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【木暮祐一のモバイルウォッチ】第9回 AR(拡張現実)がスマホ時代のQRコードの代わりに?!

エンタープライズ モバイルBIZ
IKEAの最新カタログでは専用のARアプリを使って+αの情報を見ることができる
  • IKEAの最新カタログでは専用のARアプリを使って+αの情報を見ることができる
  • 木暮祐一氏。武蔵野学院大学准教授で携帯電話研究家/博士(工学)
  • パイオニアのサイバーナビはフロントウィンドの先に情報を浮かべる。
  • 見開きのカタログページから画像や動画が展開され、商品の具体的な活用例が表示される。
  • 昨夏、韓国Tesco Homeplusは、地下鉄駅をジャックした広告展開を行った。広告からダイレクトに商品が購入できた。
  • 講演でも使った筆者の考える妄想図だが、スマホは自分側の情報のハブになるはず
 20日にパシフィコ横浜で開催された一般社団法人ブロードバンド推進協議会による「BBAワイヤレス・ブロードバンド・フォーラム」に登壇し講演させていただいた。同フォーラムは、日本最大級のゲーム開発者カンファレンス「CEDEC2012」の併催Co-locatedイベントとして設けられたものだ

 まず筆者がスマートフォンなどのスマートデバイスが主流となる今後のコンピュータエンタテイメントの展望について通信インフラやプラットフォーム、そして機器連携や期待したい関連技術など、全般動向の概略をお話させていただいた。ご存知のとおり、今や最も身近なゲーム端末はスマートフォンとなっている。普及台数はもとより、iOSやAndroid上で動作するアプリケーション数はもはやPSPやDSシリーズの比ではなくなっている。さらに今後は、スマートデバイスと周辺機器との連携によって、スマートデバイスがデータ連携のハブとなって活用されることで、各種センサーから情報を入力させたり、ヘッドマウントディスプレイ等へ情報を出力するような使い方が身近になってくるであろうということを示した。さらにAR(Augmented Reality:拡張現実)技術の活用で、リアルとバーチャルの連動などの新たな利活用が加速していくだろうと考えている。

 登壇させて頂いたセッションでは、筆者の総論に続いて、各論として短距離高速デジタル無線伝送規格のWiGigについての紹介(株式会社日本・社会システムラボラトリー 代表取締役社長/足立吉弘氏)や、モバイルARおよびP2Pソリューション(クアルコムジャパン株式会社 渡辺潤氏・臼田昌史氏)、センサーネットワークとゲーム/eスポーツクラウド(エウレカコンピューター株式会社 犬飼博士氏/株式会社スポーツ21エンタープライズ代表取締役 三ツ谷洋子氏)、ARの基礎から活用事例まで(レイ・フロンティア代表取締役CEO&COO 田村建士氏)という構成で進行した。人々の手のひらにあるスマートデバイスを中核として、そこからどのようなエンタテイメントが拡がっていくのかを多くの方に知っていただくことができたセッションになったのではないかと思う。

 筆者自身も、スマートデバイス周辺の各種プラットフォームや関連技術など多方面に関心を持っているが、今回の各位の講演を拝聴して改めて注目したのが「AR」だ。

 ARの名を知らしめるきっかけとなったのは、2009年にPhone向けアプリで登場した「セカイカメラ」だろう。スマートフォンのカメラ機能を活用し、カメラを通して風景を覗くことで、実空間に紐付けられた付加情報(エアタグ)を共有することができるサービスだった。画期的なサービスではあったが、スマートフォンをかざしてディスプレイを見なくてはならないという手間から、あまり一般に浸透していかなかったのは残念だった。

 CEDEC2012のセッションでは、レイ・フロンティアの田村建士氏がARについて、その歴史や実現手段など基礎的なレクチャーをしてくださったが、こうした話を聞いていても、やはりスマートフォンの普及がARのブレイクに大きな役割を果たしていくことを改めて実感することができた。

 田村氏によれば、ARの歴史は古く、1965年にハーバード大学のアイヴァン・サザーランド准教授がVR(仮想現実)の研究でシースルーのヘッドマウントディスプレイを用いたことから始まったという。前回のこの連載でヘッドマウントディスプレイに関する話題を書かせていただいたが、やはりヘッドマウントディスプレイとARを組み合わせて利用するという発想は自然な流れだったのだろう。求められる情報を必要な時に空間に映し出すという視点において、ヘッドマウントディスプレイは有用なツールになっていくと考える。ヘッドマウントディスプレイ以外にも、たとえばパイオニアのカーナビゲーション「サイバーナビ」では、フロントウィンドウの前方に情報を浮かべる「ARナビゲーション」を商品化している。

 ARの応用においては、こうした現実空間に情報を投影するという「出力」的活用のほかに、現実空間から情報にアクセスする手段としてARを活用する、いわば「入力」的活用が主流になろうとしている。具体的には、観光や販促、TV・映画、ファッション、書籍、ゲーム、教育、Eコマースなどの分野において、様々な取り組みが見られる。

 たとえば、家具販売のIKEAは、カタログ冊子最新版の『2013IKEA』でARを活用している。専用アプリをスマートフォンにダウンロードし、アプリを通じてカタログ冊子の見開きメージを見ることで、そのページで紹介されている個々の商品の具体的な活用イメージをスマートフォンを通じて視聴することができる。IKEAの家具はカタログで見ているだけでも十分に楽しいのだが、さらに生活臭の漂いそうな風景の中に配置されている個々の家具をスマートフォンを通じて見ることができ、家具のイメージを一段と膨らませることができる。面白い試みだ。

 じつはこのIKEAのカタログ冊子やAppStore、Google Playのアプリダウンロードページなどには一切「AR」という用語は出てこない。カタログ冊子のアプリ説明ページを見ると、そこの説明では「IKEAカタログに収まりきれなかったアイデアをスマートフォン/タブレット端末からご覧いただけるようにしました」と記されている。ARコンテンツがリンクされているカタログページでは、ページ右端にスマートフォンの図柄と「スキャンして動画などのコンテンツにアクセスしよう!」という説明があるのみ。ARという技術を活用しながらも、難しい説明は省いて、まずはユーザーに実際に体験してもらうことを優先しているのだ。

 IKEAのカタログ冊子では、ARを使った商品説明にとどめているが、さらにEコマースに結びつけた事例も増えている。冊子にとどまらず、日常生活のあらゆる場面でダイレクトにEコマースサイトへリンクさせることが可能になる。かつてのフィーチャーフォン時代にはQRコードが大活躍したが、QRコードのような無機質なバーコードよりも、具体的な商品写真等をカメラを通して覗くことで情報にアクセスできる仕組みの方が一般のユーザーにとっても自然な使い方といえそうだ。

 昨年夏、世界でスーパーマーケットチェーンを展開するTescoは、韓国・ソウルの地下鉄駅をジャックする広告キャンペーンを展開して話題となった。地下鉄2号線の宣陵駅構内やホームにTescoの商品をずらりと並べた広告を展開、それら商品に添えられているQRコードにアクセスするとEコマースサイトに誘導され、そのまま商品を購入できるというもの。広告を活用したブランド訴求にとどまらず、現実空間とバーチャル(Eコマースサイト)をつないで、地下鉄ホームを「店舗」にしてしまったことで話題になった。このキャンペーンではQRコードが利用されていたが、スマホ主流の時代になればQRコードがARに置き換わる日も遠くはないだろう。

 こうした実生活の中で、自然な形でARを取り入れたサービスが浸透し始めていること日々実感している。しかし、これらがより日常生活に普及するためにはあと一歩のハードルがある。それは「専用アプリ」のダウンロードが必要だということ。たとえばフィーチャーフォンにはキャリア・メーカー問わずQRコードを読み取るための機能がほぼ標準で搭載されていたが、ARに関してはプラットフォームとなるソリューションが各社各様で、現状はサービスごとに専用アプリを必要とする。この「アプリのダウンロード」というワンクッションが普及の障壁にもなっている。QRコードのように、共通の汎用プラットフォームとなることで端末(あるいはOSレベル?)にプリインストールされるようになれば、ARの活用も一気に一般化していくことになるのだろうが、ここは各社のせめぎ合いの中で簡単にプラットフォームの統一化を図れるものではなさそうだ。
《RBB TODAY》
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