ライブ中も、ファンの視線はスマホに向いている。
K-POPコンサートで繰り返されてきた問題だ。
その流れのなかで、「スマホを置いて」と呼びかけるコンサートツアーが、まさかのスマホアプリを発表した。
一見すると、かなり矛盾している。スマホを使わせたくないのに、なぜわざわざアプリを起動させるのか。
しかし、その仕組みを知ると、今最も勢いに乗るボーイズグループの一つであるCORTIS(コルティス)が、本気でスマホ越しではなく、“肉眼で楽しむ客席”を作ろうとしていることが見えてくる。
スマホを“置く”ためにスマホアプリを発表
CORTISは8月4日、2026年ツアー「PUT YOUR PHONE DOWN」に合わせた公式アプリ「PYPD」の提供開始を発表した。

「PUT YOUR PHONE DOWN」は、文字どおり「スマホを置いて」という意味だ。その名を冠したツアーだけに、アプリもライブ中の撮影や画面操作を減らし、ステージへの没入を促す仕組みになっている。
使い方はこうだ。ファンは会場に到着すると、アプリを使ってチェックインする。その後は、スマホに搭載されたモーションセンサーによって、歩数やジャンプ、ダンスなどの動きが計測される。
画面を消し、スマホをポケットに入れた状態でも記録は続く。つまり、ファンはステージにカメラを向ける代わりに、音楽に合わせて体を動かすことで自分の“盛り上がり”を数字として残せるのだ。
さらに、周囲で何人がチェックインしているかを確認できるほか、個人のスコアや公演ごとのランキングも表示されるという。

ネット上では、「どの都市が一番盛り上がったかを競うものなのか」「それなら燃えるかもしれない」と、早くも都市対抗戦のような楽しみ方を期待する声が上がっている。
一方で、「スマホを置かせるためにアプリを使わせるのか」「アプリを作っても、結局ファンの撮影は止められないだろう」といったツッコミも出た。
たしかに、スマホから離れさせるためにスマホを開かせるという発想は、どこかおかしみがある。
それでも、チェックイン後は画面を消してポケットへ入れればいい。CORTISが求めているのは、スマホそのものを会場から排除することではなく、ライブ中の役割を変えることなのだろう。
BTSが東京ドーム公演に感動した理由
コンサート会場では、スマホがステージを撮影し、SNSへ投稿するための道具として使われることが多かった。この新しいアプリ「PYPD」を使えば、スマホがファンのジャンプやダンスを測るための道具に変わる。
撮った映像を残すのではなく、「どれだけ会場で動いたか」を記録する。スマホを見続けるのではなく、ポケットに入れているほうが楽しめる。そんな逆転の発想だ。
そもそも、コンサート会場でスマホを構え続ける観客をめぐっては、以前から議論が繰り返されてきた。
目の前でアーティストが歌っているにもかかわらず、ファンの視線はステージではなく小さな画面へ向いている。ライブを楽しむことより、後から見返すための映像を残すことが優先されているのではないか、という疑問だ。
そんななか、“スマホの少ない客席”が生み出す没入感を印象づけたのが、今年4月に行われたBTSの東京ドーム公演だった。

日本公演では写真や映像の撮影、録音などが禁止されており、客席ではスマホ画面よりもペンライトの光が圧倒的に目立っていた。
リーダーのRMは、こんな言葉まで残している。
「僕は映画館で映画を見るのが好きです。スマホを消して2時間、ひとつの作品に集中する時間がすごく好きです。いまはどこにいてもスマホを持ってしまう時代だから、東京ドームに来ると聞いた時はすごく楽しみでした。この2時間、皆さんが僕たちを映画の中にいさせてくれましたし、皆さんのおかげで映画の主人公になれました。この日をずっと忘れません」
東京ドーム公演を見た海外ファンからも、「誰もスマホで撮影せず、ライブを全力で楽しんでいる」「これが本当のコンサート鑑賞だ」と、日本の客席を称賛する声が相次いだ。
日本では、明確な撮影禁止のルールによって“スマホの少ない客席”が作られた。それが海外ファンには、日本公演ならではの光景として新鮮に映った。
一方、CORTISが選んだのは、禁止することではなく、スマホをしまいたくなる理由を用意する方法だ。
「撮影してはいけない」と注意する代わりに、「踊ったほうが得点になる」「ジャンプすればランキングに反映される」「自分の都市を上位に押し上げられる」と、ファンの競争心や参加意識を刺激する。
撮影を我慢させるのではなく、撮影する暇がないほど動かせばいい。そう考えたとすれば、かなり大胆で、いかにも現在のファン文化を意識した試みといえる。
実際に減るのかは未知数
ただし、ファンが撮影したライブ映像が、K-POPの広がりに大きな役割を果たしてきたことも確かだ。

実際、ファンが撮影した短い映像がSNSで拡散され、ステージの魅力を知った人が新たなファンになるケースも少なくない。会場で生まれた一瞬の表情やアドリブが、公式映像とは異なる熱量を持って広がることもある。
ファンによる撮影が、結果的にアーティストの認知度を押し上げてきた面もあるのだ。
「PYPD」は、撮影を減らすことでそうした拡散効果が弱まる可能性を抱えながらも、ファンが求める「記録」「共有」「競争」を別の形へ置き換えようとしている。
ライブ映像の代わりに、自分がどれだけ動いたかというスコアが残る。SNSへ投稿する材料も、撮影した動画ではなく、公演で記録したエネルギーやランキングになる。
もちろん、このアプリが今後の公演でどこまで撮影抑制につながるかは未知数だ。スマホをポケットに入れず、そのまま撮影を続ける人もいるだろう。
それでも、ファンを責めるのではなく、撮影よりもライブへ飛び込むほうがおもしろい仕組みを作ろうとした点は興味深い。
「PYPD」のなかで評価されるのは、きれいな映像を残した人ではなく、誰よりも飛び、踊り、会場を盛り上げた人になる。
スマホを禁止するのではなく、スマホを使ってスマホの存在を忘れさせる。CORTISの「PYPD」は、そんな不思議な方法で、“撮らないライブ”の新しい形を作ろうとしている。



