楽しみを奪わずに安全を守りたい——子どもたちのインターネット利用について考える研究会 | RBB TODAY

楽しみを奪わずに安全を守りたい——子どもたちのインターネット利用について考える研究会

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出席者。左からお茶の水女子大 坂元教授、ネットスター中山氏、ヤフー法務部吉田氏
  • 出席者。左からお茶の水女子大 坂元教授、ネットスター中山氏、ヤフー法務部吉田氏
  • お茶の水女子大 坂元教授
◆教育と心理学の専門家による研究会

 「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」は23日に記者説明会を開催し、研究会設立の趣旨や、具体的な研究テーマ、現在の活動内容について明らかにした。この研究会はURLフィルタリングの大手ネットスターと「Yahoo!きっず」や「Yahoo!あんしんねっと」を提供するヤフーが事務局となり、今年4月24日に発足した。活動領域は「子どもたちのインターネット利用をより豊かで安心なものにするために、関連課題の調査・研究を行う」「研究成果は広く世の中に公開することで社会に貢献する」と定義された。約半年ごとにひとつのテーマについて活動する。なお、子どもの定義は18歳以下で、小学生、中学生、高校生のインターネットの利用について対象とする。

 第1期は2008年5月から10月までの6か月間で、月に1度の定例研究会を開催する。第1期の構成員はお茶の水女子大大学院教授の坂元章氏を座長とし、品川女子学院学校長の漆紫穂子氏、群馬大学特任教授でNPO青少年メディア研究会協会理事長の下田博次氏、社団法人全国高等学校PTA連合会会長の高橋正夫氏、国立精神・神経センター精神保健研究所、精神保健計画部長で自殺予防総合対策センター長の竹島正氏、浜松大学健康プロデュース学部こども健康学科講師の七海陽氏の6名が選出された。坂元氏の専門分野はメディア心理学や教育工学など、竹島氏は社会精神学などを専門分野としている。つまり、第1期の構成員は教育分野と精神、心理学分野のエキスパートが揃った格好だ。

 第1期のテーマは「双方向利用型サイトの運営実態と課題」である。双方向利用型サイトとは、SNSやブログ、プロフィール、掲示板など、メッセージを交換したり、互いの情報にコメントを付けて交流を楽しむサイトの総称。これらは子どもたちにとって人気のある遊び場となっているが、同時に子どもたちがトラブルの被害者、加害者になる可能性がある。それにもかかわらず、これらのサイトを子どもたちが安心して利用できるためのサイト運営やサイトの利用実態、サイトの評価については親も学校も把握できていない。そこで研究会では、サイト運営側の工夫や見識を収集し、安全なサイト運営に必要な要素、子どもたちの発達段階とトラブルやリテラシー教育の関係を把握する。研究会としては一定の結論や結果を目指すものではないが、最終的には子どもや親、サイト運営者、フィルタリング事業者など評価機関に役立つようなサイトの評価方法の提案を目標とする。

◆フィルタリングを目的とした研究会ではない

 URLフィルタリング会社やフィルタリングサービスを提供している会社が事務局となっていることもあり、この「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」も教育者の立場からフィルタリングを研究する会と受け取られかねない。しかし、座長の坂元氏は「禁止サイトを認定したり、禁止事項を制定する研究会ではない」と説明する。「子どもたちにとってもインターネットや携帯サイトは必要なものになっている。その楽しみを奪わずに、いかに安全な利用方法を見つけるか」がテーマだ。ホワイトリストやブラックリストの作成、禁止サイトの選定を行う会ではない。その点がモバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)とは異なる。また総務省の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」はフィルタリングの導入促進やプロバイダ等による削除等の措置の支援など、違法有害情報に対する総合的な対応の中で、サイト評価に関する第三者機関の育成、認定、指導を実施するとしている。こうした社会背景を受けた同研究会は、いかに危険から遠ざけるか、だけではなく、安全なインターネット利用を子どもたちに提供するにはどうしたらいいかを研究するという主旨で活動する。禁止という概念を進めれば、バイクの3無い運動のように、ケータイを持たせない、インターネットにつながない、という極論にたどり着いてしまう。「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」は、安全性を確保して利用を“促進”させたい、という意図があるようだ。そうであればヤフーが積極的に関わる理由も理解できる。

 研究会の第1回は参加者に上記の主旨を共有することを確認した。本日行われた第2回では、研究会の運営方法について話し合われた。その中で構成員は「子どもにインターネットを利用させたい」という前提で、いかに安全性を持つか、という方向性を見つけようとしているようだ。第2回の会議について、坂元氏に伺った各構成員の主な意見をまとめると、たとえば漆氏は実際の教育現場で子どもたちを観察し「子どもたちが問題のあるサイトばかりを見ているだけではない」と、社会が騒いでいるほど子どもが危険に直面しているわけではないという意見だった。

 坂元氏は「子どもはインターネットを楽しむ権利を有している。大人は子どもが安全な環境でいられるようにする義務がある。安全とは精神的発達と結びついており、発達のためにはリスクを見聞きしたり教育を受けることで経験を重ねる必要がある」と説明した。

 竹島氏からは「研究会の目指すサイトの評価という視点よりも、もっと広い観点、教育や社会的な要素も検討すべきだ」との意見が出された。具体的には「ネット上で危険にさらされたときの安全ブイ(溺れたときに掴まる浮き輪)のような機関を用意すべき」という提案だ。「今はどこに相談したらいいのかわからない。それが問題」だという。これはフィルタリング=予防だけではなく、子どもが危険にあったときの対処方法の研究が必要という考え方だ。完璧なフィルタリングは難しいだけに、対処療法も必要という意見はこの研究会ならではのものだといえそうだ。

 七海氏からは「子どもだけではなく、親や教育者のリテラシー面を啓蒙すべき」という意見があったという。有識者の定めたフィルタリングに委ねるのではなく、親や子どもがサイトについての見識を持ち、自分で判断できる材料を提供すべきという考え方だ。その一例として、「(サイトに入会するときの)規約をリテラシーの場にできないか、たとえばクイズ形式で子どもにもわかりやすくするような」という案があった。確かに、子どもも入会できるサイトなのに、入会規約は大人向けの、あるいは大人でも難しい法律用語が並んでいるというサイトは多い。これでは子どもは読まず、親も確認を面倒がって、子どもがサイトに入会したいがために“同意”という形式的な手続きを踏んでしまう可能性はある。

 なお今回は、下田氏と高橋氏は欠席とのことだった。

◆今後はサイト運営者からの意見もとり入れたい

 研究会という性格上、構成員の認識に変化が起きる可能性も考慮して、そのつどの議事録を公開する予定はないという。研究会の構成員は固定しているが、今後は外部からの意見を聞く機会も設けたいと考えているようだ。また、研究会の進行を妨げない程度の傍聴者の受け入れも検討する可能性があるという。

 子どもへのインターネットの影響について、政府系機関、携帯キャリアやプロバイダでは禁止サイトや利用制限の検討ばかりが目立つ。しかし、先に述べたように「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」は文字どおり、“利用する”という前提で安全性を考える方針だ。子どもにもインターネットを使うメリットは多い。

 「たとえば子どもが転校しますね。インターネットがない頃は、以前のクラスとは絶縁されてしまう。新しい学校に馴染めなかったり孤立してしまったら、子どもの居場所がなくなってしまう。しかしインターネットのある時代では、その子が以前の学校の掲示板に参加することで消息を伝えられるし、以前の学校の仲間が励ましてくれるだろう。そういうメリットを確保したうえで、安全について考えていきたい」という坂元氏の考え方には賛同できる。

 また、危険に遭遇したときの駆け込み所が必要だという竹島氏の意見は、予防ばかりの議論が目立つなかで一石を投じることになりそうである。40代の筆者にとって、インターネットが普及し始めた時期は20代後半だった。そのとき、うっかり見てしまったネット上の死体写真集や殺人動画は衝撃的で、それが本物か特撮かは不明だが、しばらくは脳裏から離れなかった。現在の子どもたちは耐性のない多感な時期にショッキングな情報に触れてしまう可能性がある。もしあの時私が子どもだったらトラウマになっただろうと思う。心のケアが必要であることは間違いない。

 教育者や心理学者による「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」は、必ずしも結論を出すことには執着しないという。しかし、早くもユニークな視点の提示や意見が多く、今後の展開に期待される。10月には何らかの形で半年間の意見が取りまとめられるだろう。インターネットでサービスを提供する側も、それを利用する側も、耳を傾ける価値はありそうだ。
《杉山淳一》

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