「稼ぐだけ稼いで、あとは再見(サヨナラ)か」。
中国の雪上の英雄として知られるアイリーン・グー(谷愛凌)に向けられているのは、いまや羨望ではなく疑いの目だ。金メダルが生んだ愛国の物語は、いつの間にか「期待外れ」や「偽りの愛国」という批判へと転じた。
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ただ、この騒動はどこか矛盾を抱えている。
グーは2019年、今後は中国代表として戦う意向を示し、2022年の北京冬季五輪では金メダル2つ、銀メダル1つを獲得した。中国の雪上競技の歴史を塗り替え、一気に英雄的な存在となったのは事実だ。帰化をめぐる議論はあったものの、結果が批判を押し切った格好だった。

中国人の母を持つ米国出身者というミックスルーツを持ちながら、中国文化への理解が深く、中国語も流暢だとして好意的に受け止められてきた。スタンフォード大学で学ぶ学生である点や、競技外でも学業に力を入れている姿勢も、しばしば注目されている。
風向きが変わったのは五輪後だ。
膝の負傷などで大会を欠場する一方、米国での生活や学業の様子が伝わると、世論は急速に冷え込んだ。「稼ぐ時は中国人、ケガをしたらアメリカ人」というフレーズが拡散したほか、広告契約を含む収入が巨額だと伝えられたことで、嫉妬や反感が一気に噴き出した。
ただ、中国の過熱した愛国主義の文脈から離れ、グー個人として見れば理不尽に映る面もある。
彼女は中国代表として戦い、メダルを取るという目標を掲げ、それを最高レベルで実行した。中国が期待した競技力を結果で証明した。これは揺るがない。

それでも批判が止まないのは、結局のところ「成績」ではなく「アイデンティティ」の問題だからだ。
グーは米国で生まれ育ち、現在もスタンフォード大学で学んでいる。複数の文化的背景を持つアスリート自体は、世界規模で見れば決して珍しくない。だが米中対立が深まる現実の中で、彼女は政治的な象徴として過剰に消費され、その反動をまともに受けている。国籍をめぐる扱いも本人が明確にしていない部分があり、その曖昧さが議論をさらにこじらせてきた。
中国世論が不満に感じているのは、メダルが足りないからではない。中国代表として戦ったのだから、人生そのものも中国に帰属すべきだという要求が背景にある。にもかかわらず米国での生活を続け、グローバルスターとしての活動領域を広げると、「裏切り者」と罵られる。

そうした流れの中で、グーがSNSで「この5年間で中国のために39個のメダルを獲得した。あなたたちは何をしたのか」と反問したことも、感情的な暴発というより、正当な抗弁に近いと受け止める向きがある。
視線は2026年のミラノ・コルティナ冬季五輪へ向かう。そこで再び金メダルを手にすれば、中国の世論は英雄譚へ回帰する可能性が高い。一方、表彰台を逃せば、彼女に向けられる物差しはさらに厳しくなり、中国が作り上げた愛国アイコンにも亀裂が入る恐れがある。
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