【東京国際映画祭Vol.12】「どうやってこの映画をつくったのか?」〜審査委員長 | RBB TODAY
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【東京国際映画祭Vol.12】「どうやってこの映画をつくったのか?」〜審査委員長

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黒澤賞ニキータ・ミハルコフ&チェン・カイコー
  • 黒澤賞ニキータ・ミハルコフ&チェン・カイコー
  • 黒澤賞審査委員 黒澤和子
  • アジアの風 最優秀アジア賞「私のマーロンとブランド」のフセイン・カラベイ監督
  • アジアの風の総評をする審査委員長の上野昂志
  • TOYOTA Earth Grand Prixを受賞する「フェデリコ親父とサクラの木」のホセ・アントニオ・キロス監督&審査委員の依田巽チェマン
  • TOYOTA Earth Grand Prix審査員賞を受賞する「ブタがいた教室」の前田哲監督&グリーンアンバサダーの杏
  • コンペティション部門審査委員紹介を兼ねてスピーチする審査委員長ジョン・ヴォイト
  • コンペティション部門審査員特別賞を「アンナと過ごした4日間」で受賞し、トロフィーにグリーンのポケットチーフを被せ掲げるイエジー・スコリモフスキ監督
 映画を愛するように地球も愛してほしい。そんな思いを込めた「第21回東京国際映画祭」も10月26日に最終日を迎え、各賞の授賞式となるクロージングセレモニーが渋谷Bunkamuraオーチャードホールで催された。

 最初の表彰は黒澤明賞。受賞者は最新作で「12人の怒れる男」をリメイクしたニキータ・ミハルコフ監督と、「さらば、わが愛/霸王別姫」「始皇帝暗殺」のチェン・カイコー監督。審査員の黒澤和子氏によれば、生前の黒澤監督は映画を世界の広場に喩え、「それぞれの民族が自分の問題や心情を忌憚なく表現して、世界中の人々がわりあう素晴らしい広場なんだ」と常日頃口にしていたという。チェン監督は「私たちは黒澤監督の精神を受け継ぎ、困難なこの時代において、映画という国際的な言語で手をつないで行きましょう」と会場全体に呼びかけた。

 次に、日本映画・ある視点部門。特別賞は「大阪ハムレット」に出演の岸部一徳。作品賞には、今年9月19日に亡くなった市川準監督の「buy a suit」が選ばれた。初心に戻りたいと監督自らHDカムを持ち、撮影、編集を手がけたというプライベートフィルムが本作。「今回の受賞で、この映画に関わったすべての方にお礼ができてホッとしていると思います」と登壇した故市川監督夫人の幸子さん。関口裕子審査委員長は、「自由な語り口で、次世代の作家に向けて強い刺激を与えていただいた。議論を呼んだラストシーンについては、市川さんのある種の怒りとメッセージとして受け取りました」と審査を振り返り、「青い鳥」もまた最後まで俎上に載っていたことをつけ加えた。

 アジアの風部門・最優秀アジア映画賞の激戦を勝ち抜いたのは、トルコ映画「私のマーロンとブランド」。トルコ人女優とイラクのクルド人男性が恋に落ちるという展開はタブーへの挑戦だが、フセイン・カラベイ監督自身もクルド人として困難な状況を生きてきたという。「賞金をいただいたことでトルコで公開することができ、さらに多くの人に観てもらうことができます」と喜びを語った。

 上野昂志審査委員長はスペシャル・メンションとしてチアン・ウェン監督の「陽もまた昇る」、アン・ホイ監督の「生きていく日々」、ヤスミン・アハマド監督の「ムアラフ−改心」の3作品を挙げた。

 新設のTOYOTA Earth Grand Prixは、エコロジー、地球への関わり方、自然と人間の共生などをテーマに持つ優秀な作品に与えられる。受賞したのはスペイン映画「フェデリコ親父とサクラの木」。地球儀型のトロフィーを贈られたホセ・アントニオ・キロス監督は「アリガトウゴザイマス。トウキョウガダイスキデス!」と日本語でスピーチを行った。

 また、特別賞には故ポール・ニューマンがナレーターを務めたドキュメンタリー「ミーアキャット」、審査員賞には前田哲監督の「ブタがいた教室」が選ばれ、「敬愛する相米慎二監督が「台風クラブ」で受賞されたのと同じ映画祭に参加できたことがまず嬉しくて。そのうえ、賞までいただいて大変光栄です。相米さんが7年前に亡くなられた時は泣く機会を逃し、そのまま今に至っています。今日はひとりで泣きたいと思います」と感無量の面持ちの前田監督。さらに同作品は観客賞にも選ばれ、「子どもたちの嘘のない心の言葉が届いたのだと実感しております。子どもたちに拍手!」と主演の妻夫木聡からもメッセージが届いた。

 映画祭のメインとなるコンペティション部門各賞の発表を前にジョン・ヴォイト審査委員長は「映画人の皆さんがつくった翼に乗って世界各国へ素晴らしい旅をし、本当の意味で人間の愛について感じました。色んな意見を聞き、理解し分かち合いながら6つの賞を選ぶというのは大変な仕事でした。今回の15作品はすべてが素晴らしい。72の国と地域から寄せられた690本の中から公式作品として選ばれたのですから。私たちは敬意を表します」と、一つ一つの作品が祝福に値すると賞賛を贈った。

 最優秀芸術貢献賞には、ユニークで生命力溢れるキャラクターを優れたアンサンブルで見せたフランソワ・デュペイロン監督の「がんばればいいこともある」。同作はどんな困難にも解決策を見出そうとする主人公を演じたフェリシテ・ウワシーが最優秀女優賞を獲得し2冠に輝いた。

 最優秀男優賞を射止めたのはジャン=フランソワ・リシェ監督作「パブリック・エナミー・ナンバー1(Part1&2)」で実在のギャングの半生を演じたヴァンサン・カッセル。

 審査員特別賞には「胸が痛くなるほど美しい完璧な映画」とヴォイト審査委員長に言わしめた「アンナと過ごした4日間」。イエジー・スコリモフスキ監督は、胸元からグリーンのポケットチーフを抜き、さっとトロフィーに被せて高々と掲げ、「一番短いスピーチをして、もう一つ賞を貰いたいですね。アノー、アリガトウ、トウキョウ」と茶目っ気のある笑顔を見せた。

 そして、「あの遊牧民の家族に引き込まれた。我々審査員の疑問はどうやってこの映画をつくったのかということ。それを質問するのが待ちきれない」とヴォイト審査委員長が興奮気味に発表した最優秀監督賞は、「トルパン」のセルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督。「これはフィクションですから俳優なしでは撮れませんでした。とても良い俳優たちです。私がしたことは彼らのエネルギーを正しい方向に導くことだけです」と嬉しそうに答えた。

 さらに、最高賞の東京サクラグランプリも「トルパン」がさらった。審査は満場一致で決定し、「私たちは皆複雑で文化的で洗練された世界に住んでいますが、この映画の登場人物たちに心の在り処を教えられた気がします」とヴォイト審査委員長。ドヴォルツェヴォイ監督は「初のフィクション映画で、アジア最大級の映画祭の賞をいただけるなんて本当に名誉なことですし、将来の強みにもなります。撮影地は町から500キロも離れ、おまけに埃と風で大変厳しい場所でした。俳優たちに最初に言ったことは、我々は不可能を可能にするんだということです。そのようにしてこの映画をつくりました。アリガトウゴザイマス」と結んだ。

 グリーンカーペットに象徴される“エコロジー”という新機軸を打ち出し、21年目にして独自色を見出した感のある2008年の東京国際映画祭。上映本数315本、劇場動員数41,471人、グリーンカーペット等のイベントに34,368人、TIFFCOM等の共催企画に192,273人という9日間にわたる映画の祭典もついにフィナーレを迎え、受賞者、審査委員、TIFFボランティア・クルーの面々がステージ上に集い、来年に向けてさらなるステップアップと再会を誓って閉幕した。
《齊田安起子》
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