【テクニカルレポート】ITモダナイゼーションの現状とNRIの取り組み……野村総合研究所「技術創発」(前編) | RBB TODAY
※本サイトはアフィリエイト広告を利用しています

【テクニカルレポート】ITモダナイゼーションの現状とNRIの取り組み……野村総合研究所「技術創発」(前編)

ブロードバンド テクノロジー
図表1:ITモダナイゼーション体系図
  • 図表1:ITモダナイゼーション体系図
  • 図表2:各手法の特徴
  • 図表3:要件と対応する手法
  • 図表4:エミュレーション方式とコンバージョン方式の比較
  • 図表5:段階的アプローチの例
【要旨】

 メインフレーム上で長期間稼働しているシステムの多くは、維持管理コストの高止まり、ビジネスの変化への柔軟な対応が困難などの課題を抱えており、これらの課題を解決する手段としてのITモダナイゼーションが注目されている。ITモダナゼーションの手法として、現行資産の業務ロジックを維持したままオープン環境への移行を行うリホスト・リライト手法があるが、これらの手法は技術的にも成熟し、希望する移行先プラットフォームへの、低コスト・低リスクでの確実な移行が実現できるようになってきている。

 一般的な移行プロジェクトでは、アプリケーションの移行に焦点があたりがちであるが、基盤の考慮は非常に重要である。NRIではリホスト・リライト手法と、クラウド上のPaaS(Platform as a Service)として提供する高信頼性・高生産性仮想アプライアンス基盤とを組み合わせたソリューションを提供している。

 本稿ではITモダナイゼーションの技術的な手法や動向、移行実施における考慮点などについて説明すると共に、NRIのソリューションについても紹介する。

■1.はじめに

 企業におけるIT活用が進み、いまやほとんどの企業が情報システムを導入している。リリース後長期間にわたり維持管理されてきたシステムでは、維持管理コストの高止まり、ビジネス変化への柔軟な対応が困難、技術者の減少・高コスト化などの課題を抱えている場合が多い。特にメインフレーム上のシステムではこの状況が顕著である。このような老朽化したシステム(レガシーシステム)を、近代的なシステムに蘇らせるというアプローチをITモダナイゼーションと呼ぶ。

 野村総合研究所(NRI)では、ITモダナイゼーションソリューションを提供し、お客様のシステム課題解決のお手伝いをさせていただいている。これら、ITモダナイゼーションソリューションの1つとして、「メインフレームからNRIクラウドCOBOL PaaSへの移行」ソリューションがある。本稿ではITモダナイゼーションの技術的な手法や動向、移行実施における考慮点などについて説明すると共に、NRIのソリューションについても紹介する。

■2.ITモダナイゼーションの手法

(1)手法概要

 ITモダナイゼーションの手法は、概ね図表1のように体系化できる。主な手法としては、リファクタ、リホスト、リライト、リインタフェース、リプレース、リビルド(再構築)が挙げられる。それぞれの手法の特徴については、図表2を参照して欲しい。

 実際の移行の検討においては、これらの手法の中から、要件に合わせて最適な手法を選択していく必要がある。例えば、利用しているメインフレームの保守切れ対応や維持管理コストの削減が急務であり、できる限り現行資産を有効活用する形で早く・安くオープン化したい場合にはリホストで対応する。あるいは企業にとっての戦略的なシステム(差別化対象)であり、ビジネスの変化に対応して常に新機能を投入していく必要があるシステムであればリビルド(再構築)で対応するなどである。図表3に、想定される要件と対応する手法を示す。

(2)リホスト/リライト手法について

 近年ではリホスト/リライト技術の向上により、柔軟かつ低コスト・低リスクでレガシーシステムを新環境に移行することが可能になってきている。そのため、NRIでは、業務変更を伴わない移行であれば「リホスト/リライト(リホストを基本とし、リホストで対応できない一部言語についてはリライトで対応)」を推奨している。

 リホスト・リライト手法には、大きく分けて「エミュレーション方式(リホスト)」とコンバージョン方式(リホスト・リライト)」の2つの方式がある。エミュレーション方式は、メインフレーム機能をエミュレートする独自のミドルウェアを提供し、その上にメインフレーム上のアプリを移行する方式である。また、コンバージョン方式は、オープン環境の基盤に適合するようソースコードを変換し移行する方式である。どちらも技術的には成熟しており、NRIでもお客様の要件・要望に合わせ、適切なソリューションを提案している。

 なお、コンバージョン方式は、エミュレーション方式に比べ、要件への柔軟な対応が可能であることから、ツールによる機械変換技術の向上に伴い、広い範囲で活用が進んでいる。現行ソースコードの変更量という点では、コンバージョン方式の方が多くなるが、言語の変更を伴わないリホストでは、基本的に変換が入るのはDB/DC(※1)といった制御ロジック周りのみであり、業務ロジック部分はそのまま残されるため、保守性に大きな影響を与えることはない。両方式の比較を図表4に示す。

※1 DC(Data Communication)はホストオンラインシステムにおけるトランザクション管理関連の機能

■3.ITモダナイゼーション適用時の考慮点/アプローチ

 ここでは、ITモダナイゼーション手法を適用していく際に考慮すべき事項やアプローチ方法について説明する。

(1)段階的アプローチ

 ITモダナイゼーションは1回の移行で完了ではなく、あるべき姿(最終形)を定義し、それに向けて段階的に移行を実施していくアプローチを取ることも多い。図表5に段階的アプローチの例を示す。この例は、「リホストの実施によりメインフレームを撤廃すると共に、運用周りの見直しを実施」、「削減したコストを原資に、同じサーバ基盤上でアプリケーションの再構築を実施」という2つのステップで、維持管理コストの低減を果たすと共に、ビジネス変化に柔軟に対応するシステムを実現するイメージを示している。一度にすべての課題を解決しようとしても移行コストの増大を招くだけでなく、プロジェクト失敗のリスクが増してしまうこともあるため、状況に応じて、段階的に課題を解決していくことも視野に入れると良いだろう。

(2)複数の手法の組み合わせでの移行

 ITモダナイゼーションのプロジェクトは、1つの手法のみでシステム全体を移行するものばかりではない。特に大規模なシステムにおいては、要件に合わせ、複数の手法を組み合わせて移行する場合も多い。例えば、リビルド(再構築)とリライト/リホストとの組み合わせで移行を実施するという具合だ。

(3)標準プラットフォームの活用

 最近の動向として、標準プラットフォームやクラウドへの移行も、ITモダナイゼーションを検討する上で重要な要素となっている。

 前項にて、リビルド(再構築)とリホスト・リライトとの組み合わせでの移行について触れたが、それぞれの手法での移行先のプラットフォームを個別最適で選択した場合、その後複数のプラットフォーム上のシステムの運用が必要となり、結果として期待した維持管理コストの削減ができなかったというのは現実に起こりうる話である。オープン化さえすれば大幅な維持管理コストの削減が図れるわけではなく、基盤標準化・最適化を考慮した移行先の検討は重要である。さらに移行先としてクラウドを利用するという選択肢が出てきている。最近では、サービスとしてハードウェアや OS を提供するIaaS(Infrastructure as a Service)に加え、標準プラットフォームとしての開発・実行基盤をPaaS(Platform as a Service)として提供するベンダも増えてきている。これらのPaaSを移行先とすることで、リホスト・リライト手法の適用による移行コストの低減、移行期間の短縮に加え、維持管理コストの大幅な削減が可能な状況が整いつつある。NRIでも各種クラウドサービスを提供しており、お客様の要件に合わせた提案ができるようにしている。

※後編へ続く


■執筆者(敬称略)
水野貴之:野村総合研究所 イノベーション開発部 上級テクニカルエンジニア 情報技術本部にて、主にITモダナイゼーションやシステム開発技術関連の調査・研究、ソリューション企画・開発、実プロジェクトへの技術支援等に従事。

※本記事は野村総合研究所「技術創発」2012年6月号より転載したものである
《RBB TODAY》
【注目の記事】[PR]

関連ニュース

特集

page top