韓国の精神科医が、元知事の「ADHD治療薬が麻薬中毒の原因になり得る」という発言に対して強い懸念を表明した。
7月28日、YouTubeチャンネル「精神科医 脳富豪たち」には、「ADHD薬が麻薬中毒の始まりになるというデマに答えます」と題された動画が投稿された。
この動画に出演した精神科専門医キム・ジヨン氏は、「ある有力政治家がニュースのインタビューでADHD薬について誤解を招くような発言をし、多くの人に影響を与えている。誤った情報を正すために動画を撮った」と切り出した。

続けてキム氏は、「“成績アップのため、親が子どもにADHD薬を勧めている”という点については一部同意できる。しかし、“麻薬成分が含まれていて、中毒になりやすい”という主張は、まったく根拠のない誤った発言だ」と指摘。
さらに「作曲家ドン・スパイクの名前を挙げ、“ADHD薬で中毒になり、やがてヒロポン(メタンフェタミン)に手を出した”という話を引用し、まるで親が子どもに“麻薬を勧めている”かのように語っていた」と強い懸念を示した。
ドン・スパイクは2022年、覚醒剤の常習使用により懲役2年の実刑判決を受け、2024年2月に満期出所。最近、テレビに復帰したことで再び注目を集めていた。
精神科医が明かすADHD薬のリスク
キム氏はさらに、「これは単に根拠がないというだけでなく、誤った発言であるため正す必要がある。個人を攻撃したいわけではなく、精神科医として、公人や影響力のある人物の言葉が患者に深刻な影響を及ぼしかねないからだ」と強調。

「ADHDの治療薬は医療目的で正しく服用すれば、麻薬中毒につながるリスクは極めて低く、むしろ実際よりも依存性はかなり低い」と説明した。
また、「このような根拠のない主張によって、現在治療を受けている人が不安を感じたり、偏見を恐れて治療を拒否することがある。親が不安になって子どもの治療のタイミングを逃す事例も、実際に起き得る」と警鐘を鳴らした。
さらに、ADHD薬の作用についても詳しく解説。キム氏は「一部のADHD治療薬はドーパミンの分泌を促す“刺激系”の薬で、脳内回路を刺激するという点では麻薬に似た作用を持つが、決定的な違いは“作用の速さと吸収の仕方”にある」と指摘。
「ADHD薬はゆっくりと長時間にわたって効く構造になっており、ドーパミン濃度が急激に上がることはない。一方、麻薬は短時間で急増するため中毒性が高い。つまり、処方通りに服用していれば依存症にはならない」と説明した。
「ADHD薬は麻薬ではないが、法律上“向精神薬”に分類され、“麻薬類管理法”に基づいて厳しく管理されている。そのため“麻薬扱い”されているように見えるが、あくまで乱用を防ぐための措置。医師の処方に従えば危険性は極めて低い。これは私見ではなく、多数の研究に基づいた事実だ」と付け加えた。
発言の主は元京畿道知事
問題となったのは、元京畿道(キョンギド)知事のナム・ギョンピル氏の発言。7月16日放送のMBC『ニューストゥデイ』に出演した際、韓国の青少年による薬物乱用が増加している問題に触れ、「成績のために塾講師がADHD薬を勧めるケースがある」と主張した。

さらにドン・スパイクを引き合いに出し、「“どうやって麻薬に手を出すようになったのか”と聞いたら、“ADHD薬に中毒になって、最終的にヒロポンに手を出した”と話していた」と語り、大きな波紋を呼んでいた。
(記事提供=OSEN)