【「エンジニア生活」・技術人 Vol.4】誰でも簡単につなげられるルータをつくる——IIJ・齊藤正伸氏 | RBB TODAY

【「エンジニア生活」・技術人 Vol.4】誰でも簡単につなげられるルータをつくる——IIJ・齊藤正伸氏

ネットワーク社会の必需品「ルータ」。この小さな機器の開発に情熱を燃やすインターネットイニシアティブ(IIJ)のエンジニア、齊藤正伸氏にルータやネットワークの将来像を聞いた。

エンタープライズ その他
インターネットイニシアティブ(IIJ)のSEIL(ザイル)事業部製品開発部部長の齊藤正伸氏
  • インターネットイニシアティブ(IIJ)のSEIL(ザイル)事業部製品開発部部長の齊藤正伸氏
  • ネットワーク社会の必需品「ルータ」。この小さな機器の開発に情熱を燃やすインターネットイニシアティブ(IIJ)のエンジニア、齊藤正伸氏にルータやネットワークの将来像を聞いた。
  • ネットワーク社会の必需品「ルータ」。この小さな機器の開発に情熱を燃やすインターネットイニシアティブ(IIJ)のエンジニア、齊藤正伸氏にルータやネットワークの将来像を聞いた。
  • ネットワーク社会の必需品「ルータ」。この小さな機器の開発に情熱を燃やすインターネットイニシアティブ(IIJ)のエンジニア、齊藤正伸氏にルータやネットワークの将来像を聞いた。
  • SEIL/X1
 「ネットワーク社会はまだまだ発展途上。今後、もっと便利で簡単に誰もが利用できるようになるには、ルータが肝心なのです」というのは、インターネットイニシアティブ(IIJ)のSEIL(ザイル)事業部製品開発部部長の齊藤正伸氏だ。

 1992年12月に設立されたインターネットイニシアティブ(IIJ)は、言うまでもなくインターネット接続事業として歴史のある企業だが、現在はそのネットワーク技術を活かし、セキュリティ対策やメール・Webなどのアウトソーシングサービスやシステムインテグレーションへ事業分野を広げている。最近ではNTTドコモとイー・モバイルのネットワークを利用したMVNOのサービス「IIJモバイル」を開始するなど、モバイル関連事業でも注目を集めつつある。同社のなかでは、これらのほかに核となっている事業がある。それが「SEIL」事業だ。

 「SEIL」とはIIJが自社開発したルータで、様々な管理機能のメカニズムが、このルータ自体に集約されている。また同事業部では、ルータだけではなく、「SEIL」をコントロールするためのマネージメントシステムとして「SMF」(ザイル・マネージメント・フレームワーク)を提供している。ユーザーは「SMF」の仕組みを利用することで、数百拠点のネットワークを容易に構築しシステム運用の負担を大幅に軽減することができる。SMFを利用する顧客は、大規模ネットワークを必要とする大企業やファーストフードチェーンなど。具体的には、ドン・キホーテ、コンビニチェーンのスリーエフ、モスフードサービス、ジャパンエナジーなど。ドン・キホーテでは、従来利用していたIP-VPNをSMFに替えて全国120拠点を結ぶ広帯域のインターネットVPNを構築。新基幹システムなど増大するトラフィックへの対応やVoIP導入による通話コストの削減に加え、SEILとブロードバンド回線の冗長化、ネットワーク監視による保守運用など、深夜・24時間営業の店舗に要求されるネットワークの信頼性と投資対効果を可能にしている。

 斉藤氏は事業の意義を次のように語る。「いろんな会社でシステム運用を任されている人が大勢いますが、大抵の場合、『あなた管理してよ』と頼まれて、本人も『じゃあ勉強しよう』と頑張って仕事をしています。しかし、勉強するにしても人材育成するにしても、ネットワークの細かいところまで知っていなくてはならず工数がかかるもの。全国に支店がある企業では集中的にマネージメントするのも難しい状態です。本来、企業はそんなことはしなくていいはずなんです。企業は本来のビジネスに集中すればいい。そういう考え方にたって、開発されたのが「SMF」というシステムなんです」。

■SEILの魅力

 1999年3月に入社し、SEILの開発に長年携わってきた齊藤氏。氏が同社に入ったのは、大学時代の後輩に誘われたのがきっかけ。そのとき、ちょうどSEILの2世代機が開発中で、それに搭載するOSをどうするかを検討していた。そこでネットワークプロトコルの開発などでよく使われ、移植性の高いNetBSDを採用する案が出た。その開発の適任者が自分であることを自覚し、SEILに深く関わっていった。「ルータは実はソフトの塊なのですが、私がプログラミングを担当しました。そして、2003年に2世代目の「SEIL/neu(ザイル・ノイ)」シリーズが完成。同じ年に「SMF」を発表し、2006年には特許を取得している。「2007年に部長になり、開発現場よりマネージメントの方を見る立場になりましたが、今でも仕事のスピードは部下には負けませんよ」という。

 SEILやSMFを導入するユーザーにはどのようなメリットがあるのか。それについて齊藤氏は「たとえば、ネットワークを構築するのに、ユーザーは接続後、ルータのLEDランプが赤から緑に変わるのを待つだけです。ネットワーク設定は本部のサーバーの画面上で済んでいますので」と説明する。

 普通は、ルータを各支店に設置するには、接続する端末の画面上でルータの数ぶんだけそれぞれ設定作業しなければならない。また、動作確認、メンテナンス、ファームウェアのバージョンアップなど、さまざまな煩雑でコストや手間のかかる作業が必要。それらが、サーバー側で一括で行えるのだから、大企業やフランチャイズチェーンのように、多くの支社や支店を抱える先にとっては魅力だ。さらに、今年1月に発売された「SEIL/Xシリーズ」には、Winnyフィルタなど各種セキュリティ機能を搭載。ネットワークにアタックがきたとき、各ルータが自動的にフィルタをかけてウィルスの侵入を防ぐ。

 そのほか、LANケーブルの誤接続を防止するため、各Ethernetポートを色分けしたり、ルータの各種メッセージを表示する7seg LEDなど、簡単・使いやすさを意識した機能を装備。外見にもこだわり、携帯電話のデザイン・製造を手がけるメーカーにきょう体を依頼した。「室内の見える場所に設置しても、違和感がないと思います。同製品は私にとってもお気に入りの逸品です」と話す。

■ゲームでフィールドテストやデバック

 開発者の仕事は開発だけではない。製品開発後にも重要な仕事がある。「設置後、ルータが現場でちゃんと動いているか気になるので、ゲームセンターにときどき行って遊んでいます。これも一種のフィールドテストですよ(笑)」。ゲーム機のネットワークなどにも同社製ルータが使われているのだ。

 開発の苦労話にもゲームが絡む。「デバック作業を現地で行うことはまずなかったのですが、どういうわけかお客様先に行ってデバック作業をする羽目になった辛い経験があります」という。解決するのに、2泊3日の泊まり込み作業になった。

 「新しくつくった製品にはバグが付きもの。それをいかに迅速で的確にデバックするかがプログラマーとしての大事な仕事です」という。余談だが、プログラミングの世界に興味をもつきっかけも、小学生の頃に遊んだゲームセンターのゲーム機だったという。「ゲームをつくってみたい。世界はゲームで回っていると思っていました」と当時を振り返る。それで、プログラミングを独学で、ハードウェア設計は大学で学び、エンジニアの世界に入ることになった。

 齊藤氏にはゲームと切っても切れない深い縁があるようだ。

■ビジョンは電気・水道のようなネットワークシステム

 齊藤氏は、今のSEILにもネットワークシステムにも満足はしていない。大きなビジョンがある。「当社の事業は法人向けが主体ですが、それを土台にしてコンシューマー分野に食い込んでいきたいと考えています」。

 たとえば昨年、沖電気がCEATECで出展したセットトップボックスの中に、同社ネットワークシステムを組み込んで、携帯電話で家のガスの元栓を開閉できるようにするというコンシューマー分野への応用事例があるそうだ。現在の家庭内ネットワークに改善の余地は多くあるという。「インターネット家電といわれているもののほとんどが、面倒な設定をしないとつながらない現状です。これをなんとかできないか」。また、ネットワークの設定方法や各種サポート自体をネットワーク内に組み込むことで、「コールセンターのインフラや人件費の節約になる」と見る。さらに、「ネットワークの理想形は電気・水道のような存在だと思うんです。電気・水道を使用するのに設定なんかいらないでしょ」という。これを実現するのに、同社の技術が生かせるのではと考えている。「夢はSMFから降りてくる」「みんなSEILになる」という同事業部スローガンの意味はこのことであろう。

 最後に、「エンジニアの中には、自分の今の研究分野以外のことは頭に浮かばないという人もいる。それでは、将来につながる開発はできない。今の研究に没頭しながら、将来ビジョンを見据えた努力をしなければいけないと、後輩たちや自分自身にも日頃から言い聞かせている」と結ぶ。

 齊藤氏は、管理職でありながら、大きな夢を追い続けるエンジニアである。
《羽石竜示》

特集

page top