【インタビュー】集合知で福島第一原発事故の解決へ……インターネット総合研究所所長 藤原洋氏 | RBB TODAY

【インタビュー】集合知で福島第一原発事故の解決へ……インターネット総合研究所所長 藤原洋氏

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インターネット総合研究所 代表取締役所長 最高経営責任者の藤原洋氏
  • インターネット総合研究所 代表取締役所長 最高経営責任者の藤原洋氏
  • 実際に寄せられた案をオープンに公開している。物理学者のほか、学生も意見を寄せている。集合知の力で国家的な危機を乗り切りたいところだ
  • 藤原氏は前職で原子炉の制御棒とその位置制御装置の設計に携わり、原子力工学の知見も深い
  • 福一原発の概要。沸騰水型軽水炉を採用しており、冷却水の循環が重要になる。低格電気出力から推測すると、シェルノブイリ原発より規模が8倍ほど大きい
  • 福一原発の現状。原子炉の炉心棒が損傷している。特に2号機の坑道水表面の放射線量が高く、1000ミリシーベルト/hもあるのは深刻
  • 原子炉の構造図。マークI型とマークII型では圧力容器の形状が違う。1号機から5号機まではマークI型。マークI型は炉心棒が溶融すると底部に溜まりやすくなり、圧力容器の底が抜ける危険もある
 インターネット総合研究所は先ごろ、「福島第一原子力発電所ネット事故対策委員会」を社内に設置したと発表(http://www.iri.co.jp/)。国家安全保障の観点から、今回の原発事故の終息に向けた情報・提案をインターネットで幅広く募集し、政府関係者へ提出していく方針だ。同社代表取締役で、原子力開発にも深い知見と経験を持つ藤原洋氏に、本委員会の設立の狙いや、先の見えない原発事故への対応、および解決への打開策などについて話を聞いた。

――まず今回、本事故対策委員会を設立した背景について教えてください。

藤原氏:前職で原子力の開発業務に携わっていた経験から、原発事故対策に関わる政府高官と福島第一原発事故対策に関する意見交換を行っています。国家安全保障委員長の平野博文氏や国土交通大臣政務官の小泉俊明氏から、従来とまったく別の視点で事故対策案や意見を言える学識経験者を集められないか、という要請がありました。

実は私も、従来の原子力政策については反省点があるのではないかと考えていたところでした。これまで“原子力は安全”という神話をもとに政策が進められてきたからです。原子力工学に関わる国内の大学を鑑みたとき、彼らの研究費用をいったい誰が出すのか? といえば、それは国からです。つまり彼ら自身が原子力行政に組み込まれているため、国には逆らえない構造になっているわけです。非常にクローズドな世界で、必ずしもアカデミアが独立で自由に学問をしているという環境になってはいません。

たとえば“原子力安全委員会”という学識経験者の組織がありますが、これまでの発言を聞いていると、どうやったら安全な原発ができるかということよりも“現行の方法が安全である”ということをオーソライズするために原子力工学の学会が機能していたような気がしますね。学識経験者というものは、自分の専門知識を使ってフェアに発言すべきですが、やはり現状ではどうしても閉鎖的な感が否めません。

――では、この事故対策委員会が果たす役割について、どのようにお考えでしょうか?

藤原氏:いまの時代はオープンであり、いろいろな人の集合知を利用したほうが、むしろ安全性が高められるのではないかと思っています。たとえば原発の立地にしても、耐震構造にしても、津波から守る堤防をつくるにしても、想定外のことを考えないのではなく、あらゆる可能性を含めて検討しなければなりません。これらは地球物理学者や地震研究者などの範疇ですが、現在はその連携が分断されているのです。原子力工学者がすべてについて“安全だ”とお墨付きを与えるべきものではないと感じています。

現行のやり方が間違っていると批判するのではなく、そういうことを含めて、反省すべき時期に来ているのだと思います。学識経験者がオープンな議論を戦わせ、今後の安全対策も含めて正しい方向に導いていく――そのためにはインターネットによるアプローチで”集合知”を寄せ合うことが重要だと考えました。そこで今回の原発事故の終息に向けた情報・提案をネットで幅広く募集し、これを我々の事故対策委員会で取りまとめて、政府関係者へ提出していくという運びになりました。

――具体的にどのように意見を集約して、とりまとめていくのでしょうか?

藤原氏:まずはネットを通じて、とにかく意見やアイデアをください、とアナウンスしています。原子力工学の学会は狭いので、オープンな発言がしにくいということもありますから、最初は匿名でもよいと考えています。日本だけでなく、海外の方も含めて、ご提案をいただければと思っています。いまは、あくまで政府への助言という立場ですが、オープンな議論の中から最善の安全対策を見出せれば、具体案の実現に向けた予算もつくでしょう。そこで必要なシミュレーションや実験を行い、政府側に早期に積極的な提言を行っていきます。直接、政治判断が可能な首相官邸災害対策本部(担当窓口は東北地方太平洋沖地震対策および原子力発電所事故対応担当の馬淵澄夫内閣総理大臣補佐官)へのパスもありますので、意見が伝わりやすいものと考えています。

――福島原発の現状と問題点について教えてください。

藤原氏:国民的な最大の関心事は、福島第一原発の事故をいかに早期に終息させるかということです。いま放射線物質が少しずつ漏れているため、それをできるだけ早急に封じ込める必要があります。実際に、トラブルを引き起こしている1号機から4号機までの電気総出力は281.2万Kw。潜在的な福島第一原発の放射性物質の総量は、電気総出力から考えてもチェルノブイリ原発の8倍ぐらいの規模になるでしょう。さらに3号機は半減期の長いプルサーマル燃料を利用していますから、他の原発より気持ち悪いものがあります。

技術的な問題点としては、まず冷却の問題が挙げられます。福島第一原発は“沸騰水型軽水炉”であり、水によって冷却する仕組みです。沸騰水型というのは、核反応によるエネルギーで水を焚き、沸騰した高温・高圧の蒸気によってタービンを回す仕組みです。そして復水器で蒸気を水に戻して、また原子炉に回すという閉ループ構造になっているのです。地震の際には、緊急停止装置が稼働し、核反応の連鎖を止めるための制御棒が入りました。これはうまく動いたのですが、たとえ緊急停止してもウランは自然崩壊をするため、発熱が続きますから冷却は必要です。

――福島原発の事故の1番の問題は電源系統の故障だと聞いていますが?

藤原氏:今回の地震と津波によって、原子炉の冷却水を循環させる再循環ポンプの通常電源が停電したため、原子炉の冷却水を循環させることができない状態になりました。さらに非常用の緊急炉心冷却装置“ECCS”(Emergency Core Cooling System)も故障し、その復旧の目途もたっていません。ECCSを稼働させるためのディーゼルエンジン発電機も大津波で水没して壊れてしまったのです。いわゆる“全電源喪失”により、冷却水が循環しないことになり、原子炉として致命的な状況になりました。スリーマイルの事故では全電源喪失にはなりませんでしたから(スリーマイルの事故では、圧力逃がし弁が開きっ放しとなり、原子炉内の冷却水が蒸気となって消失、燃料棒が裸となった。外部電源は確保されていた)、今回の福一原発の場合は前代未聞の事態に至っていると言えます。もはや軽水炉ではなくなり、水が冷却媒体として使えなくなりました。

この結果、第1機から3号機で水が蒸発し、さらに一時的に空焚き状態で燃料が露出し一部溶け出したこともあり、事態が悪化しました。また3号機と4号機の使用済み核燃料プールでは、冷却水の温度が上昇し、燃料が過熱して一部が破損しているという話もあります。いまは原子炉を冷却し、炉心溶融の進行を抑えるために注水していますが、大量の水の行き場がなくなり、発電所内に高放射線率の水が溢れて、土壌・海洋汚染につながっています(4月20日時点で溜まった水の移送作業が始まったばかり)。

先日、東京電力側で原子力発電所の事故収束に向けた作業計画をまとめた工程表が発表されました。東京電力が6ヵ月から9ヵ月ぐらいで冷温停止できると言っているのは、マクロ的に冷却循環系がちゃんと回復するということが大前提です。いまは所内の放射線量が高くて、作業員も中に入れないため実際の状況もよくわかりません(最新情報では海外のロボットを導入し、原発内部の様子をモニタリングしようとしたが、大量の蒸気のため失敗したという)。もし閉ループの配管系やポンプが直らなければ、これからも断続的な注水作業を続けるしか手段がなく、原子炉の熱エネルギーが冷温停止状態に近づくのは最低でも1年ぐらいは掛ります。いずれにしても東京電力の見解は楽観的すぎますし、注水による対策も”その場しのぎ的な対処療法”であり、根本的な解決にならないことは明らかです。

――政府への具体的な対応策や提言したい点(技術的な側面)について教えてください。

藤原氏:私どもが事故対策委員会を設置し、さまざまな意見を募集しているのは、もし原子炉に水を循環させることができないのであれば、違うアプローチもあるのではないかと考えたからです。熱の伝わり方には「対流」「放射」「伝導」があります。ここでは水による液体冷却(対流)ではなく、固体冷却(熱伝導)を行うということが基本的な提言の1つです。たとえば伝導率の高い金属を中に入れると、熱を効率的に逃がせるようになります。低融点で、簡単には気体にならない高沸点の金属を利用すれば、液体のような特性で流し込め、圧力容器の熱を逃がせるかもしれません。

そこで定性的な観点から意見を募集したところ、ある物理学者を皮切りに、錫やインジュウムなどの金属を使えばどうかという候補を挙げてきました。安全性や作業性、技術的な側面も含めて、本当にそういうことが実現できるのかどうか検討してみる価値があるのではないかと考えています。どうしても軽水炉の設計者は“原子炉は水で冷却するもの”という先入観や固定概念があります。もともと金属を導入するという発想がないので、こういう点は原子力工学ではなく、物理学からのアプローチがよいのではないかと思います。
――そのほか、情報公開のありかたや政府の対応などで何かご意見はありますか?

ポリティカルな面で言えば、いま政府は東京電力にすべての原因があるとして、責任を押し付けているように見えますね。私は、今回の事故を東京電力だけの責任にするのはおかしいと思っています。やはり旧政権から現政権に至るまでの長い原子力行政の在り方が間違っていたのではないでしょうか。電力会社は基本的には株式会社ですから、株主の利益のために可能な限り低コストの発電所をつくり、営業活動をして株主に利益を還元するという構造になります。

したがって株式会社としてだけの判断だと、長期的な視野に立った物の見方ができないのです。太陽光、原子力、水力、火力といった発電方式の中から、現行コストを比較すれば、原発に舵をとらざるをえません。しかし、もし原発でひとたび事故が起きたらどれだけの被害額や補償額が具体的に要るのか、そういうことまでを含めてコストを試算していませんでした。

本来、エネルギー政策というのは、単純な株式会社の資本の論理だけでは進められるものではありせん。今回の事故を見ても分かるように、農業・林業・水産業にも影響を与えます。国も経済産業省だけでなく、農林水産省や国土交通省などの省庁が横断的に関係していますから、原子力行政を縦割りにするのではなく、もっとオープンな形で考えるべき事案であり、そもそものポリシーが間違っていたのだと思います。そういうことも含めて、これから抜本的な改革が必要でしょうね。
《RBB TODAY》

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