/写真:黒豆直樹
  • 福井晴敏氏/写真:黒豆直樹
  • 阪本順治監督(左)、福井晴敏氏(右)/写真:黒豆直樹
  • 映画『人類資金』撮影風景 (C)2013「人類資金」制作委員会
  • 映画『人類資金』撮影風景 (C)2013「人類資金」制作委員会
  • 映画『人類資金』撮影風景 (C)2013「人類資金」制作委員会
  • 『人類資金』 (C)2013「人類資金」制作委員会
 原作者と監督というよりも、もはや「共犯者」といった感がある。作家・福井晴敏と阪本順治監督が『亡国のイージス』に続きタッグを組んだ『人類資金』で題材に選んだのは“M資金”と呼ばれる旧日本軍が隠匿した時価数十兆円とも言われる財宝の存在。サスペンスであり、壮大なエンターテイメントであると同時にこれは“アベノミクス”が流行語にまでなり、ことあるごとに「経済効果○百億円」といった言葉が叫ばれる現代社会に対する切実な問いかけ、痛烈な一撃でもある。

 本作で描かれるのは「M資金が○○に隠されていて、それを狙う幾つかの勢力があって…」という冒険ストーリーではない。M資金を使っていかにして世界の構図、経済システムをひっくり返すか? といういわば経済サスペンス。

阪本:僕自身、福井さんに「M資金を題材にした映画を作りたい」とシンプルなボールを投げたんですが、産み落とされた作品を見てびっくりして感動しました。「映画化が前提」と言ったのにニューヨークやら国連やらロシアやらアジアの某国が出てきて「まいったな、これ全部ロケに行かなきゃ」って困ったけど(苦笑)、僕自身が完成した映画を見観たくなった。自分でお願いしておいて福井さんから逆オファーを受けたような気がしたんです。

福井:お刺身を注文されたのにちらし寿司を出したような(笑)。僕自身、この機会がなければ経済に触れようと思わなかったし方法論もなかった。リーマンショックがあって、経済に興味がわいたところにこのM資金の題材をもらってこういう話になりました。

 当初、福井が作り上げた世界観とプロットは映画にして6時間分ほどの長さのものだったという。これをさらに時間20分の長さに合うプロットに組み直し、阪本監督は映画に落とし込んでいき、福井はこれを小説化していった。こうした“共同作業”と“分業”を行なう中でこの2人、互いの存在や仕事の違いをどのように捉えているのか?

阪本:ちょうど10歳違うんですけど、悔しいよね(笑)。国語力と社会に対する読解力と言うのかな…? 福井さんが書いた長いセリフを短くさせてもらうこともあるんだけど、長いままで面白いんだよ。それを切るのはどうなんだと思いつつ、削ぎ落とすことでより強くなるようにと(福井と)やりとりをさせてもらうんだけど…嫉妬しますよ(笑)。

福井:阪本さんが手を入れた脚本が上がってくると、それまで「どうかな?」と思っていた部分が「行ける」って思えるんですよ。日本映画が作り上げてきた独特のリズムというものを継承している巨匠クラスの監督は数人いるけど、ある程度の年齢になると、そういう方たちはみんな盆栽のような映画を作るようになってしまい、そうなるともう僕らの世代が見観る映画じゃないな…となってしまう。そんな中で阪本さんは、昔ながらの重厚さを持ちつつ、しっかりと社会に斬り結んでいこうとする監督。今回だって、阪本さんじゃなければこの球は投げてないなと思います。世代という点で言うなら、学生運動も経験して資本主義の在り方について考え、物を言った経験がある方。その経験がない僕と同世代の監督では受け止めきれないテーマだと思うし、その点で阪本さん自身が言いたいことも重ね合わせながら共鳴できるのではないかという期待感があった。それは間違ってなかったと思います。

 冒頭でも触れたが、この映画は単なるエンターテイメントではない。世界規模の壮大なスケールで展開しつつ、我々の生活に即したごく身近な部分での社会の在り方に対し鋭い批判を投げかけている。企画が動き出したのは数年前だが、いまこれだけ“アベノミクス”に対する世間の期待が高まる中で、映画の中とは言え、こうした世の期待と真っ向から対立する意見を繰り出すということは非常に勇気の要ることだ。

 福井は本作の執筆以降、実際に様々な場で現在の経済システムについて「5つしかないイスの周りを100人が回っているイス取りゲームのような状態で、ゲームの音楽のボリュームをさらに上げようとしている」と批判の声を上げてきた。

福井:今回、いろんな経済の本に目を通してぶち当たったのが、お金って結局、誰がその価値を保証しているのか? という根本的な問い。昔は貨幣って金との交換券でしかなかったのに、いまや地球が埋蔵する金よりもはるかに多い量の貨幣が流通していて、それを発行する国家がその価値を担保している。結局、その国が倒れたら一瞬で紙切れになるってことです。昔の社会の教科書で戦後のインフレで札束を抱えて買い物に行く人の写真が載ってたけど、そういう経験を経て人間はもっと賢くなっているから現代ではそんなことは起こらないだろうと思っていたらリーマンショックが起こった。数字ばかりが膨れ上がって「一度音楽を止めて清算しましょう」となったら誰も払えなくなったということ。僕らは非常にもろい世界に住んでいて、それでも毎年経済成長を遂げないといけないし、そうしないとシステムそのものの維持すらできない。その異常さについて、疑いなく「しょうがないよ」と受け止めることが大人なんだと慣らされているところがあるけど、おかしいことはおかしいわけです。すぐにあるわけではないけど、代替案を一つの発想の方向性として示したのがこの映画ですね。

 映画は経済のシステムに対してだけではなく、人々の内面、価値観に対しても鋭い問いかけを投げかける。
《黒豆直樹》
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