【テクニカルレポート】新興国テレビ向けAuto Clean技術……東芝レビュー | RBB TODAY
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【テクニカルレポート】新興国テレビ向けAuto Clean技術……東芝レビュー

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図1 基底パターンを用いた画像表現:画像のブロックは、単純な基底パターンの組合せで表現できます。
  • 図1 基底パターンを用いた画像表現:画像のブロックは、単純な基底パターンの組合せで表現できます。
  • 図2 Auto Clean機能搭載TVの概略構成:アナログTVの映像は低解像度のため、Auto Clean FPGAへは、パネル解像度で入力しています。
  • 図3 Auto Clean機能の効果:再構成形超解像技術を構造適応型ノイズ低減と組み合わせることで、ノイズを低減するとともに、本来の絵柄の鮮鋭度を向上させています。
■電波の弱い地域でも、残像のないきれいなアナログ放送を楽しめる

 近年、多くの新興国は経済が急成長を遂げてきており、その市場の重要性が急速に高まっています。これらの国々ではテレビ(TV)放送はアナログが主流で、電波の弱い郊外では弱電界のノイズの多い画面をがまんして見ている世帯が多数存在します。このためアナログ放送をよりノイズの少ないきれいな映像で、かつ安価なTVで視聴したいというニーズがあります。

 東芝は、このような電波の弱い地域で効果的にノイズを低減できる、構造適応型ノイズ低減技術を搭載したFPGA(Field Programmable Gate Array)(注1)を開発し、“Auto Clean”機能として、2011年秋から新興国向け液晶TVに搭載しました。

■構造適応型ノイズ低減技術

 構造適応型ノイズ低減の技術は、もともとデジタルカメラ用のランダムノイズ除去技術として、開発していました(1)。

 この技術は、画像のブロックが単純な基底パターンの組合せで表現できる性質を使用し、ノイズの影響を受けにくい基底パターンを用いて、注目画素と周辺画素との類似度を判定します(図1)。そして、類似している画素の加重平均をとることで、ノイズを低減する技術です。

 絵柄とノイズを見分け、相関の高い画素を用いて平滑化することで、本来の絵柄を保持しながら、ノイズを効果的に低減できる特長があります。また、1枚のフレームからノイズを低減するため、従来のフレーム巡回型ノイズ低減の技術に見られるような、残像を生じることもありません。

 この技術は、新興国でのアナログ放送のノイズ低減に有効なものと考えられ、新たに新興国TV向けの開発がスタートし、Auto Clean機能と名づけられました。

■Auto Clean技術のTV搭載システムの開発

 デジタルカメラ向けシステムと比べアナログ放送TV向けシステムは、次のような相違点があります(図2)。

(1)1/60秒に1枚のリアルタイム処理が必要で、実用的なコストで製品化するには、処理を大幅に軽量化しなければなりません。

(2)放送局からの距離やアンテナの状態など視聴環境により、ノイズ量が異なります。

(3)アナログ放送はSD(Standard Definition)信号です。音声を重畳している関係で、輝度信号はデジタルSD信号より解像度が低く、また色信号は輝度信号に重畳されていて、解像度(帯域)が低くなっています。

(4)液晶TV用にこの機能を追加する場合、TV用SoC(System on a Chip)と液晶パネルの間に入れることになり、処理する画素数は入力画素数に関わらず、パネル画素数になります。パネルは、フルHD(1,920×1,080画素)とWXGA(1,366×768画素)の2種類が一般的です。

 このような違いを考慮し、TV向け技術として次のようにシステムを開発しました。

(1)アナログ放送のノイズ低減に特化することで、効果を維持しながら、基底パターンの数とブロックのサイズを最適化しました。

(2)周辺ブロックとの基底パターンの類似度演算を簡略化し、効果の大きい輝度信号の比重を高くしました。

(3)パネル画素数ごとに、アップコンバートされた映像信号にも十分なノイズ低減効果となるよう、パラメータを拡張しました。

(4)ノイズ量に応じて最適な動作ができるよう、パラメータで制御可能にしました。アナログ放送のノイズ量判定機能は多くのTV用SoCに搭載されており、ノイズ量に応じて最適に制御できます。

 これらの技術開発により、十分なノイズ低減性能と商品化可能な処理量を両立できるシステムを実現しました。

■超解像技術の追加

 東芝の超解像技術は、絵柄部と平坦(たん)部を判別し、平坦部には処理を行わないという機能を持っています。しかし、ノイズが多く乗っている映像では、正確に平坦部と判定できない場合がありました。

 今回の基底パターンを使用する方法では、ノイズの影響を受けず、絵柄部と平坦部とを、より正確に見分けることができるようになります。

 Auto Clean機能には、再構成形超解像技術を構造適応型ノイズ低減と組み合わせて搭載し、ノイズを低減するとともに、鮮鋭度が向上した映像を実現しました(図3)。

■FPGAへの搭載、商品化

 Auto Clean機能はFPGAに搭載して商品化し、2011年秋からのアジア向け液晶TVのPB20及びPS20シリーズに搭載されています。

 PB20シリーズはAuto Clean機能に特化したFPGAを、PS20シリーズではAuto Clean機能のほかに、薄型TV用の追加機能も搭載したFPGAを搭載しています。

■今後の展望

 今回はFPGAを使用して製品化しましたが、比較的安価なFPGAとはいえ、新興国向けとしてはコストがアップするため、今後はTV用SoCに内臓するなどの検討が必要です。

 また、今回はアナログ放送のノイズに特化した技術を開発しましたが、急速に発展している新興国それぞれの変化に対応したニーズを着実につかんで、新たな機能を開発していきます。


●文献
(1)河田諭志 他.高画質なデジタルカメラを実現するランダムノイズ除去技術. 東芝レビュー.65,9,2010, p.32-35

●執筆者紹介
浪岡 利幸
デジタルプロダクツ&サービス社
プラットフォーム&ソリューション開発センター
プラットフォーム・ソリューション開発第一部主査

※本記事は株式会社東芝より許可を得て、同社の発行する「東芝レビュー」Vol.67 No.4(2012)収録の論文を転載したものである。
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