【連載・日高彰のスマートフォン事情】SIMロック/フリーは、端末メーカーの問題ではないのか? | RBB TODAY
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【連載・日高彰のスマートフォン事情】SIMロック/フリーは、端末メーカーの問題ではないのか?

IT・デジタル スマートフォン
iPhone 4
  • iPhone 4
  • SIMロックが解除された場合の携帯キャリアの乗り換え意向(男女別)
  • 「SIMロック解除」で変更したい携帯電話の機種(自由回答形式、ネットエイジア調べ)
  • 「SIMロック解除」の賛否(単一回答形式、ネットエイジア調べ)
  • 「SIMロック解除」で魅力的なメリット(複数回答形式、ネットエイジア調べ)
 前回、スマートフォン市場の盛り上がりによって端末と回線契約を別々に選ぶ時代がより近くなったと述べた。しかし、現状の日本市場のようにSIMロックのかかった端末しか流通していなければ、いくら消費者が自分のニーズに合った通信サービスを選びたくてもそれはかなわない。

 今年6月末、総務省は「SIMロック解除に関するガイドライン」を発表し、携帯電話事業者に対して、SIMロック解除に向けた取り組みに務めるよう要請した。またNTTドコモは、2011年度以降に発売する携帯電話端末について、販売から一定期間を経過した後にSIMロックを解除できるような機能を搭載する方針を示している。一方ソフトバンクモバイルは、iPhoneの販売権はビジネス上の武器であるとし、一部で試行的にSIMロック解除機能を持つ機種を出す用意はあるが、少なくともiPhoneについてSIMロックを外すつもりはないとの姿勢を明確にしている。

 SIMロックの是非については、既にいろいろな議論があるので筆者があらためて述べるまでもないが、注意しておく必要があるのは、少なくともiモード/EZweb/Yahoo!ケータイに対応した従来型の機種に関しては、他社のネットワークではごく基本的な機能やサービス(音声通話やSMS)しか利用できないため、現状ではあまり意味があるとは考えにくい点だ。

 そして、「日本は通信事業者の意向が強くSIMロックがかかっているが、海外では端末はメーカーが自ら販売しており、SIMフリーとなっている」といった意見があるが、実態はまったく異なる。米国などではむしろ携帯電話事業者によるSIMロック端末の販売が多く、欧州でも特に複数の回線を使い分ける必要のないユーザーは、少なからずいわゆる“キャリアショップ”で販売されるSIMロック端末を選んでいるということだ。SIMロックは善か悪かといった前提で議論すべきではなく、単に選択肢の問題として捉えるべきだ。

 さて、ここしばらくのSIMロックに関しての議論を眺める中で筆者が気にしているのは、このような制度設計の部分よりは、むしろ端末メーカーは果たしてどうしたいと思っているのかがまったく見えてこないことだ。

 そもそも、特定の通信事業者とガッチリ組んで端末を開発・販売するか、自ら仕様を決めたSIMフリーの端末を自社の販路で販売するかは、端末メーカーが決めることではないだろうか。過去には、ノキア・ジャパン(日本市場では2008年に端末の販売を終了)が国内でiモード対応端末などと並行してSIMフリー機種を独自に展開していたこともあったし、業務用機器や組み込みモジュールなどでは対応する通信方式と周波数さえ一致すれば事業者を選ばない端末もある。

 何度も話題に挙げるiPhoneではどうか。最初は米AT&Tや独T-Mobileなどの有力事業者の販路を活用して市場を垂直立ち上げし、ユーザーの裾野を広げる拡販期には複数の事業者に向けて端末を提供したり、SIMフリー機をアップルストアで販売したりと、SIMロック/フリーを自社の戦略にあわせて巧みに使い分けている。

 日本ではiPhone 3Gの発売から2年以上にわたりソフトバンクだけがiPhoneを販売している状況だが、ソフトバンクの孫正義社長は、アップルとの間に「独占販売契約」は存在しないとこれまで何度か発言している。現状は両社の利害が一致し、またアップルとしてもソフトバンク1社に端末を供給するメリットがあると判断しているため、実質的な独占販売状態が続いているということだろう。しかし、いかに急速に契約者数を伸ばし続けているソフトバンクとはいえ、ユーザーの数は無限ではない。将来、日本市場においてソフトバンクのiPhoneユーザー数が飽和した場合、アップルはドコモのユーザーも取り込みたいと考えるのが自然だろう。

 そのとき、総務省で議論されたSIMロック解除のガイドラインは、携帯電話事業者やアップルのビジネスに対してどのような影響を与えるだろうか。その答えはおそらく「何の影響も与えない」だろう。アップルのような力のあるメーカーならば、ソフトバンク経由の販売でiPhoneユーザーの伸びが止まった場合、次に検討するのはドコモなど他事業者経由の販売ではなく、アップルストアなど自社の販売チャネルを使ったSIMフリー版iPhoneの販売ではないだろうか。

 もちろん、これはiPhoneのように全世界的に影響力のある特殊な端末における事情であり、iモード対応端末をはじめとした従来型の携帯電話に関して端末メーカーが自らSIMフリー機を販売するというシナリオは考えにくい。しかし、前回述べたようにスマートフォンの時代においては必ずしもキャリアと端末の結びつきは絶対ではない。当面はまだそのようなことはないとしても、例えば将来SamsungやHTCのようなメーカーが今以上に世界市場で力を付けたとき、彼らが携帯電話事業者の思惑と関係なく独自に日本市場で端末を展開する可能性がないとは言えない。

 普通に考えるとあり得ないように思える話だが、これだけ市場環境が激変する中では数年先を見通すのも難しく、あらゆる可能性を考慮しておく必要があるだろう。いずれにしても、SIMロック/フリーをどうするといった小手先の戦術によって日本の携帯電話端末業界が息を吹き返すことはない。グローバルで通用するだけの力を持つ製品・サービスやマーケティング戦略がないままSIMロックを解除しても、メーカーの競争力にもエンドユーザーのメリットにもつながらないのは明らかだろう。
《日高彰》
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